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研究

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がん微小環境とがん浸潤・転移機構の解明 (折茂)

   最近の研究ではがん内の線維芽細胞ががん悪性化及び治療抵抗性に寄与していることが分かってきています。
さらにこれらの線維芽細胞に授けられたがん悪性化促進能は、がん進展過程で安定的に維持されていることより、がん内線維芽細胞はがん治療標的と考えられています。 このような癌がん促進性線維芽細胞の起源、分化過程、がん細胞との相互作用などを生物学的に理解しながら治療に役立てたいと考えています。
詳細は、https://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/bunshi_byori/dr_orimo.htmlにお示ししております。

 また、本研究に取り組んでいる折茂彰准教授の研究グループのホームページ もご参照ください。

 

結節性硬化症の発症機序の解明と治療法の開発を目指す研究 (小林、北野)

   私たちは、ヒトの結節性硬化症(tuberous sclerosis complex; 以下TSC)という常染色体優性遺伝病(指定難病158)の発症機構解明と治療法開発を目指して研究を行っています。TSCは、脳内の巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma; SEGA)、腎臓の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma; AML)、肺のリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma; LAM)、皮膚の血管線維腫(angiofibroma)、心臓の横紋筋腫(rhabdomyoma)等、多様な腫瘍性病変を生じます。また、胎児・小児期より脳内の結節や難治性てんかんが高率に合併すると共に、自閉症や発達障がいの発生なども認められます(詳しくは難病センターのホームページhttp://www.nanbyou.or.jpを参照)。TSCの原因遺伝子として、TSC1(9番染色体)とTSC2(16番染色体)という2つの異なる遺伝子があり、いずれかの機能喪失型変異を片親から受け継ぐと発症することが知られています。私たちは、マウスやラット(Ekerラット)においても、TSC1やTSC2の相同遺伝子(Tsc1およびTsc2)の変異により、常染色体優性遺伝形式により腫瘍(主に腎腫瘍)が発生することを明らかにし、それらを動物モデルとして研究を進めています。ヒトにおいても動物モデルにおいても、腫瘍の発生には原因遺伝子の2ヒット(遺伝的に受け継がれた変異ともう一方の野生型遺伝子に生じた変異)が関連していることから、TSC1とTSC2はいわゆるがん抑制遺伝子として分類されます。言い換えると、遺伝子の機能が無くなることにより腫瘍発生の最初の段階がスタートすると考えられるのです(腫瘍発生を防ぐブレーキが解除される)。また、神経精神症状には片方の遺伝子変異だけで生ずる異常(ハプロ不全)が関係しているとも言われています。
TSCとモデル動物の遺伝様式・腫瘍発生は似ている
TSC1とTSC2の遺伝子により作られるタンパク(hamartinとtuberin)は結合して複合体を形成し、mTORキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)複合体1(mTORC1)の活性化因子である低分子量GTP結合タンパクRhebの働きを弱める機能を持っていることがわかっています。もともとmTORの酵素活性は、免疫抑制剤の一つであるラパマイシンによって阻害されることが知られており、現在ではラパマイシンおよびその誘導体がTSCの腫瘍やてんかん等の治療に実用化されています。しかしながら、腫瘍に関しては、限定的な効果であり腫瘍細胞の根絶は困難なことや非感受性の症例があること、また神経精神症状についても、対症療法的と言える一過性の効果にとどまることが予想されており、根治的な治療法となり得ていないのが現状です。さらに、症状を長期的に抑えるためには、投与を長期間に渡り継続する必要があり、そのために生ずる無視できない副作用の問題があります。このため、hamartin/tuberinの役割のうちRheb-mTORC1経路の抑制とは異なる未知の役割を明らかにすることなど、新たな治療薬の作用点になる分子・経路の探索を課題して、世界で研究が進められています。
 TSCの発症頻度は約6千人から1万人に1人と考えられており、前述の多様な症状の現れ方が症例毎によって大きく異なることが知られ、同じ家族に複数の患者の方々がいる場合にも、症状の出方が大きく異なることも頻繁に見られます。比較的軽度な症状を示す症例が偶然発見されることもしばしばであり、潜在的な患者数は予想されるより多いのではないかと推察されています。そのような多様性が生ずるのは、患者の方々が持つ遺伝情報の背景の違いや、生活習慣の差異など、多くの要因が関わっているからだと予想されます。それらの要因を一つ一つ明らかにし、病気の成り立ちを詳細に調べることも重要な課題であり、その情報を元に、個々の病態に応じた個別的な治療・予防法を開発・実現することが望まれます。
私たちは以下のような動物モデルを活用した研究を通じ、これらの課題の解決に資するべく活動を行っています。

新たな治療標的となる分子・経路の探索
 原因遺伝子の変異によって生ずる細胞内外の反応系の異常は、Rheb-mTORC1経路の異常だけとは限りません。Rheb-mTORC1以外の経路を多数特定することができれば、それらは、新たな治療薬の標的経路・分子の候補となり、単独、あるいはラパマイシン系薬剤との併用などに用いることができます(下図、左)。また、mTORC1がリン酸化するタンパクは既知、未知のものを含めて数多くありますが、個々のタンパクリン酸化がラパマイシン系薬剤によって阻害される度合いは異なっており、比較的耐性を示すリン酸化もあります。それらの耐性を示すリン酸化が関わる下流の反応系も治療薬の候補となるかも知れません(下図、中)。さらに、ラパマイシンによって活性低下が起こったmTORC1の肩代わりをする経路が細胞増殖促進などに働く可能性もあります(下図、右)。
ラパマイシンと併用する薬剤の候補
 私たちは、モデルマウスの腎腫瘍から樹立した細胞株に、野生型遺伝子の発現系を導入する実験系や、ラパマイシン処理してmTORC1を抑制する実験系を用いて、それらの条件下で変動するmTORC1関連、非関連の反応系を分析しています。

細胞系譜と腫瘍発生の関連を調べるための遺伝子欠損ES細胞
腫瘍の発生は、細胞種特異的な分子機構によって起こります。幹細胞から複数の細胞に分化する際に、特定の細胞の種類に向かう場合にのみ腫瘍発生のスイッチが入ることが想定されます。TSCの腫瘍発生をそのような増殖と分化との関連から研究するために、私たちはTsc2遺伝子を完全に欠失する(ホモ変異)ES細胞をEkerラットから樹立することに成功し、世界に先駆けて報告しました。それらの細胞を用いて、培養レベルで様々な細胞に分化させることにより、腫瘍発生の細胞特異性等を解明するべく研究を進めています。それらの実験系は異なる細胞の相互作用の様子を培養レベルで調べることや、神経系の異常の解明にも有用なものとなります。また、ES細胞をラットの個体に戻す実験系も活用できることから、個体レベルでの実証実験も進めることが可能となります。
ES細胞の移植腫瘍(テラトーマ)

 これらの研究に加え、脳神経系の症状の発生について、多くの研究室との共同研究を進めています。また、日本結節性硬化症学会(http://jstsc.kenkyuukai.jp/information/)、順天堂大学医学部附属順天堂医院等との協力の下、患者・家族の方々との交流も行い、多方面から診療の発展に向けた活動も行っています。
 

子宮内膜癌におけるミスマッチ修復異常の検討 (佐伯、梶野)

   散発性子宮内膜癌の20-30%にマイクロサテライト不安定性 (MSI)、ミスマッチ修復異常があると言われていますが、その臨床像や組織学的所見は、ミスマッチ修復異常を伴う大腸癌と比較して、不明な点も多いです。
 そこで、当施設における散発性子宮内膜癌手術検体を用いて、ミスマッチ修復蛋白の免疫組織化学染色、MSI検査を行い、ミスマッチ修復異常の有無を明らかにするとともに、これらの組織学的特徴、背景 (子宮内膜、腫瘍免疫、女性ホルモン)について調べています。
子宮内膜癌ミスマッチ修復蛋白免疫組織化学染色
 

卵巣漿液性癌発癌に母体の妊娠期ストレスが与える影響 (佐伯)

   妊娠期に母体が受けたストレスは母体だけではなく子の健康に影響を与えると言われています。そして、一部の癌における発癌リスクにも影響を与えます。
 本研究では、卵巣癌 (漿液性腺癌)モデルマウスを用いて、妊娠期の母体ストレスが子の発癌にどのような影響を与えるかを検証しています。
卵巣漿液性癌発癌に母体の妊娠期ストレスが与える影響
 

大腸がんにおける遺伝子異常から見た発育進展の研究 (冨田)

   大腸がんは昨今さらに増加傾向にありK-ras遺伝子異常の影響される分子標的治療が施行されています。古典的な腺腫・癌相関を逸脱する発育・進展過程を呈する野生型K-ras遺伝子大腸がんについて当初は網羅的遺伝子解析方法CGH法を用いた検討を行ってきました。また、女性難治性大腸がんでがん遺伝子K-RAS codon 13変異が有意に多いことから、その原因について検討しています。
  冨田茂樹, 他.染色体分析の今と未来 「大腸の臨床分子病理学」, 藤盛孝博編集, 寺野彰監修,
  メジカルビュー社, 東京, 198-203, 1998.
  冨田茂樹, 他. 新しい遺伝子染色体分析法Comparative Genomic Hybridization法を用いた
  遺伝子スクリーニング. The Medical & Test Journal 641: 6, 1998.
  Saito N, Tomita S, et al.. Analysis of KRAS mutations in cases of metastatic colorectal cancer
  at a single institution in Tochigi, Japan. Pathobiology 81:133-137, 2014.
 

消化管リンパ球増殖性疾患 (冨田)

   消化管粘膜はヒトでは最大の免疫装置です。多種多様の抗原に日々遭遇し、免疫応答を繰り返しており、何らかの誘引からリンパ球増殖性疾患が消化管で発生します。消化管リンパ球増殖性疾患にはリンパ節と同様に反応性病変および腫瘍性病変が存在し、内視鏡生検で病理組織診断によって鑑別されます。その鑑別方法を検討しています。
  冨田茂樹, 他. 胃MALTリンパ腫の病理. 日消器誌 100: 540-545, 2003.
  冨田茂樹, 他.内視鏡医のための腸管病理組織学入門(第12回) 大腸腫瘍性病変(悪性リンパ腫).
  G.I.Research 18:161-168, 2010.
  冨田茂樹, 他. 直腸胚中心進展性異形成(PTGC). 臨床血液 56. 935, 2015.
 

腎炎における間質障害の研究 (冨田)

   腎炎研究の主体は糸球体ですが、その予後は間質尿細管病変によることが知れています。
様々な腎炎(悪性腫瘍 特に造血器疾患)および悪性腫瘍療法(化学療法・分子標的療法・チェックポイント療法)での診断方法について検討しています。
  冨田茂樹.腎生検病理診断法 21. 悪性腫瘍と腎障害. 腎と透析 57: 558-564, 2004.
  冨田茂樹, 他.悪性腫瘍と腎障害 「腎生検病理アトラス」, 日本腎臓学会, 腎病理診断標準化委員会,
  日本腎病理協会編集, 東京医学社, 東京, 277-280, 2010.
  冨田茂樹, 他.【M蛋白関連腎症の最新の進歩.病理と臨床 34:1296-1303, 2016.
  冨田茂樹, 他. 悪性腫瘍の治療に関連した腎障害. 第62回日本腎臓学会学術総会,2019.
 

分子マーカーを用いた病理診断法の開発 (橋爪)

   病理診断では、腫瘍の原発巣を検索するために免疫組織化学染色が用いられます。
肺腺癌はTTF-1という抗体で染色することができますが、甲状腺癌にも染まってしまいます。
 一方、PAX8は甲状腺・腎臓・ミュラー管由来臓器の発生に重要な転写因子であり、その正常組織およびそれらに由来する腫瘍に発現しています。そのため、例えば卵巣漿液腺癌と悪性中皮腫、または腎集合管癌と尿路上皮癌の鑑別に用いられます。
 PAX8ポリクローナル抗体を用いた他の研究において、PAX8が本来発現しないはずの組織(Bリンパ球・胸腺腫瘍など)で陽性を示すことが報告されており、またPAX8ポリクローナル抗体がPAX5やPAX6と交差反応を示すことも示されています。
 私たちは研究で、962例(肺癌687例・悪性中皮腫40例・胸腺腫瘍138例・甲状腺腫瘍97例)のPAX8ポリクローナル・PAX8モノクローナル・PAX5・PAX6抗体の染色性および、in situ ハイブリダイゼーションを用いたPAX8 mRNAの発現を調べました。甲状腺腫瘍では、PAX8ポリクローナル・PAX8モノクローナル抗体それぞれに98.0%と高い陽性率を示しました。甲状腺腫瘍以外では、167例の腫瘍がPAX8ポリクローナル抗体に陽性を示しましたが、そのうち54例がPAX5および/またはPAX6抗体にも陽性を示しました。
 In situ ハイブリダイゼーションにて、PAX8 mRNAは甲状腺腫瘍以外には発現していなかったことより、甲状腺腫瘍においてPAX8モノクローナル抗体は高い特異性を示し、ポリクローナル抗体より優れていることが示されました。
ES細胞の移植腫瘍(テラトーマ)
 PAX8モノクローナル抗体はポリクローナル抗体と同等の感度を有し、特異度はより優れています。PAX8モノクローナル抗体はポリクローナル抗体と比較し、PAX8を発現する腫瘍の診断により有用で適したマーカーであることを示しました。


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