順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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91修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける「厚い記述」への近接つまり、データに基づいて生成されるのである。さらに、バリエーション(事例)同士の関係、概念と他の概念の関係などに関するデータ分析中に想起するアイデアをメモし、研究における思考過程を外在化し、記述する箇所が「理論的メモ」である。 分析ワークシートを用いることで、どのデータから概念が生成され、生成のプロセスでいかなる思考過程があったかを明示化できる。これは、ブラックボックス化しがちであった概念生成の過程をオープンにでき、研究を評価する読み手や理論(結果図)を用いる応用者たちが、概念、カテゴリー、結果図の妥当性を検討しやすくする。3. 分析概念導入の前提・妥当性 本節では他領域の分析概念をM-GTAの分析ワークシートに接合する前提や妥当性について2つの観点から論じる。まず、インタビューの「社会指標的側面」(シルヴァスティン・小山, 2009, p. 31)をとらえることが深い解釈と厚い記述に至る鍵となるという観点から、社会指標的側面を浮かび上がらせる分析概念の必要性を述べる。つぎに、M-GTAが提示する「インターラクティブ性」や「研究する人間」という方法概念の論理的帰結として、M-GTAへの分析概念の導入がM-GTAの提唱者である木下によって許容されうるものである点について言及する。3.1. 記述の厚みを生む社会指標的側面 記述の厚みを生む深い解釈とは何であろうか。シルヴァスティン・小山(2009)が提示したコミュニケーションの言及指示的側面と非言及指示(社会指標)的側面という見方に依拠し、深い解釈について考察したい。インタビューやその他のテクストが構築されるプロセスでは、語り手がなんらかの対象をことば(や非言語)で指し示し、その対象について述べる。その「いわれていること(what is said)」を言及指示的側面といい、いわれていることと重なりあうように同時に行われていること、「なされていること(what is done)」を社会指標的側面という。たとえば、日本語話者の若者によって使われる傾向にある「マジで」という語彙を伴う発話行為は、その行為自体がその使用者がもつ社会(世代)的アイデンティティを明瞭に指標する(別の世代 [高齢者] が用いると、また特別な意味が指標される)。コミュニケーションで指標される文化的営為を理解するには、言及指示と社会指標の両側面をとらえる必要がある(cf. シルヴァスティン・小山, 2009)。 一般に、社会指標的側面は、語りの背景にある社会関係、社会的アイデンティティ、文化的規範などを表し、それらは多くの場合非明示的に(多くの場合、なにげなく、自然に)表現される。そうした指標の意味を読み解くことで、言及指示的側面と社会指標的側面双方がコミュニケートする内容をとらえ、文化の解釈が深まり、文化を体現する語り手の認識世界の理解に表1. 分析ワークシートの例(木下, 2007, p. 241の表を基に筆者が作成)概念名夫介護者への社会的関心の広がり定義夫が家事介護をしていることに外部者が関心を持ち始めたことへの驚きバリエーション(具体例)*夫の方が家事や介護をしてるっていう点ね。まぁこれからの社会、こういうのは当たり前になるんでしょうけどね、やはりこの夫の方がっていうところでちょっと、あのー、もう研究の手って言うかね、あのー関心を持っている人達もいるんだなってことが、あのー、ちょっと驚きでしたね。(A氏、1頁)理論的メモ・介護の当事者になると、自分の日常的生活空間とその中での生活が中心となり、関心が内側方向に、時には、閉塞的になりやすいが、自分の現在の状況について外側からの関心が示されていることに気が付くのだとすれば、その意味は何か?(以下省略)

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