順天堂グローバル教養論集_第二巻_2017年3月(ISSN2424-0001)
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94順天堂グローバル教養論集 第二巻(2017)する上司の文化的アイデンティティが指標されると同時に、異文化にも対応できる考え方をもつ者としてのアイデンティティが示されている。以上のような文化やアイデンティティに関する解釈の深さ、記述の厚みが出てくる。 つぎに、フッティングを用いて分析する。「書かなきゃ」や「言わないといけない」といういい方は、部下に対して上司側から必要以上のことをしなければならない、つまり、上司側から相手に合せる形でコミュニケーションをとらなければならない、という「上司が部下に合せる」もしくは「上司が部下のやり方を尊重する」という上司と部下の関係づけが示されている。さらにいえば、「異文化を背景とする部下に合せる日本人の上司」としてのアイデンティティがインタビューというコミュニケーションの場で達成されている。 さらに、コンテクスト化の合図を用いて分析・解釈を進めたい。まず、分析ワークシートの概念名として「外国人に対する明示的な指示の必要性」という概念名を本稿で仮に提示したが、その概念名の生成に至るまでの軌跡はどうなっているのだろうか。コンテクスト化の合図という分析概念でその軌跡をたどってみると、まず、「書かなきゃ」「具体的に」「フォーマットを作るからここにこういうこと入れて」といった記号が共起関係にあり、明示性が求められていることが推論できる。また、語りには、概念名として採用した「指示」ということばはないが、「やって」「入れといて」という発話行為により、指示に関する内容であることがわかる。さらに「なきゃいけない」「まで言わないといけない」は「必要性」を推論させる。以上のように、分析・解釈における思考過程を外在化し、研究の読み手に対してより精緻に証拠立てながら「概念名」に至る推論の過程を示すことができる。 最後に、メタ・メッセージを用いて分析・解釈したい。命題的情報ではなく、言外に伝え合うという観点から、「外国の文化」とは対照となる「自国の文化」という想定がそこにはあり、上述したように明示性を必要とする「外国の文化」と対照的な関係にある「非明示的」表現を用いる傾向がある自文化が言外に伝えられている。さらに、「なきゃ」といった表現から、必要に応じて部下に合せたやり方に切り替え、異文化に対応する意識をもつ者というアイデンティティも指標されている。 以上のように、4つの分析概念を用いて、社会指標的な分析・解釈をデータと対話しながら実践することができた。その結果、分析ワークシートの記述も自ずと変わってくる。たとえば、概念名は、まさに言及指示的な「外国人に対する明示的指示の必要性」というものであったが、それを「異文化との差異を踏まえた明示的指示への切り替え」と書き換え、異なる文化間の関係性をより前景化して示す表現が可能となる。その関係性を踏まえ、上司が他者(部下)にあわせて指示の質を切り替える意識をもっていることをより明瞭に説明できる。「定義」は「外国人に対しては明示的な形で指示をする必要性があること」としていたが、「明示的な指示が好まれる異文化と曖昧に指示がなされる傾向に表2. 分析ワークシートの例概念名外国人に対する明示的指示の必要性定義外国人に対しては明示的な形で指示をする必要性があることバリエーション(具体例)*えー少なくとも外国の文化をバックグラウンドに持っている人間とはやっぱ書かなきゃいけないし、具体的にこれとこれをやってとか、フォーマット作るからここにこういうこと入れといてまで言わないといけない場面もありますし。(A氏)理論的メモ外国人とひとまとめにして述べているが、外国人でも明示的指示が必要ない人材はいないのか?

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