日本アフェレシス学会雑誌 Vol. 23, Supplement: pp. 56-57, 2004

自然免疫と生体防御
−好中球、活性酸素、抗菌ペプチド−

長岡 功

順天堂大学医学部生化学・生体防御

Abstract : 白血球の中で好中球は、自然免疫による生体防御において重要な働きをしており、侵入してきた微生物を貧食し、殺す作用をもっている。好中球は、細菌由来のペプチド、補体成分(C5a)、アラキドン酸代謝産物(ロイコトリエンB4)、ケモカイン(IL-8)など走化性因子を感知し、血管内皮細胞や基底膜に接着し、血管外に遊出する。さらに、好中球は感染部位に向かって遊走し、細菌に付着して、これを食作用によって取り込む。好中球が刺激物質によって活性化されると、加水分解酵素などの顆粒成分や活性酸素を放出する。そして、好中球が過度に活性化されると、組織障害など生体にとって好ましくない影響をおよぼす。また、好中球は分化し切った細胞であり、アポトーシスをおこしやすい状態にある。種々の病態において好中球のアポトーシスが抑制されると、寿命の延びた好中球が組織・臓器障害を引きおこすことが知られている。近年、好中球の走化性、食作用、活性酸素生成などの機能に関わる受容体やシグナル伝達分子の本体が明らかにされた。白血球接着不全症LAD(leukocyte adhesion deficiency)は、好中球の接着分子の異常によって、好中球が血管内皮細胞上をローリングあるいは接着することができなくなる疾患であり、好中球は感染巣に浸潤できず感染症に罹りやすくなる。LAD type Iはインテグリン分子の異常により、一方、LAD type IIはセレクチンリガンド分子の異常によっておこる。また、好中球が運動するためにはアクチン線維の形成と再構築が必要である。湿疹、血小板減少、免疫不全を主徴とするウィスコット・アルドリッチ症候群(Wiskott-Aldrich syndrome; WAS)では、好中球機能も障害されているが、これはアクチン線維の形成と再構築に関わるWASタンパク質の異常による。好中球が生成するスーパーオキシド(O2-)に由来する活性酸素種(H2O2、HOCl、・OH)は殺菌において重要な働きをしている。スーパーオキシド生成酵素(NADPHオキシダーゼ)欠損症である慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease; CGD)では、好中球の殺菌能が低下し、重篤な感染症を繰り返す。活性酸素は、生体防御の面からは必須のものであるが、その過剰生成は、炎症、組織障害、発ガン、老化の引き金になる。一方、生体内には種々の抗菌ペプチドが存在し、宿主を病原微生物の感染から守るために働いている。抗菌ペプチドにはいくつかの仲間があるが、デフェンシンとcathelicidinファミリーのペプチドが、特に重要な役割を果たしている。これらの抗菌ペプチドは、多様な生物種に存在し、しかも、グラム陽性菌、陰性菌のみならず真菌、ウイルスなどに対して幅広い抗微生物作用を示すことから、進化の過程で保存された抗菌物質として自然免疫における役割が注目されている。そして近年の研究により、デフェンシン、cathelicidinが殺菌作用を有するだけでなく、樹状細胞、Tリンパ球、単球に遊走因子として働くことが明らかになった。これらの免疫担当細胞は獲得免疫において重要な働きをしているので、デフェンシンやcathelicidinは感染局所において抗菌ペプチドとして自然免疫に関与するだけでなく、免疫担当細胞を動員することによって獲得免疫に関与する可能性も示されている。さらに我々は、cathelicidinの仲間のCAP11が強力なLPS(lipopolysaccharide)中和能をもち、LPS刺激による好中球アポトーシスの抑制を阻害する(好中球のアポトーシスを誘導する)ことによってエンドトキシンショックに対して防御的に働くことを明らかにした。本講演では、上記の知見を基に、生体防御における好中球、活性酸素、抗菌ペプチドの働きについて概説する。