講演2:血液検査によるがんの診断

質疑応答

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大腸がんの治療を受けているのですが、腫瘍マーカーが上がってきた場合、その治療は効果がないということでしょうか。
血液中の腫瘍マーカーの値はがん細胞の数だけでなく,がん細胞での産生量やがん組織から血液への移行量など様々な要因の影響を受けています。腫瘍マーカーの上昇は要注意所見ではありますが,治療の有効性自体の直接指標ではありません。画像診断などを併せた総合的な判定が必要です。
腫瘍マーカー(CEA)は、体調に変化がなくても、30%程度増減するそうですが、その原因はどのようなものが考えられますか。
血液中の物質には一定の濃度範囲にないと体に不都合が生じるためその量が積極的に調節されている成分(血糖やナトリウム,カリウム,カルシウムなど)と血液中に一過性に存在するいわば老廃物のような物質で,血液中の量が積極的に調節されていない成分とがあります。腫瘍マーカーは後者であり,体調に変化がなくても比較的増減幅の大きな物質です。CEAの場合は健康な人での変動範囲は±25%程度で,微量のためさらに多少の測定誤差が加わります。
術後、複数の腫瘍マーカーを定期的に検査していますが、複数調べる必要性がありますか。
がんの種類にもよりますが,現在利用される腫瘍マーカーはがんがあってもすべての患者さんで陽性にはなりません。術後の経過観察では再発の可能性をいち早く見いだし,対応することが重要となります。このため,複数の腫瘍マーカーを組み合わせて少しでも見逃しが少なくなるようにします。治療前には陰性であった腫瘍マーカーが陽性化することで再発を早期発見できる場合も少なくありません。
区民検診で腫瘍マーカーの検査は受けられますか。
症状のない人ではがんがあっても腫瘍マーカーが陽性化しにくい早期がんであることが多く,一方,がんがない人でも腫瘍マーカーはしばしば偽陽性となります。このため,健康な人を対象とする腫瘍マーカー検査は正確さと効率性を欠く検査で,集団検診として行ってもあまり効果(がんによる死亡率を下げること)が期待できません。このため,公的検診には腫瘍マーカー検査は取り入れられていません。
 唯一の例外が前立腺特異抗原(PSA)による前立腺がん検診ですが,その有効性については現在でも議論があります。厚生労働省の研究班では死亡率減少効果が不明確で過剰診断・治療(微小ながんを診断・治療してしまうこと)や高率の偽陽性による不利益(検診ではPSAが陽性の方の4人に3人はがんがありません)があるため集団検診には勧められないとしていますが,前立腺がん診療に携わる泌尿器科専門医(泌尿器科学会)はPSAによる検診の実施を強く推奨しています。
 このように一定の結論が出ていないため,東京都内でもPSAによる前立腺がん検診を実施する自治体(区・市)と実施していない自治体とがあります。また実施する自治体でも対象者(年齢)が自治体により異なります。各自治体にお問い合わせ下さい。
“CEA” “腺がん”が何を意味するのか分らないので教えて下さい。
IVR学会認定IVR看護師制度が確立されており、来年第3回認定試験が行われます。“CEA”はがん胎児性抗原(Carcinoembryonic Antigen)の略称です。“腺がん”はがん細胞を顕微鏡で観察した場合の細胞配列の特徴を示す呼び名の一つで,分泌腺に似た細胞配列を示すがんを指します。胃・大腸がん,膵がん,乳がん,卵巣がんなどの大部分はこの“腺がん”です。また,肺がんや子宮がんの一部も"腺がん"です。
腫瘍マーカーが陰性の場合、がんは否定されるのか教えて下さい。
多くの腫瘍マーカーは早期がんでは陽性化しません。また,進行がんであってもすべての方で陽性にはなりません。このため,例え腫瘍マーカーが陰性であってもがんは否定できません。
AFPと悪性腫瘍との関係について教えて下さい。
αフェトプロテイン(α-fetoprotein,AFP)はもともと胎児期の肝臓と卵黄のうという組織で作られるたんぱく質の一種です。、正常の肝臓ではほとんど産生されませんが,肝細胞のがん化により産生されるようになります。また,卵巣腫瘍や精巣腫瘍の細胞がAFPを産生する場合もあります。その他のがんでAFPが陽性となることは極めてまれです。
腫瘍マーカーにおける偽陽性の意味を教えてください。
腫瘍マーカーとして測定される物質はいずれもがんの存在により増加するものですが,真にがん特異的な物質ではありません。多くは正常細胞にも微量存在し,炎症などの刺激により産生が増加してしまいます。このため良性疾患の患者さんでも血中濃度が増加したり,再発がないのに陽性化してしまう場合もあります。これが偽陽性の原因となります。