教室紹介、スタッフ紹介、研究、業績等、順天堂大学大学院 免疫病・がん先端治療学講座に関する様々な情報をご案内します。

順天堂大学大学院 各研究分野紹介 免疫病・がん先端治療学
大学院医学研究科各研究分野紹介一覧免疫病・がん先端治療学講座 各研究分野紹介一覧へ

研究


 

目的

 

  当講座の研究目的は、特に免疫病・がん領域で自らの基礎研究成果を臨床応用にまでつなげるトランスレーショナルリサーチの実践(ベンチからベッドへの具現化)にある。担当教員の森本は、CD26分子に着目し、モノクローナル抗体の開発、cDNAの単離を世界に先駆けて行い、CD26の機能と構造の分子生物学的解明及びその臨床応用の研究に従事し、CD26分子の研究では世界の最先端を歩んでおり、免疫学分野において2011年にhighly cited researcherにも選ばれている。良質なヒト化CD26抗体の開発に成功し、フランスで悪性胸膜中皮腫を含むCD26陽性腫瘍への第I相臨床試験を施行し、特記すべき有害事象は認められず、安全性が確認されるとともに、期待される治療効果を示唆する結果も得られた。この成果をもとに平成29年 6月から本邦でも悪性胸膜中皮腫に対する第I相臨床試験をスタートさせ、平成30年3月までに第I相臨床試験は順調に進み、予定されていた投与が終了し、さらに第II相臨床試験へと進む予定である。この抗体はin vitro及びin vivoで悪性胸膜中皮腫のみならず腎がん、肺がん、卵巣癌、及び自己免疫疾患や移植片対宿主病等の難治性免疫疾患、アレルギー疾患にも有効な効果を得ている。当講座では、がん、免疫病、アレルギー疾患などの基礎研究からその応用研究までの研究を遂行し、特にCD26分子の免疫細胞及びがん細胞における機能の解析、CD26抗体の分子作用機構の解析、その会合分子やCD26リガンドの分子生物学的解析、in vivoでの各種疾患モデルの確立とCD26分子標的治療薬の有効性評価、及びそのバイオマーカーの確立を中心として行っている。

 
  CD26分子は様々な疾患の病態に関与する
 
 

主な研究テーマ

 

  担当教員の森本は世界に先駆けてCD26分子の研究をスタートして以来(J Immunol. 1989)、今日までCD26研究を継続している。CD26は766アミノ酸から成り、N末端が細胞内、C末端が細胞外に位置するII型膜タンパク質である。細胞内ドメインがわずか6アミノ酸と非常に短いことが特徴で、大部分が細胞外ドメインで構成される(図1)。

  CD26分子の構造と機能
 
  CD26と免疫
 

  CD26の機能の一つにdipeptidyl peptidase IV(DPPIV)酵素活性があり、N末端から2番目にプロリンまたはアラニンを持つペプチドの2アミノ酸を切断する。生体内でインクレチンホルモンやケモカイン、神経ペプチドなど様々な生理活性物質がその基質となり、活性が調節されることがわかっている。また、CD26はDPPIV酵素活性以外にも、collagenやfibronectin、adenosine deaminase(ADA)など様々なタンパク質と結合・相互作用し、細胞遊走や免疫系において重要な役割を有している。また、ヒトT細胞においてCD26は強陽性・弱陽性・陰性の三相性の発現パターンを示し、T細胞受容体(TCR)からのシグナルとともにT細胞の活性化を誘導する共刺激分子として機能する。一方、マウスでは末梢T細胞におけるCD26の発現も弱く共刺激分子としても機能しない。このことから免疫系におけるCD26分子の機能を解析するためには、マウスではなくヒトT細胞を用いることが不可欠であり、当研究室ではヒト免疫の研究を中心に行っている。
  これまでにCD26によるヒトCD4 T細胞の活性化メカニズムの解明に主に取り組み、CD26のリガンドとしてcaveolin-1の同定(Proc Natl Acad Sci USA. 2004)や、CD26下流シグナルを明らかにしてきた(Mol Cell Biol. 2005, J Biol Chem. 2007)。近年は、CD8 T細胞のエフェクター機能獲得におけるCD26共刺激の役割の解明(Immunology. 2013)や、CD26シグナルのnegative feedback機構の解明(J Immunol. 2015a)、ヒトCD26陽性T細胞が炎症のエフェクターとなるin vivo疾患モデルマウスの確立とCD26分子標的治療薬の有効性評価(Br J Haematol. 2013, J Immunol. 2015b)、さらには全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ、アトピー性皮膚炎や乾癬などの難治性自己免疫疾患の患者検体を用いてCD26陽性T細胞の機能異常に着目した研究を行っている。

 
  CD26とがん
 

  CD26はT細胞に高発現している以外にも、血管内皮細胞や上皮細胞、線維芽細胞など多様な細胞に発現しているが、肺がんや腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん等の様々ながん細胞にも高発現していることがわかっている。中でも、悪性胸膜中皮腫はアスベストばく露が主な原因となり発生するがんで、潜伏期間が20-40年と非常に長く、国内での患者数は2030年頃にピークを迎えると予想されている。さらに中国やインド、アジア諸国を中心に、今後世界レベルで患者数が益々増加することが予想されているが、現在の標準治療法では生存期間中央値が約1年と非常に短く、有効かつ安全な新規治療薬の開発が望まれている。
  当研究室では良質なヒト化CD26抗体の開発に成功し、CD26が正常の胸膜組織には発現していない一方で、悪性胸膜中皮腫(特に上皮型)に高発現していることを見出し、さらにマウス担がん実験においてCD26抗体が優れた抗腫瘍効果を示すことを明らかにした(Clin Cancer Res. 2007)。サルでの前臨床試験を終え、フランスで悪性胸膜中皮腫を中心としたCD26陽性腫瘍に対する第I相臨床試験をスタートした。特記すべき有害事象は認められず、安全性が確認されるとともに、期待される治療効果を示唆する結果も得られ、悪性胸膜中皮腫に対する有望な治療薬として取り上げられた(Lung Cancer. 2014, Br J Cancer. 2017)。この結果を踏まえて平成29年6月から本邦でも悪性胸膜中皮腫に対する第I相臨床試験をスタートさせた。平成30年3月までに第I相臨床試験は順調に進み、予定されていた投与が終了し、今後、第II相臨床試験が予定されている。
  ヒト化CD26抗体は、抗体特有の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性・補体依存性細胞傷害(CDC)活性に加え、CD26陽性腫瘍に抗体が結合することによる直接的な腫瘍増殖抑制作用があることを明らかにしてきた(Clin Cancer Res. 2007, PLoS One. 2013, Cancer Cell Int. 2016) (図2)。さらに、CD26抗体は免疫系に影響する可能性も考えられ、CD26抗体投与による血中DPPIV酵素活性の低下がケモカインの切断を妨げ、免疫細胞の腫瘍組織への集積を促進する可能性(Nat Immunol. 2015)や、近年がん治療法として非常に着目されている免疫チェックポイント阻害薬のように腫瘍免疫増強にも作用する可能性が考えられる。このように、ヒト化CD26抗体の抗腫瘍作用メカニズムの更なる解明とともに、CD26抗体が治療効果を発揮する患者をより絞ることができるような治療効果や副作用の予測因子の同定にも取り組んでいる。また、CD26抗体と既存の抗がん剤や新たな分子標的治療薬との併用効果の解析を行っており(Br J Cancer. 2014)、副作用が少なく安全かつ有効なCD26抗体との併用療法を模索している。さらに、CD26分子によるがん細胞の増殖能・浸潤能の促進メカニズムの解明に関しても継続して取り組んでいる(PLoS One. 2014, Biochem Biophys Res Commun. 2014)。

  ヒト化CD26抗体の抗腫瘍作用メカニズム
   
  CD26とその他の疾患
 

  その他に、当研究室では、CD26共刺激によって活性化されたヒトT細胞が多量に産生する新規炎症性サイトカインとしてIL-26を見出し(J Immunol. 2015)、IL-26の中和抗体を樹立し(特許出願. 2017)、炎症性腸疾患や関節リウマチ、乾癬など多臓器の慢性炎症に関与していると考えられるIL-26の新たな生物活性の解明やIL-26を分子標的とした革新的な治療法の開発も行っている。
  また、CD26分子やそのDPPIV酵素活性による痒み誘導因子(神経ペプチドSubstance P, Gastrin-Releasing PeptideやケモカインIP-10など)の活性制御に着目した、難治性痒みの発症メカニズムの解明と新規治療法開発のための基礎研究も行っている。さらに、CD26は近年世界を震撼させたMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスの受容体であることが報告された(Nature. 2013)。当研究室では、MERSウイルスのCD26への結合をほぼ100%ブロックできるモノクローナル抗体も開発している(J Virol. 2013)。

 
 

  以上のように、当講座は、特に難治性免疫疾患とがんの両軸に対して、自らの基礎研究成果を臨床応用にまでつなげるトランスレーショナルリサーチの実践(ベンチからベッドへの具現化)を目的とした基盤的研究に取り組んでいます。

 
 
Copyright © 2005 JUNTENDO All Rights Reserved.