順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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53医療通訳システムに関する海外先進地域の取り組みと日本との比較が通訳者を雇用している。3.3. シンガポール 結果2:東南アジアのほぼ中心に位置するシンガポールは、ビジネスを中心として経済発展を遂げた都市集権国家である。中華系民族が7割超と最も多いが、多民族国家である。公用語は中国語、英語、マレー語、タミー語の4カ国語であり、国民の半数以上が2カ国語以上での会話が可能である。 シンガポール政府は、早くから医療を戦略的産業として育成しており、1980年代からアジア諸国を中心に、多くの外国人患者に医療サービスを提供してきた。近隣アジア諸国への対抗策として、2003年、保健省、観光局、国際企業庁、経済開発庁は、シンガポールをアジアにおける医療のハブとすることを目的として医療キャンペーンを実施することとした。医療を外貨獲得手段として位置づけ、医療観光などの医療サービスの強化を行っている。シンガポールはかつてイギリスの統治下にあったため、医療システムも英国式である。国内の医学部は、シンガポール国立大学のみであるが、欧米の大学での医師資格も認めており、外国人医師も積極的に受け入れている。そのため外国からも患者が診療を受けやすい環境となっている。 シンガポールには国民健康保険などの強制的な社会保険制度はなく、医療費は中央積立基金(Central Provident Fund:CPF)といわれる強制的な社会保障貯蓄制度で賄われている。その他にも、税による補助金、企業の福利厚生、民間の保険などを医療費の財源としている。 CPFの一部はMedisaveと呼ばれる医療積立金制度に強制的に積立てられるが、それだけでは長期入院や高額な医療に対応することはできないため、新たに任意加入のMedishieldという制度を設けた。また低所得者層を救済するために、1993年よりMedifundという制度を設けて政府が低所得者の医療費を補填する仕組みを創設した。シンガポールの医療制度はこれら3つのMで支えられている。これら効率的な原資調達と、市民の健康状態の両面で、シンガポールの医療制度は世界で最も成功したもののひとつであると言われている。 日本人の居住者の場合は公的保険制度がないため、任意保険に加入している。駐在員の場合、会社が日本の海外旅行者保険に加入していることが多い。保険会社、契約内容によって細かく異なる。日系クリニックなどでは、病院と保険会社が提携しており、病院が直接保険会社に医療費を請求するキャッシュレスサービスが受けられるところもある。 シンガポールの病院は政府系と私立の2種類で、初診患者の8割ほどが私立の開業医の診察を受ける。シンガポールの私立病院では、病院内に各専門医がテナントとして間借りしてクリニックを開業しており、検査、処置、入院が必要な際には病院の施設を借りて行う。医師は一般医と専門医に大別され、一般医の治療範囲を超える専門的な加療が必要な場合、専門医を紹介するシステムになっている。外国人の場合私立病院の専門医にかかることが多いが、政府系の病院よりは費用は高く、その差は病院にもよるが、約10倍以上である。しかし政府系の病院では待ち時間が長いなどの問題もあり、私立の病院では費用のかかる分、設備やサービスの面で政府系の病院よりも良いことが多い。シンガポールの医療は自由診療であるため、設備やサービスに応じて費用は大きく変わる。 私立病院は街中にある開業医以外にラッフルズ病院、マウント・エリザベス病院などの大病院があり、今回調査を実施した、日系クリニックであるニチイインターナショナルクリニックのあるファーラーパーク病院は、これらの2大私立病院に並ぶことを目標にして2016年に設立された高級私立病院である。調査対象となった病院スタッフかつ医療通訳者は、病院スタッフとしてフルタイムで勤務しており、医療通訳は業務の一部であったため、医療通訳者としての正確な報酬は不明であった。Web上に公開

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