順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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90順天堂グローバル教養論集 第二巻(2017)グをし、ある特定の集団、領域に属する人びとの意識や行動を説明、予測する領域密着型理論を作り出すねらいがあり登場した。それゆえ、GTAを用いる多くの研究者の傾向としては、データから立ち上がる概念を生成するコーディングのやり方を強く意識するあまり、既存の分析概念を安易に適用しない傾向がある。したがって、実はデータと対話し、背景にある文化を含めた深い分析・解釈の助けとなる他領域の分析概念をGTAと併せて援用しづらい状況があると考えられる。 以上の状況を踏まえ、本稿の目的は、「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ」に、他分野である談話分析や言語人類学の分析概念を接合し、深い解釈と厚い記述を試みることである。この試みは、分析概念をデータにあてはめて、その特徴を説明するforcingな営みではなく、分析概念を使い、語られたこと(what is said)のなかに非明示に介在する文脈性(社会関係、文化、アイデンティティ)を、インタビューの過程で語り手によって「なされていること」(what is done)を手がかりに浮かび上がらせ、解釈に深みを出し、記述に厚みをもたせるものである。本論では、まず、M-GTAを概説し、つぎに、M-GTAに基づいて行ったデータ分析例を示す。その後、他分野の分析概念を用いてデータを再分析し、解釈した例を示し、他分野の分析概念を援用した領域横断的方法の効果を例証したい。2. M-GTA M-GTAは、インタビュー・データ(生データ)から複数の似通った具体例を同定し、それらの具体例を包括的に説明できる概念(concepts)を生成し、つぎに、概念同士の関係性をいいあてるカテゴリー(categories)を作り、さらに、カテゴリー間の関係性を考察して現象(対象としている人びとの意識や行動)を構成するプロセスを結果図として示す。アメリカのある大学付属英語研修プログラムに3週間参加した学生の意識と行動の傾向を説明する結果図の例を見てみよう。図1では、概念(例:「現実と願望」)、カテゴリー(「例:多文化の理解」)、プロセス(結果図全体)が示されている。 また、M-GTA独自の試みとして、データの分析・解釈を深めるための「分析ワークシート」がある。分析ワークシートは、「概念名」、「定義」、「バリエーション」、「理論的メモ」という4つの項目によって構成される(次頁の表1)。具体的な手順としては、まず、インタビュー・データから研究の目的に応じて抜き出した事例を分析ワークシートの「バリエーション」に書き入れ、複数の類似した事例を説明できる「定義」を考案し、定義を短く伝える「概念名」を案出する。したがって、「概念名」がバリエーション、図1. 結果図の例(UCLA奨学研修における学生の経験)(石黒・山下・川成, 2012, p. 116より)

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