順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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92順天堂グローバル教養論集 第二巻(2017)つながる。したがって、社会指標的側面を浮かび上がらせるうえで有効な分析概念が必要となり、本稿では、社会指標性の分析、解釈の助けとなる分析概念を導入するのである。 M-GTAに他領域の概念を導入する妥当性を示すためのもう1つの前提として、M-GTAに修正を加えることに対する木下(2007)の見方を説明する必要がある。そこで、「インターラクティブ性」(木下, 2007, pp. 88–99)という概念を用い、その妥当性について説明したい。3.2. 研究目的に応じた方法の工夫 木下(2007)は、客観的な分析を中立的な立場からできる存在として研究者を位置付けず、研究のプロセスと相互に影響を与えあう存在であるという見方を示し、「インターラクティブ性」及び「研究する人間」という概念を用いてその位置付けを説明する。 インターラクティブ性については、まず、1)調査協力者と研究者の相互行為を介してデータが収集される点、2)データ分析における「分析焦点者」(木下, 2007, pp. 155–159)と研究者の関係、3)研究者が提示する分析結果とその応用者とのかかわり、という3つの点について自覚的にとらえる枠組みが示されている。2)の「分析焦点者」とは、ある特定の集団に属する人びとが経験する現象や彼らの意識や行動を説明、予測するために、その集団に属する人びとを抽象化して表現した存在で、「実在するのではなく、解釈のために設定される視点としての他者」もしくは「内的他者」(木下, 2007, p. 92)である。 たとえば、「研究する人間」の目的に応じ「分析焦点者」として「日本企業に属し、3カ国以上の多国籍なメンバーで構成されるチームを率いる日本人リーダー」という人物像を設定することができる。その分析焦点者が「何をどのように経験するのか」「なぜそのような経験をするのか」といった視点から「研究する人間」がデータを分析・解釈するのである。 3)の応用者とのかかわりについては、理論を応用者に使ってもらい、その妥当性を検証するというプロセスを示すと同時に、理論が原理的に未完であり、常に応用者に対してオープンで修正・更新されうるものであることを示唆している。結果図を作成する際も、応用者の視点を意識しつつ、学術的な用語を応用者にもわかりやすいものに変えるといったメタ語用論的な発想も出てくる。 インターラクティブ性を敷衍して考えると、研究者の目的・関心というものが自覚的にとらえられていることの重大性に気づかされる。上記3つのインターラクティブ性には、「何に関心をもち、何を目的に研究を行うか」という研究者の意図が介在するからである。こうした研究する人間の意図性を「バイアス」とし、研究の妥当性を低下させるものとせず、それを自覚的にとらえ、積極的に認め、活用しようとするのがM-GTAの特徴である。そうであれば、研究する人間に「深い解釈」を実現するという意図がある場合、その意図に沿った分析概念をM-GTAの基本的な枠組みに導入するという理路が見えてくる。M-GTAを提唱した木下(2007)自身も以下のように述べている。M-GTAは手順と技法の形式だけで成り立っているのではなく、基礎におく考え方によって形式が整えられているので、独自の考えに基づき工夫を施して自分の目的に適したものにしていくのは何の問題もありません(p. 11)。次節では、他分野の分析概念をM-GTAの分析ワークシートと併用し、社会指標的側面の特徴を浮かび上がらせ、深い分析、解釈に至る例を示す。4. 分析ワークシートと談話分析概念の併用 コミュニケーション(インタビュー)で動的に生成される社会関係、文化、アイデンティティ

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