順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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55医療通訳システムに関する海外先進地域の取り組みと日本との比較期の腎疾患患者が対象)、もう1方は「メディケイド」(低所得者向けの医療保険)である。高齢者でも貧困者でもない平均的な市民は民間の保険会社を利用している。米国では、包括的医療保険改革法(オバマケア)により2014年から納税するほとんどの市民と合法的移民に保険の加入の義務づけを始めた。米国ではこれまで公的医療保険の対象外である多くの国民が、医療保険を持たないことを選択するか、持つことがかなわない環境であり、そのような場合無保険の者は自費診療に耐えず医療機関を受診することが出来ず、医療費により破産する家庭も後をたたなかった。オバマケアでは公的保険ではなく民間の保険会社が販売している既存の健康保険プランの購入を全国民に義務づけることとなり、これにより健康保険プランを購入しないという選択は無くなった。 オバマケアが定めた、保険会社がカバーすべき医療サービスの10項目に医療通訳は入ってはいないが、オバマケアにより新たに保険加入者が増加するため、医療通訳者の数は増加すると言われている(latranslation, 2013)。国の財源に関しては、オバマケア後にさらに高騰した保険料に押されて医療費にかかる国の財源がさらに圧迫されることとなった。現在、医療通訳サービスは堅持されているが、2017年に政権が共和党に交代されることから、将来また状況が変化することが予想される。 オーストラリアでは政策、法的整備などに裏付けられた通訳制度の構築や国家レベルでの統一基準があり、税金で通訳者の育成が行われているが、日本はまだ道半ばである。医療通訳を手配するための機関は、オーストラリアでは連邦政府と州政府で確立している。しかし、日本では国や地方自治体や民間の通訳エージェントと統一されていない。通訳専任ではない病院職員が医療通訳をする場合もある。オーストラリアでは通訳サービス提供にかかる費用は州政府が負担しており、サービスを実施している各地域保健機関に予算を割り当てている。しかし、日本にはそのようなシステムは一部の自治体を除いて未整備である。 シンガポールでは、政策、法的整備などに裏付けられた通訳制度や国家レベルでの統一基準は見当たらなかった。予算財源は、観察されたクリニックでは患者の海外旅行保険によってまかなわれており、国庫や地方自治体から支給される制度については見当たらなかった。通訳者は医療英語を独学で学んでいた。また医療通訳者は同時に病院スタッフであった。4. 考察 医療通訳の海外先進事例として紹介する国を米国とオーストラリア、シンガポールにしたことについては、水野(2008, p. 7)、連(2013, p. 55–105)も海外のコミュニティー通訳をめぐる状況を報告する際に米国とオーストラリアを挙げていたことから、先行研究と一致している。シンガポールは著者が調査に赴き情報を得られた国であったため挙げた。シンガポールの事例はコミュニティー通訳の状況報告という文脈では新規である。 また、米国とオーストラリアの例と日本の例を比較した場合、日本は厚生労働省が医療通訳の制度化に向けて主導している現状より、政府主体で医療通訳システムの整備を実施していることは米国とオーストラリアと一致する。その点は、シンガポールは病院スタッフが通訳をする例もあり、財源が病院もしくは個人・法人の保険になっていることから、政府主体でシステムを整備しているとは言い難い。また、米国とオーストラリアで、移民の多い数か所の州が、独自に医療通訳システムを設立していることについても、日本で在日外国人の多い横浜市や愛知県が独自のシステムを運用していることから一致する。シンガポールには州が存在しないことから、州による違いなどはみられなかった。 海外先進事例から浮上した日本の医療通訳システムがまだ整備していない課題について述べる。

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