内毒素・LPS研究会
トップページ

第24回内毒素・LPS研究会 抄録

演題1

炎症促進分子HMGB1の炎症性疾患・病態における役割の解析
柳井 秀元
東京大学生産技術研究所 分子炎症制御学
 自然免疫系は、ウイルスやバクテリア等の生体への侵入、または細胞や組織の損傷に際し、それらを検知するパターン認識受容体(pattern recognition receptors; PRRs)を備えている。これら受容体が病原体由来分子や自己由来分子を認識することで下流のシグナル伝達系が活性化され、I型インターフェロンや、TNF-αに代表される炎症性サイトカイン等を誘導すると同時に、適応免疫系の活性化を促進することが知られている。
 High-mobility group box 1(HMGB1)タンパクは、主に核内に存在するが、一部は細胞質にも存在し、リポポリサッカライド(Lipopolysaccharide; LPS)、IL-1βなどの炎症性サイトカインの刺激や細胞死に伴い、細胞外にまで放出される性質を有する大変ユニークな分子である。細胞外に放出されたHMGB1は、PRRsであるToll様受容体(Toll-like receptors; TLRs)やreceptor for advanced glycation end products(RAGE)によって認識され、炎症性サイトカインを誘導することが知られている。この性質から、HMGB1は敗血症や虚血・再還流モデルにおいて、また炎症が関与する自己免疫疾患の病態の増悪と関連があることが指摘されているが、HMGB1遺伝子欠損マウスが致死性であるため、生体でのHMGB1の役割については解析がなされていなかった。我々はHMGB1が外来核酸による免疫応答に関与することを見出した。また、HMGB1と強く結合するオリゴ核酸(ISM ODN)を用いることで、種々の炎症性疾患の病態を抑制できることを示している。おそらくこのオリゴ核酸によるHMGB1の阻害によってこれら病態が抑制されたものと考えられる。さらに最近、我々はHMGB1コンディショナルノックアウトマウスを樹立し、LPS誘導性ショックなどの疾患モデルにおけるHMGB1の役割について解析を進めている。これらの知見について紹介したい。

演題2

細菌・真菌の細胞壁構成分子とC型レクチン受容体による認識
西城 忍
千葉大学真菌医学研究センター
 C型レクチンは膜タンパク質で、細胞外のCDRと呼ばれる領域で糖鎖を認識する。C型レクチンファミリーに分類される分子は非常に多数あるが、そのうち樹状細胞(DC)やマクロファージに発現する遺伝子は、マウスでは6番染色体のテロメア側にクラスター状に存在し、相同性も高い。これらの分子は自然免疫に関わる分子であることが予想されていたが、ほとんどの分子の機能は不明であった。そこで私達は、このクラスター上に存在するDectin-1 (Clec7a)およびDectin-2 (Clec4n)の欠損マウスを作製し、生体防御機構における役割を解析した。その結果、これまでに1)Dectin-1、Dectin-2は、それぞれ真菌細胞壁のβグルカン、αマンナンのレセプターであり、活性酸素種(ROS)やサイトカイン産生を担っていること、2)Clec4n-/-マウスは病原真菌のCandida albicansC. albicans)に対し易感染性になり、WTマウスと比較し感染後の生存率が低下することなどを明らかにしてきた。
 Dectin-1のリガンド糖鎖であるβグルカンを有する生物は、比較的真菌に限定されている一方で、Dectin-2が認識する糖鎖構造である高マンノース構造は、細菌やウイルス、哺乳類にも存在する。今回私達は、Dectin-2が病原細菌の抗酸菌細胞壁の認識と感染防御にも重要な役割を担っていることを見出したので紹介する。
参考文献
  1. Saijo, S., et al., Dectin-1 is required for host defense against Pneumocystis carinii but not against Candida albicans. Nat. Immunol., 8; 39-46 (2007).
  2. Fujikado, N., Saijo S., et al., Dcir deficiency causes development of autoimmune diseases in mice due to excess expansion of dendritic cells. Nat. Med., 14; 176-180 (2008).
  3. Saijo, S., et al., Dectin-2 recognition of α-mannans and induction of Th17 differentiation is essential for host defense against Candida albicans. Immunity, 32; 681-691 (2010)
  4. Yonekawa, A., Saijo S., Hoshino Y., Miyake Y., Ishikawa E., Suzukawa M., Inoue H., Tanaka M., Yoneyama M., Oh-Hora M., Akashi K., Ymasaki S. Dectin-2 is a direct receptor for mannose-capped lipoarabinomannan of mycobacteria. Immunity, 41; 402-413 (2014)

演題3

ナイセリア属病原性細菌の産生するLOSの構造、合成、およびその免疫化学
山ア 良平
鳥取大学 農学部生物資源環境学科
 髄膜炎はウイルスと細菌感染により引き起こされるが、細菌性髄膜炎のほうが感染による後遺症も深刻で、乳幼児の場合、致死率も高い。この細菌性髄膜炎の主要な起炎菌が、ナイセリア属の髄膜炎菌である。この細菌に対する有効なワクチン開発は、1980年代初期のoutbreakを契機に欧米を中心に取り組まれてきている。しかし、北ヨーロッパでは乳幼児の感染件数は多く、血清型B株の髄膜炎菌に対する有効なワクチンは未だに存在しない。
 私達は、髄膜炎菌に対する感染予防のワクチンおよび感染診断ツールの開発を目的として、細菌が細胞外膜に産生するリポオリゴ糖(lipooligosaccharide, LOS)、特に、その糖鎖、オリゴ糖鎖(OS)に着目して研究を進めてきた。
 今回、過去30年近く関わった研究の歴史と成果を以下のような流れで報告する。
(1) LOSのOSの構造解析とモノクローナル抗体の特異性分析
・糖鎖の生合成経路の解明とワクチンの標的となる糖鎖の検索
(2) OSの化学合成
・分岐糖鎖合成の中間体の開発と分岐糖鎖の構築
(3) LOSを認識する殺菌性ヒト抗体の精製と特異性分析
・OSがヒトにおいて免疫原性を有することの実証
(3) OS内の部分糖鎖コンジュゲートの合成と免疫化学分析
・数種以上の部分糖鎖エピトープがOSに存在することの証明
 これらの一連の研究から明らかになったことは、髄膜炎菌は、宿主の糖鎖を生合成、あるいは、in vivoで糖鎖の改変による抗原性模倣により、宿主の免疫監視機構をくぐり抜ける可能性がある。しかしながら、宿主であるヒトの殺菌性IgG、IgMは、OS内の数種以上の糖鎖構造を認識し、これらはコア糖鎖を含む部分糖鎖であることを解明した。このような部分糖鎖エピトープを用いることにより、髄膜炎菌に対する有効なワクチン、あるいは、感染診断の簡便なツールを開発できる可能生が高いことが明らかとなった。

演題4

ヒト好中球におけるCD14とラクトシルセラミドを介したLPSシグナリング
中山仁志1, 2、○岩渕和久1, 2
1順天堂大学医療看護学部、2順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所

 グラム陰性桿菌の菌体壁成分であるリポ多糖(LPS)は、好中球やマクロファージなどのシグナル伝達機構を活性化し、強力な炎症反応を惹起する。この自然免疫応答はCD14やToll様受容体などのパターン認識受容体によって開始されることが知られている。CD14分子は、グリコシルホスファチジルイノシトールで細胞膜に固定されたGPIアンカー型タンパク質であり、脂質二重層の外側に存在する。したがって、LPSシグナルをCD14分子がどのように細胞内へと伝達しているのかの分子機構は未だによく分かっていない。これまでに我々は、ヒト好中球の細胞膜上において、ラクトシルセラミド(LacCer)が膜マイクロドメイン(リピドラフト)を形成しており、LacCerのC24極長鎖脂肪酸を介してSrc family kinaseのLynと会合することで、細胞内にシグナルを伝達することを明らかにしている。そこで今回我々は、ヒト好中球におけるCD14とLacCerとの関係について検討し、新たな知見を得たので報告する。
 ヒト好中球におけるCD14とLacCerの局在を共焦点レーザー顕微鏡により解析したところ、両分子は細胞膜上で共局在していた。また、好中球からマイクロドメインを分離し、抗LacCer抗体による免疫沈降を行ったところ、CD14が共沈された。また、好中球をLPSにより5分間刺激すると、Lynが強くリン酸化され、このリン酸化は抗CD14抗体で阻害されたが、抗TLR-4抗体では阻害されなかった。好中球をLPS刺激した後に、細胞を可溶化し、抗LacCer抗体による免疫沈降を行ったところ、LPS刺激・無刺激好中球のいずれからもLynが同程度共沈されたが、LPS刺激をすることでLynの強いリン酸化が認められた。以上の結果から、ヒト好中球におけるCD14依存性LPSシグナルはLynと会合したLacCerの膜マイクロドメインにより仲介されることが示唆された。

演題5

生殖補助医療(ART)におけるTLRsの機能と内毒素および細菌成分の制御
-精子に発現するTLRの機能解析とその知見を活かしたARTにおける精子処理法の考案-
藤田 陽子
ウイメンズ・クリニック大泉学園
生殖器の細菌感染は,男性不妊リスクを増加させることが報告されている.精液中に細菌が混入すると,白血球が増え,精子運動性が低下する.精液中に増えた白血球は,TLRsを介して細菌や細菌性内毒素を認識し,サイトカインファミリーを活性化することによって精子をアポトーシスへ誘導する.ヒトではこのような重篤症例を膿精液症といい,不妊要因の一つと考えられている.一方,白血球が検出されない精液でも,精子の形態は正常でありながら,運動性や受精能が低い症例があり,私達はこのような精液中のLPSやペプチドグリカン濃度が高いことを見いだした.そこで,これら内毒素と精子との関係を明らかとする目的で,細菌フリーであった精液中の精子とLPSあるいはペプチドグリカンを共培養した.その結果,精子の運動性は添加濃度依存的に低下し,精子アポトーシス率が増加することが明らかとなった.さらに,精漿に曝露されていない精巣上体精子をマウスから回収し,LPSやペプチドグリカンの影響を検討した実験においても,精子の運動性低下のみでなく受精能も著しく抑制されることを確認したことから,細菌が放出する内毒素が精子に直接負の影響を与えることが明確化された.そこで,マウス,ヒト精子において,これら内毒素の受容体であるTLR2およびTLR4発現を検出した結果,mRNAおよびタンパク質レベルで検出され,精子先体部に局在していることも示された.TLR2およびTLR4ノックアウトマウスの精子においては,これら内毒素の負の影響を受けないことも明らかとなったことから,精子はTLR2およびTLR4を発現し,精液中の細菌混入を直接認識する初期免疫応答を有することが明らかとなった.
 これらの知見から,生殖補助医療における精液処理において,細菌感染や混入が精子の受精能力を減退させ,体外受精成績を低下させると推察できる.実際,当院において白血球が検出されない検体においても,約3割の症例で精液中に細菌が検出される.さらに,精液処理時には抗生剤を添加した培養液を用いることから,この処理過程で内毒素濃度が上昇している可能性は高い.したがって,体外受精に用いるヒト精子は速やかに細菌および内毒素から分離する必要がある.そこで,射出精液を抗生剤添加培地と混合後,直ちにパーコール密度勾配法により分離する手法を考案し,そのART成績への影響を検討した.その結果,本法により,分離後の精子懸濁液中内毒素濃度は検出限界程度にまで低下し,精子の形態異常率も減少すること,顕微授精症例における挙児率が向上した.
 以上のように,精子の自然免疫応答を充分に考慮した精子処理法を行うことで,ヒトARTの成績を向上させると期待される.

演題6

歯周病モデルマウスを用いた口腔粘膜免疫機構の解明
○小林良喜1,2、藤橋浩太郎2、山本正文1、落合智子1
1日本大学松戸歯学部微生物免疫学、2アラバマ大学バーミングハム校小児歯科学
 歯周疾患は歯肉縁下プラークを構成する細菌(歯周病原性細菌)によって引き起こされ可逆性の歯肉炎症と不可逆性の歯槽骨の水平的骨吸収からなる。グラム陰性嫌気性桿菌であるP. gingivalisはRed Complexに分類され、LPSなど様々な病原因子を有し歯周組織への付着・侵入、破壊に寄与する慢性歯周炎の発症に関連する菌種として注目されている。近年、歯周疾患は歯周組織破壊のみならず全身疾患を増悪させるなどの関連性が指摘されているが、宿主側の炎症・免疫反応が誘発するメカニズムについては不明な点が多く残されている。
 そこで、歯周疾患の誘発機構を解明するため、歯周炎巣局所における免疫細胞の動態を我々が確立した歯周病モデルマウスを用いて解析を行った。BALBマウスにP. gingivalisを口腔感染させて作成した歯周病モデルマウスにて歯肉粘膜の炎症や歯槽骨の水平的骨吸収とB220-CD11c+ Conventional DC (cDC)、Foxp3+Treg細胞やRANKL+活性化CD4+T細胞が歯肉炎症巣において経時的に増大していることを報告した。また、炎症誘発性サイトカインであるIL-17を分泌するヘルパーT(Th17)細胞による炎症誘発機序が報告されているが、炎症初期にTh17細胞が歯肉炎症巣へ遊走していることが認められた。以上の結果からP. gingivalisの口腔感染により歯肉炎が生じ、炎症巣へのTh17細胞やFoxp3+Treg細胞の遊走による炎症の増悪とRANKL+CD4T細胞による破骨細胞の活性化による歯槽骨吸収を生じたことが示唆された。現在、歯肉炎症巣に遊走されたヘルパーT細胞を誘引する細胞として粘膜型肥満細胞(FcεRIα+/c-Kit+)の解析を行っている。
 歯周病原性細菌により誘発される歯肉炎症と歯槽骨吸収はTh17細胞やFoxp3+Treg細胞による誘導の重要性が示されているが、DCだけでなく肥満細胞など様々な細胞の相互作用により口腔局所の免疫応答の低下が誘導、維持されていると考えられる。

演題7

腸内細菌叢による炎症性腸疾患の制御におけるDectin-1の役割の解析
○唐 策1、神谷 知憲1,2、岩倉 洋一郎1
1東京理科大学生命医科学研究所、2産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
 炎症性腸疾患は主として消化管に原因不明の炎症を起こす疾患であり、その予防法及び新たな治療法の開発が強く求められている。Dectin-1は、II型Cタイプレクチンファミリーメンバーであり、真菌細胞壁の主な成分である多糖類β1-3,1-6グルカン(βグルカン)を特異的に認識することが知られている。βグルカンは食品添加物として利用され、免疫力を上げ抗がん作用があるといわれているが、それのレセプターであるDectin-1のシグナルが腸管粘膜免疫においてどのような役割を果たしているのかについて未だ不明である。そのような中で我々は、Dectin-1欠損(Clec7a-/-)マウスを用いてヒト腸疾患の実験動物モデルであるDSS経口投与誘導潰瘍性大腸炎を検討したところ、Clec7a-/-マウスは有意に耐性になることを見出した。野生型マウスに比べてClec7a-/-マウスでは、大腸粘膜固有層の炎症性自然免疫細胞の浸潤やTNFなど炎症性サイトカインの産生が顕著に低下し、抗炎症性制御性T細胞(Treg)が有意に増加していた。炎症性腸疾患の発症には腸内細菌叢と免疫細胞の相互作用が極めて重要であることが知られている。細菌リボゾームRNAの16S 領域のシークエンス解析を行ったところ、Clec7a-/-マウスの大腸腸内細菌叢にグラム陽性細菌である乳酸桿菌が野生型マウスに比べ著しく増加していることが明らかとなった。一方、この乳酸桿菌を投与したマウスはDSS誘導大腸炎に耐性を示し、大腸腸管Tregの増加も認められた。
 これらの結果からDectin-1シグナルが腸内細菌叢のバランスを調節することによって獲得免疫へ影響を及ぼし、大腸炎の病態形成に促進的な役割を果たすことが示唆される。我々は、Dectin-1のアンタゴニストリガンドを事前投与することによって、DSS大腸炎の発症を強く抑制できることを見出しており、Dectin-1シグナルをターゲットとしたヒトの炎症性腸疾患に対する新たな予防・治療への応用が期待される。