研究の概要
妊娠は精子と卵子、二つの配偶子が受精することから始まる。受精卵の子宮内への着床や妊娠維持には、ヒト子宮内膜が「脱落膜細胞」へ形態的かつ機能的に変化し、免疫応答を獲得する必要がある(図)。最近、正常な「脱落膜細胞」は着床前胚のシグナルに反応し、良好胚を選択するセンサーシステムがあることが報告され、ヒト子宮内膜の不適切な脱落膜化過程に起因する「胚に対する免疫機構や胚選択能の欠如」が、原因不明の着床不全や習慣流産と関与することが明らかになった。もともと体外受精における妊娠率は1個の受精卵で20−40%程度であり、形態学的良好胚を複数回移植しても妊娠しない反復着床不全患者は胚移植後の妊娠率は3-10%と非常に低いため、精神的にも金銭的にも負担が大きい。臨床レベルで胚の一部を採取し、染色体検査を行い、染色体異常のない胚を子宮内に移植する着床前診断が日本でも行われ始めた。

しかし着床前診断後の胚移植時の妊娠率は30−60%であり、胚だけが着床障害の原因ではないことは明らかである。我々は子宮内膜脱落膜化過程のコルチコステロイドシグナル経路や脂溶性ビタミンのレチノイド、ビタミンDが着床や流産と関与することを明らかにしてきた。更なる研究が原因不明と考えられてきた着床不全や習慣流産に悩む患者さんの治療法につながると考えている。
共同研究
- 杉山レディースクリニック・成育医療センター:
体外受精における反復着床不全患者の治療に関する研究
- 順天堂大学 糖尿病内分泌内科・新橋夢クリニック・高崎ARTクリニック:
甲状腺ホルモンの卵巣予備能に対する影響
- 国立成育医療研究センター:
ヒト子宮内膜間質細胞のジェネティックとエピジェネティクスの解析
- セントマザー産婦人科医院:
卵活性化因子PLCz の円形精子細胞注入法(ROSI)への応用
- 加藤レディースクリニック
低ゴナドトロピン性性腺機能低下症患者の生殖補助医療