順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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50順天堂グローバル教養論集 第二巻(2017)できるよう工夫がなされている(大谷、2012)。 医療通訳システムに関する米国内の先進地域の事例としてワシントン州とマサチューセッツ州の現状を詳述する。 ワシントン州は先住民族や外国出身者が多く、1970年代から異文化や言語に対応する医療システムを構築してきた。医療通訳サービスの所管は、ワシントン州社会保険サービス局(Department of Health and Human Services、DSHS)医療支援管理課である。民間病院を対象に、医療給付対象者へ医療通訳サービスが実施されている。公立病院は、自身で医療通訳の確保が求められる。1991年、LEP患者を対象とする通訳サービス提供組織、Language Inter-preter Services and Translationが州社会保健局により創設された。それにより州政府を財源として30言語以上に対応する医療通訳者が州内の病院に派遣されるようになった。2001年度、医療通訳者の平均時給は30~40ドル(3250–4330円)であった。そして1991年、DSHSが連邦補助金を受ける医療機関はLEP患者に対して無料で通訳サービスを提供することを義務付けた。しかしDSHSの医療通訳サービスへの費用が増大したことから、2003年、DSHSはこれまでの言語通訳代理店との契約を廃止し新たにブローカー制度 (Broker System) を導入した。州と既に病院搬送契約を交わしている代理店の中からブローカー (Language Interpreter Ser-vices Regional Broker) を決め、医療機関はブローカーを通じて通訳の派遣を依頼することになった。州はブローカーに一定の管理費を払い、医療通訳へ支払う費用は減少した。石崎(2013)は、ワシントン州内で人口最多のキング郡におけるブローカーHopelinkの2004年7月1日~2006年6月30日の具体的な予算編成を以下のように示している。 「Hopelinkの2年間の予算は約4.400万ドルで、その内、医療通訳部門の予算は約687万ドルと、全体の15.6%で、他は患者輸送部門の予算である。通訳部門の予算は通訳派遣回数を13万6千件、一回の派遣時の通訳費を44.10ドル、それに伴う事務管理費を6.38ドル、合計50.48ドルと推定して算出している。687万ドルの内訳を見ると、約600万ドル(全体の87.4%に相当)が通訳者に支払われ、残りの12.6%が事務管理費として使用される。」(石崎、P77) ボストンのあるマサチューセッツ州では米国の中でも7番目に移民が多く、2014年は全人口のうち移民の比率15.7%であった。また、2007年には州全体の税収のうち16.4%が移民等によるものと言われている。州政府では積極的な多文化共生政策を行っており同州はアメリカの中でも多文化共生が進んでいる。マサチューセッツ州政府には、外国からの移民等支援のための組織として「難民・移民局」(Office of Refugees and Immigrants)という部署が設置されており、移民等政策の総合窓口機能を担っている。2006年に医療改革法案(An Act Pro-viding Access to Affordable、Quality、Account-able Health Care)を成立させ全米初の州民皆保険が義務付けられた。2001年、公立、私立病院を問わず、救急部門と急性期精神科ではLEP患者診療の際に医療通訳者を用意しなければならないと定めた「救急治療室通訳者法」(Emer-gency Room Interpreter Law)が施行された。州法での義務はあくまでも緊急治療に対する通訳のみであるが、ほぼすべての病院で一般治療に対しても同様の通訳サービスを提供しており、一般的な病院では5~8言語で対応できるよう専属スタッフが置かれている。平均年収$44、805(約485万円)(salary.com、 2016)である。マサチューセッツ州では他州にさきがけて医療通訳士が団体を結成し、地位確立を目的とした活動に取り組んでいた(竹迫、2013)。医療通訳に係る費用は患者でなく全て病院が負担するが、緊急治療に対する医療通訳提供については、州政府が通訳実績に応じて補助金を支払う仕組みである。なお、国土の広い米国全体では遠隔通訳サービスが活躍している。カリフォルニア州モントレーに本社を置くランゲージライン社

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