内毒素・LPS研究会
トップページ

第20回内毒素・LPS研究会 抄録

演題1

私のLPSとの出会いとその後の研究
○西島 正弘
昭和薬科大学
 私は、大学院学生時代から「生体膜脂質の代謝と機能」について研究を行ってきた。その流れの中で、ウィスコンシン大学Raetz博士の下に留学し、大腸菌の膜リン脂質の遺伝生化学的研究に携わり、ホスファチジルグリセロール(PG)生合成欠損変異株の分離を行った。結果として、目的の変株を分離することができたが、この温度感受性変異株は、非許容温度においてPGが生合成できなくなることに加え、未知の脂溶性物資を蓄積することが判った。リピドX、リピドYと命名した脂質は、化学的分析からリン脂質ではなくリピドAの生合成中間体であろうと推定された。
 私が帰国してから数年後に、ウィスコンシン大学のKuni Takayama博士によりリピドXとYの構造が決定された。この結果から、それまでに推定されていたリピドAの構造が再検討され、阪大の芝・楠本教授グループによる質量分析計やNMRを用いた構造解析、並びに合成化学的研究によりリピドAの基本構造が決定され、生物活性の面からも構造の正しさが証明された。一方、Raetz博士は、リピドXとYがリピドAの生合成中間体であることを含め、リピドAの生合成機構のほぼ全貌を明らかにした。このように、リピドXとYの発見は、リピドA/エンドトキシンに関する研究、さらには現在繁栄する自然免疫研究に大きな貢献をしたものと考えている。
 私は、リピドXとYと巡りあったことが契機となり、エンドトキシン研究の仲間入りをし、エンドトキシンのシグナル伝達機構を中心に研究を行ってきた。今回は、(1)エンドトキシン耐性変異株の分離とエンドトキシン受容体に関する研究、(2)MD2によるタキソールの認識機構に関する研究、(3)Monophosphoryl Lipid A (MPL)の生物活性の分子機構に関する研究について紹介させて頂く。

演題2

共生細菌による腸管免疫制御システム
○國澤 純
東京大学医科学研究所炎症免疫学分野
 腸管には多くの免疫担当細胞が存在し、病原体に対する生体防御と食餌性物質や常在細菌などに対する免疫学的寛容を巧みに制御することで腸管組織での恒常性を維持している。腸管免疫の有する免疫学特徴の一つとしてサイトカインなどの生体内分子だけではなく、腸内細菌や食餌性成分などの腸内環境因子を免疫制御に用いていることが挙げられる。特に腸内細菌に関しては無菌マウス等を用いた古くからの研究より、腸管免疫の発達には腸内細菌からの刺激が必要であることが知られており、また近年のゲノム技術をもとにした腸内細菌の解析技術の発展もあり、これまで多くが未解明であった腸内細菌を介した免疫制御の実体が明らかとなってきた。
 腸管組織に点在するパイエル板は、腸管組織における主要な免疫誘導組織として機能しているが、無菌マウスにおいてその組織形成・機能不全を起こしていることからも分かるようにその発達に腸内細菌からの刺激を必要とする。我々は、宿主免疫系と直接相互作用し得るパイエル板組織内において存在する共生細菌の解析を行い、その代表的共生細菌としてAlcaligenes を同定した。Alcaligenes はパイエル板組織内部に生存、定着しているだけではなく、特に樹状細胞の内部に存在することで、パイエル板を介した免疫制御に関与していることを見いだしている。本発表においては、Alcaligenes によるパイエル板組織内共生の免疫学的機能の詳細を発表すると共に、最近我々が見いだした腸内細菌を介した刺激により誘導されるユニークなIgA産生細胞など、腸管組織における免疫共生システムについて紹介したい。

演題3

根粒菌リポ多糖の植物根に対する一酸化窒素産生誘導能とその構造
橋本 雅仁1、谷下 洋平1、隅田 泰生1、村上 英一2、永田 真紀2、下田 宜司2、東 四郎2
 九町 健一2、阿部美紀子2、内海 俊樹2
鹿児島大学 大学院理工学研究科 1化学生命・化学工学専攻、2生命科学専攻
 Mesorhizobium loti は根粒菌の一つであり、マメ科植物であるミヤコグサ L. japonicus に共生して窒素固定根粒を形成し、固定したアンモニアを窒素源として供給することで植物の生育を促進している。根粒形成は特定の菌と植物の間にのみおこり、両者間の情報伝達物質の交換が重要であることが知られている。これまでに、情報伝達物質として植物のフラボノイドや菌のリポオリゴキチンが用いられていることがわかっており、その宿主特異性が明らかになっている。最近M. loti 菌体が、L. japonicus の根に接触した際、一酸化炭素 (NO) を一過的に誘導することが報告された。非共生パートナーの根粒菌はNOを誘導しないこと、病原細菌を接種するとNOを継続的に産生することも明らかになった。NOはシグナル分子として植物の防御系を駆動することから、一過性のNO誘導反応が共生成立の初期過程に影響を与えている可能性が考えられた。しかしそのシグナル伝達機構については明らかになっていない。M. loti の属するグラム陰性菌のグループは、細胞表層にLPS等の複合糖質を有している。また動物ではこれらが自然免疫を活性化することでNO等のメディエーターを誘導することが知られている。そこで、M. loti の複合糖質に注目して、そのNO誘導能と化学構造について検討した。その結果、LPSがNO誘導能を持つことがわかった。また部分構造である糖鎖部分およびリピドA画分ともに活性を持つことも分かった。次に活性の強かったリピドA画分について化学構造を検討し、ジアミノグルコースとウロン酸から構成される3糖と、リン酸1つ、脂肪酸6本より構成される構造であることを明らかにした。さらに活性化に必要な構造を検討したところ、リン酸基が最も活性に影響することが分かった。以上の結果は、植物においてもリピドAが植物生体防御系の駆動に関与していることを示しており、動物と類似した活性化経路が存在する可能性を示唆するものである。

演題4

Heat Shock Protein 70 (HSP70) によるNF-κBシグナルの不活性化機構
田中 貴志
理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 炎症制御研究ユニット
 樹状細胞は、生体内に侵入してきた細菌やウイルスを、細胞表面のToll様受容体によって認識し、転写因子NF-κBを活性化する。活性化されたNF-κBは、細胞質から核内に移行し、IL-12やIL-6などのさまざまな免疫応答遺伝子の発現を誘導することにより、一連の炎症反応を惹起する。ところが一方では、過剰かつ無制限なNF-κBの活性化が自己免疫疾患などの炎症性疾患を発症させることも示唆されている。よって、このNF-κBの活性化のON/OFFをうまく制御することが、適切な炎症反応の進行に重要であると考えられる。
 われわれは、LIM蛋白ファミリーに属する核内蛋白PDLIM2 (PDZ and LIM domain protein-2) が、NF-κBに対するユビキチンリガーゼとして炎症反応を負に制御することを明らかにした(Tanaka T et al, Nat. Immunol., 22, 729-736, 2007)。すなわち、PDLIM2はC末端部のLIMドメインを介してNF-κBをユビキチン化するとともに、N末端部のPDZドメインを介してNF-κBをPML nuclear bodyという核内の小分画に移動・隔離させる。PML nuclear bodyは、タンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームを多く含んでおり、ユビキチン化されたNF-κBは最終的にこのPML nuclear bodyにおいてプロテアソームによって分解されることにより不活性化される。さらに、PDLIM2がNF-κBをユビキチン化・分解する活性を調節するメカニズムを解明する目的でPDLIM2と結合する分子を探索したところ、シャペロン分子として知られているHaet Shock Protein-70 (HSP70) が同定された。HSP70は無刺激の細胞においては細胞質内にのみ存在しており、TLR刺激により核内に移行する。そして、HSP70が、PDLIM2と結合するとともに、プロテアソーム結合蛋白であるBAG1と会合することにより、PDLIM2-NF-kB複合体のプロテアソームへの輸送およびNF-κBの分解を促進していることが明らかになった。
 以上より、HSP70は、樹状細胞においては、PDLIM2によるNF-κBの分解を促進することで炎症反応を負に制御していると考えられる。HSP70は、本来は。シャペロン分子として、蛋白合成過程における正確なフォールディングを補助するか、あるいはミスフォールドしてしまったタンパク質を分解するかの選択を行う品質管理を担っている。本研究により、転写因子を積極的に分解することでシグナル伝達を負に制御するというHSP70の新たな機能が明らかになった。

演題5

Unc93B1はTLR7とTLR9の応答性を相反的に制御し、過剰な自然炎症を抑制する
福井 竜太郎、三宅 健介
東京大学医科学研究所・感染遺伝学分野
 Toll-like receptor (TLR)は約10のファミリーから構成されており、主に糖脂質やタンパク質などを認識するグループと、主に核酸を認識するグループとに大別することができる。後者はウイルスや細胞内寄生菌に対する免疫応答に関わっているとされ、TLR7はRNAなどを認識し、TLR9はCpGモチーフを持つ非メチル化DNAを認識する。
 しかしながら、核酸は宿主と病原体との間に大きな構造の差がないため、これらTLRが宿主の核酸を認識し、自己免疫疾患などを起こす可能性が示唆されている。そのため、TLRが過剰に応答することのないように、様々な分子が応答の制御に関わっている。このような分子群のうち、我々はUnc93 homolog B1 (Unc93B1)と呼ばれる分子がTLR7とTLR9の応答性を相反的に制御していることを明らかにした。
 この機能はUnc93B1のN末端側に依存的であり、34番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したマウス(D34A変異マウス)はTLR7の応答性が亢進し、TLR9の応答性が減弱する。すなわち、野生型のUnc93B1は、TLR9に傾斜した応答性を保つことにより、TLR7の応答性を抑制していると考えられる。D34A変異マウスはこのTLR7/TLR9バランス制御機構が崩壊した結果、脾腫、肝炎、血小板減少、糸球体腎炎などの多彩な表現型を自然に呈し、1年以内に7割近くが死に至る。
 また、自然免疫系の活性化ばかりではなく、B細胞やT細胞も活性化を受けており、表現型に大きく影響を与えている。特にT細胞はメモリー細胞の増加、ICOSの発現増強、Th1およびTh17細胞への分化亢進が認められるなど、著しく活性化されている。こうしたT細胞の活性化はB細胞に依存的であり、成熟B細胞を欠損させたD34A変異マウスはT細胞の活性化が認められず、脾腫などの表現型も認められない。
 なお、核酸は代謝などによって自然に生成される物質であり、通常時から一定量の核酸がTLRによって認識されていると考えられるが、このような内因性リガンドに対する応答をも包括した概念として「自然炎症」が提唱されている。上述したD34A変異マウスは様々な表現型が自然に現れることから、核酸由来の自然炎症に対して重要な知見を与えると期待される。同時に、相反的なTLR7/TLR9バランス機構は自然炎症の不可逆化・致死性化を防ぎ、生体の恒常性を維持するために重要であると考えられる。

演題6

C型レクチンを介する結核菌糖脂質の認識と応答
○山崎 晶
九州大学・生体防御医学研究所・分子免疫分野
 結核菌は宿主の細胞性免疫を強く活性化することが知られている。強力な細胞内寄生菌に対抗するために宿主が進化上獲得してきた生存戦略であると考えられる。この強力な作用を免疫賦活に利用する試みは古くから行われており、結核死菌を主成分とする完全フロイントアジュバント(CFA)は広く知られるところである。ところが、その詳細な作用機序は未だに良く分かっていない。
 結核死菌中には、コードファクターと呼ばれる強い免疫賦活作用を有する非タンパク成分が存在することが知られていたが、後にこれはトレハロースジミコール酸(trehalose-6,6’-dimycolate; TDM)という糖脂質と同一であることが判明した。実際、TDM、並びにその合成誘導体は様々な免疫応答を強く惹起し、アジュバントとしても用いられているが、その作用を担う宿主側の受容体は半世紀以上不明であった。
 近年我々は、Mincle(macrophage inducible C-type lectin)と呼ばれるCタイプレクチンレセプターがTDMの受容体であることを同定した。本研究会では、受容体同定に至った経緯と、その結果明らかになった新たな知見をご紹介したい。