講演1:前立腺肥大症と前立腺がんはどう違うの?

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質疑応答

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前立腺肥大症で薬物療法をはじめた場合、一生続けなければならないのでしょうか。
前立腺肥大症の重症度によって異なります。中等症以下の場合は、季節によってお薬が不要になることもあります。また、お薬を続けても症状が改善しない場合には、手術がお勧めとなりますが、術後には一般的に前立腺肥大症治療薬は不要となります。
前立腺がんは進行が緩やかだと、高齢になったら治療しなくてもいいケースがあるのか。
また、腫瘍マーカー(PSA)が高くなるのは、がんの可能性以外にありますか。
75歳以上の方でがんの悪性度(顔つき)が比較的良い場合、がんの容積が少ないと予測できる場合などは、何も治療をしないで経過観察をお勧めすることがあります。腫瘍マーカー(PSA)が高くなるのは、前立腺がんだけでなく、前立腺肥大症でもそうです。一過性に上昇する場合には、前立腺の炎症や射精後などがあります。
肛門を収縮させる運動は、影響がありますか。
前立腺がんの根治術後に、おなかに力を入れると尿が漏れる腹圧性尿失禁という状態になることがありますが、これは外尿道括約筋という尿道を締め付ける筋肉が弱まるためです。外尿道括約筋はお尻の穴を占める作用のある肛門括約筋とつながっていますので、肛門括約筋を強く収縮させる運動をすることによって外尿道括約筋の力が強まり、腹圧性尿失禁が改善します。
年に1回、血清PSAを測定しており、毎年少しずつ上昇して、現在4程度になっています。
これはどのように理解すればよいでしょうか。
一般に、加齢とともにPSA 値は上昇しますが、4.0を越えると前立腺がんの疑いが強くなります。年齢とPSAの値にもよりますが、前立腺生検をお勧めします。
前立腺がんになると精液の作成機能はどうなるのですか。
前立腺がんの初期には、変わりはありませんが、進行して前立腺の多くをがんが占めるようになると、精液産生能力は落ちます。
毎年PSAが上昇しています。尿の回数は1日18回ぐらい(うち夜間は2回)で、放尿時少ししみる感じがします。この場合、がんの疑いが濃厚かどうか教えてください。(現在治療中の病院では経過観察でよいとのことです)
一般に、加齢とともにPSA 値は上昇します。また、前立腺肥大症が大きくなってきても、PSA値は上昇しますが、4.0を越えると前立腺がんの疑いが強くなります。年齢とPSAの値にもよりますが、80歳未満であれば前立腺生検をお勧めします。主治医の先生とよくご相談ください。
前立腺肥大症の治療法(薬物療法)で、薬の副作用はどの程度あるのでしょうか。
第一選択の薬物は、交感神経系α1受容体遮断薬(αブロッカー)と抗男性ホルモン薬です。前者は即効性があり、内服してから数日で効き目が出ます。また、血清PSA 値には影響しませんので、前立腺がんの診断には影響が出ません。しかし前立腺肥大症を根治するお薬ではありませんので継続して内服する必要があり、いつ中止して良いかの基準がありません。副作用には、立ちくらみ、射精障害などがありあますが、一般に軽度です。
後者は、3か月間以上内服しないと、前立腺が縮小しませんので、即効性はありませんが、前立腺を縮小させる、つまり根治性があるお薬です。ただし、血清PSA値を下げますので、かならずPSA の値を定期的に調べていく必要があります。副作用には、男性機能障害があります。
レーザー治療法があると聞いていますが、治る確率は何%くらいなのでしょうか。
普通の内視鏡手術と同じで、尿が出にくい方では術後の排尿状態の改善が可能です。ただし、夜間トイレに起きて困るといった症状には、効き目はありません。
前立腺肥大症になった場合、治らないと言われましたが、今回治療法はあると書いてありました。完治するのでしょうか。
薬物療法、手術療法があります。手術の中心は内視鏡手術であり、高周波電気メスを使った従来法以外に、レーザーを使った手術もあります。まず最初にお薬による治療を行い、これでも症状が改善せずにお困りの場合には、手術をお勧めすることになります。手術によって、尿の勢いは良くなりますが、それ以外の症状、たとえば夜間トイレに起きて困るといった症状は、改善しない場合もあります。その場合も、別な治療法はあります。

講演2:前立腺がんになったらどうするの?

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質疑応答

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PSAが上昇する原因につい説明してください。
炎症が原因の場合には、治ったらPSAは低下しますか。
がん、肥大症、炎症などが主な原因と考えられます。炎症の場合は炎症が治るとPSA値は、事例により多少早い遅いはありますが、低下してきます。その他、骨盤内の血管拡張や血流のうつ滞などでも上昇することがあります。
PSAの値が毎年上昇しています。生検を受けるべきでしょうか。
生検が全く無害とも言い切れないことや、前立腺がんという病気の予後からすると、生検が必要かどうかは、患者さん毎に個別に考える必要があります。その際、年齢、PSAの値、PSAのF/T比、上昇速度(PSA倍加時間)等を考慮します。従って主治医にご自分の希望を伝え、納得されるまでよくご相談になることをお勧めします。
がんの進行度はステージⅠ~IV分類されているようですが、治療によりそれぞれ予後はどのようになるのでしょうか。
5年相対生存率は、日米ともに転移のないがんでは限りなく100%に近いのですが、転移のある場合(ステージIVの大部分)では、残念ながら30%から40%程度に留まります。
外科的治療、薬物治療、放射線治療の生存率の違いについて教えてください。
転移のない前立腺がんの根治療法(がんを根絶させようとする治療)としては、現時点では外科的治療か放射線治療かの選択になります。どちらを選んでも5年から10年の生存率に大きな差はありません。10年を過ぎると手術療法の方が生存率がやや高くなります。
新聞でPSA検査の必要性について議論されていましたが、PSAの信頼度は高いのでしょうか。
PSA検査は前立腺がんの早期発見には有用ですが、がんでない人も基準値を超えることが少なくないため、不必要な生検を受ける危険があります。
密封小線源治療(brachytherapy)後の再発、転移等について教えてください。
前立腺がんの転移の多くは骨やリンパ節に起こります。治療後に一度低下したPSA値が再び上昇し始めたとき、連続して上昇したか、あるいはある値を超えて上昇したかなどを参考にして再発の判定をします。これは骨シンチグラムなどの画像のうえでの異常や症状の出現により再発を判定するよりもはるかに早い時期からPSA値の上昇が見られることによります。
PSAは、どのような上昇の動きをするのでしょうか。
ひとにより様々です。グラフにしたとき谷の部分が、次第に右肩上がりになるようでしたら要注意です。
抗がん剤の効きめはどの程度あるのでしょうか。
現在用いることのできる抗がん剤は、延命効果が証明されている薬剤もありますが、残念ながらがんの根治を期待することは難しいと言えます。
骨への転移の場合、痛みはどの程度なのでしょうか。
前立腺がんの骨転移が、他のがんの骨転移と違う点は、痛みのコントロールが少量の放射線照射により、容易に得られることです。また、かなり進行するまで普通の鎮痛薬でもコントロール可能です。ある程度以上に進行してしまうと、やはり麻薬が必要となる例があります。

講演3:放射線、放射能と体

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前立腺がん放射線治療IMRTで、放射線腸炎、放射線膀胱炎になりました。放射線障害が起きてしまうと、もう一生治らないのでしょうか。良い治療法は他にはないでしょうか。
放射線治療の合併症でお困りとのこと、ご心配のことと存じます。
放射線治療を受けられた場合、放射線治療期間中に起こるような合併症と、数カ月から数年後に発症する合併症があります。前立腺に接して膀胱、直腸があり、前立腺の内部を尿道が通過しています。このため膀胱、直腸、尿道にある程度の放射線が照射されてしまいます。IMRTは前立腺に線量を集中させることができる技術で、高線量が照射される膀胱、直腸の体積を小さくすることができます。したがって、これらの臓器の合併症の頻度は従来の治療法からみると少なくなりました。しかしながら、ある一定の頻度で合併症が発生することは避けることができません。治療中に起こる合併症は、治療終了後長くても1か月程度で自然に治ります。時間がたってから発症した合併症は短期間では治癒しません。
時間がたってから発症する放射線膀胱炎、放射線直腸炎の症状としてはどちらも出血が主なもので、膀胱や尿道では尿の回数が増加したり、尿が出にくかったりすることもあります。軽度の場合は無治療でもやがて徐々に改善します。治療が必要な場合でも、徐々に改善していくことが多いようです。
治療法は色々試みられています。直腸炎では痔疾薬を用い、出血が多い場合には大腸内視鏡下にレーザーで出血点を治療する方法が行われます。はっきりした作用機序はわからないのですが、直腸炎、膀胱炎に高圧酸素療法といって高気圧にした酸素のタンク内に1時間程度入る治療を用いることもあります。
放射線が甲状腺に影響を及ぼす旨報道されていますが、すでに甲状腺腫瘍やがん(特に小児)の摘出手術を受けた者が特に注意することは何でしょうか。
放射性同位元素は私たちの体の中や周りに自然に存在しています。また宇宙から放射線が降ってきています。今回の原発での事故が起こる前でも、日本に生活するだけで1年間に2~3ミリシーベルトの放射線を被ばくしています。現在報道されている線量は、この線量にもなりませんので、とくに注意されることはありません。
除染術とは具体的にどんなものですか。
除染とは、ある一定の量以上の放射性同位元素が体についた場合(汚染といいます)にそれを洗い流すことをいいます。通常の生活では、除染が必要な汚染は起こりません。
今回の原発事故でも、避難地域から避難された方々の極一部で除染が必要になりました。除染といっても特別のことをするわけではありません。汚染された衣服を脱ぎ、シャワーで全身を普通のシャンプーや石鹸で洗い流していただければ十分です。
たとえば原発事業所の中で作業して高度汚染が生じれば、特殊な注意が必要ですが、一般の方々には不必要かと思います。
もし被ばくの可能性がある場合、どんな機関で除染術は可能ですか。
本格的な除染が必要になるような高濃度汚染を生じる可能性はきわめて特殊な状況以外ありませんので、ご自宅のシャワーで洗っていただければよろしいかと思います。なお高濃度汚染が生ずる可能性のある施設には除染設備が設置されています。
1年半前に密封小線源治療(brachytherapy)を行いました。この放射線照射分と福島第1原発の放射能被ばくとどういう関係にありますか。つまり一般人よりも放射能の許容量がもう既にあまりないか否かお教え下さい。
密封小線源治療を受けられ、今回の原発事故の放射能の問題もあって、放射線の健康への影響についてご心配のことと存じます。
さて、被ばくには許容量というものはありません。テレビや新聞に出ている年間1ミリシーベルトという線量は、正式には実効線量限度と呼ばれるものです。これは、人工放射線を産業に用いたり、病気の診断や治療などを行ったり、研究をおこなう上で、これらの業務に無関係な一般のかたがたの被ばく線量を抑えるために決められた線量です。これに基づいて施設の設計や、不要になった放射性同位元素の廃棄基準などの取り扱いが決められています。人工放射線を取り扱う者やそれを指導する行政はこの線量を厳密に守らなくてはなりません。
なお、別の項目でも書きましたが、自然に存在する放射能で年間2から3ミリシーベルトの被ばくを日本人はしています。
一方、医療での被ばくには線量限度が決められていません。それは、放射線を用いることによって得られる利益が、被ばくにともなう不利益よりはるかに大きいからです。密封小線源治療では病気の周辺に極めて大線量の放射線(たとえば前立腺がんでは145グレイ(145シーベルト)程度)が照射されます。シーベルトは少ない線量を被ばくした場合に、将来起こるかもしれない障害(とくに発がん)を扱う場合に用いる単位ですので、本当は正しくない使い方ですが、前立腺には少なくても145000ミリシーベルト被ばくされたことになります。まず局所に関して言えば、さらに1ミリシーベルト被ばくしても誤差の範囲にしかなりませんので、気にされる心配はありません。全身については、短期間に100ミリシーベルト程度以上の被ばくで発がんの報告があるようですが、それ以下では報告はないようです。放射線治療では、はるかに大きい線量の被ばくをされていますので発がんの頻度が上がる可能性はありますが、この治療を受けられる患者様の年齢を考えると、その頻度は無視できるほど小さいと思われます。以上から、「一般人よりも放射能の許容量がもう既にあまりないのか」とご心配される必要はありませんのでご安心ください
がん治療に密封小線源治療(brachytherapy)をした後には、前立腺の精液作成はどうなるのですか。
1. SEED後に無精液を生じる確率は25%との報告があります。
2. 大半の症例で精液量減少の訴えが報告されています。
3. 5-6年の経過で、ごく少量の漿液性のものを排出するようになるというのが多いようです。
4. 排出量についての詳細な記述は、検索した限りでは見当たりませんでした。
5. 精液産生の工場が破壊されるため、必然の結果ではあります。
6. 精嚢の末端に一部産生能が残存するため、少量はできるとされています。
7. 射精管が閉塞するため排出不能となるということも言われています。
がん治療に密封小線源治療(brachytherapy)をした後には、前立腺の精液作成はどうなるのですか。
1. SEED後に無精液を生じる確率は25%との報告があります。
2. 大半の症例で精液量減少の訴えが報告されています。
3. 5-6年の経過で、ごく少量の漿液性のものを排出するようになるというのが多いようです。
4. 排出量についての詳細な記述は、検索した限りでは見当たりませんでした。
5. 精液産生の工場が破壊されるため、必然の結果ではあります。
6. 精嚢の末端に一部産生能が残存するため、少量はできるとされています。
7. 射精管が閉塞するため排出不能となるということも言われています。