順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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4順天堂グローバル教養論集 第二巻(2017)資料を参照して、《オフィーリア》を描いたのだろうか。 本稿は、19世紀の医学書や解剖学・精神医学のスケッチ、さらには湿版写真に焦点を当て、先に紹介した1851年前後のミレイの3つの絵画と医学との関係を考察していくものである。具体的には、ミレイの着想源を文学的な主題に求めるのではなく、19世紀イギリスの2人の医師たちの「科学」的言説を取り上げる。その医師とは、チャールズ・ベル(Sir Charles Bell: 1774–1842)とヒュー・ウェルチ・ダイアモンド(Hugh Welch Diamond: 1809–1886)である。この2人の医師たちの「科学」的言説が、ミレイが《オフィーリア》を造形する上で、不可欠な参照項となっていたことを検討していく。最終的には、医学と芸術が交差しながら、(1)《両親の家のキリスト》(図2)、(2)《マリアナ》(図3)、(3)《オフィーリア》が「3部作」を構成し、円環をなしていることを確認したい。2. 《両親の家のキリスト》(1849-50)2.1. 聖家族と病者の身体 まず最初に、ミレイの名を一躍有名にした《両親の家のキリスト》からはじめてみたい。 《両親の家のキリスト》(図2)は、「聖家族」「磔刑図」「ピエタ(哀悼)」の「3つ」のキリスト教図像を、大胆にも「1つ」に組み合わせた初期ミレイの野心作である。キリストの「誕生」と「死」という異なる時間が同時に重ね合わせられ、中世美術以降の伝統的手法でもある異時同図法が用いられている。だが、ミレイはこの作品で、ヘンリー8世の宗教改革以降、芸術が宗教と切り離された美術アカデミーに対し、芸図2. ミレイ、《両親の家のキリスト》、1849–1850、油彩画、テート・ブリテン所蔵、 出典:Smith (2007) p.47図3. ミレイ、《マリアナ》、1850–1851、油彩画、テート・ブリテン所蔵、出典:Smith (2007) p.53

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