講演1:ピロリ菌と胃がん

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質疑応答

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具体的な症状は?どのように発症しますか。
胃がんの初期にはほとんど症状がありません。
胸焼けなど胃がん由来でない症状や検診をきっかけとして消化管の検査を受け、偶然発見されることがしばしばです。
ピロリ菌感染がある場合も、特徴的な症状はありません。ただ、ピロリ菌に感染している方の中で、いろいろ検査をして異常がなく、食事をしてすぐにお腹がいっぱいになり、上腹部痛があるといった症状がある場合、ピロリ菌を治療することによりそれらの症状が改善することがあるといわれています(14人の方にピロリ菌治療をそのうち1人に症状改善がみられるといわれています)。
2回除菌しましたが、何回までできますか。
現行では原則2回しかできません。
ピロリ菌治療は、40歳くらいの若い時にした方が良いとのことですが、現在77歳の男性ですが治療した方が良いですか。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍を繰り返しているなら、是非治療をお受けください。
検診の時、ピロリ菌の血液検査がありますが、発見率はどれくらいでしょうか。
抗体によってピロリ菌を調べているのだと思います。その発見率は、95%を超えるといわれています。
除菌する際、1回目と再除菌の薬が違うのは、なぜでしょうか。再除菌の薬を1回目に投与したらどうなるのでしょうか。
現在使用されている初回治療と同様に有効だと思います。ピロリ菌除菌は試行錯誤の中で確立してきました。その結果、今の治療方法が最良と定められました。ただ、再除菌の薬を1回目に投与してはどうかという議論も行われています。将来的には治療方法が変わってくるかもしれません。
ペプシノーゲン法は、どのように検査するのでしょうか。除菌を2回失敗した場合は、どうすれば良いのでしょうか。
ペプシノーゲン法は血液で検査をします。現在まだ、再々除菌の方法は確立していません。大学病院などの研究機関で再々除菌の臨床研究を行っているところもあります。
人間ドッグよりも簡易な検査としてABC検査というリスク診断のための検査があると聞きますが、医学的な評価はどのようなものなのでしょうか。時間・金額・検査方法を教えていただきたい。これは、胃カメラよりも有効な検査でしょうか。
ピロリ菌の抗体とペプシノーゲン法の結果を組み合わせて、A、B、C、D群に分けます。その群に応じて経過観察不用にするかピロリ菌除菌をするか、そして内視鏡検査をどのくらいの間隔でするかを決めていきます。しかしピロリ菌をすでに除菌した方はどの群にいれたらよいのかなど、具体的に運用していくためにはいろいろ議論を重ねていく必要があります。ABC検査によって胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)が不要になるというのではありません。金額に関しては各施設、検診センターなどによって異なります。
すでに慢性萎縮性胃炎である場合(且つピロリ菌陽性)、ピロリ菌除菌をすることが明らかに正解なのでしょうか。また、胃炎進行防止、胃がん予防になるのでしょうか。副作用などマイナス面との判断の基準は何かありますか。(例えば定期検査をしていれば良い・・・等)
胃潰瘍や十二指腸潰瘍や早期胃がんを内視鏡治療したような方は必ずピロリ菌を治療した方がよいと思います。消化器専門医の立場から言えばピロリ菌は人の体にとって、不必要な存在です。しかし、実際除菌をするとなると、一人一人の状態に応じて是非を検討する必要があります。明らかなことは胃炎、厳密には萎縮性胃炎はピロリ菌を治療することによってその進行を抑制することができます。しかし胃がんの確実な予防となるかと言われれば、ピロリ菌は長期にわたって胃炎を引き起こしているためすでに何らかの胃がんの素地が生じている可能性もあり、またがんというものは一般的に多くの因子で生じてくるため、その効果は確実ではありません。やはり一番大事なのはピロリ菌陽性の慢性萎縮性胃炎がある方は辛くても定期的に上部消化管内視鏡検査(一般的に胃カメラとよばれています)を受けることだと思います。
ピロリ菌が住めないほど胃の具合が悪い場合(環境)がありますか。ピロリ(-)ペプシ(+)の場合など考えられますか。
その通りです。萎縮性胃炎が進行するとペプシノーゲン法が陽性となり、さらにピロリ菌が陰性となることがあります。講演時のスライドにもありますが、79歳を超えてくるとピロリ菌の感染の割合が低下してくるのはそのためだと思います。
ピロリ菌の人体外でのふるまい(例えば温度に対する抵抗性)はどうでしょうか。熱湯消毒は有効ですか。
熱湯消毒により死滅します。ピロリ菌は人体外のような不利な環境になった場合、コッコイドフォームという球状の形にしばしば変化します。コッコイドフォームの温度に対する抵抗性などは研究されていないため不明です。しかし、今の衛生状態のよくなった日本では環境からの感染についてはあまり心配する必要はありません。
ピロリ菌のワクチンは、開発されないのでしょうか。
研究はされていますが、臨床応用可能な除菌ワクチンはまだ開発されていません。
ピロリ菌が全くいない人もいますか。ピロリ菌は誰でも持っているものですか。
ピロリ菌を持っていない人もいます。最近の報告ではピロリ菌を持っている人は50歳以上で約60%、40歳代は約45%、30歳代は約30%、20歳代は約20%です。10年ほど前は40歳以上の約70%がピロリ菌陽性でした。このようにピロリ菌に感染している人は年々減少傾向にあります。
ピロリ菌に感染したと判断する基準は何ですか。下痢など、生活に支障があるかどうかということでしょうか。
特徴的な症状はありません。検査をしてみないとわかりません。
胃カメラ検査で真赤々の写真だったため現在薬にて治療中。ピロリ菌は少々有る方が良いとの説がありますが、本当でしょうか(現役時は、大酒飲みで肉食が好物で週一回はステーキ(松坂牛)を600g食べていました)。
弱い刺激があった方が、胃粘膜の防御機能が活性化するということは以前から言われています。しかし、胃粘膜の炎症を慢性的にひき起こしている状態は良くないと思います。従って、ピロリ菌が少々ある方が良いとは思われません。
ピロリ菌の除菌を二度試みましたが失敗し、除菌できませんでした。数年前に先生より三度目の薬は、まだ開発されていませんと言われています。次のチャンス(新薬の開発)はいつ頃になりそうでしょうか。
三度目のピロリ菌の除菌治療の開発に必要なことは、新しい薬を作るのではなく、すでに発売されている薬からピロリ菌を退治する働きの強い薬をえらび、またより効果的な薬の組み合わせを考えることです。新しい薬を作るならばとても長い時間がかかりますが、この場合はそうお時間がかからないのではないかと思います。しかし、初回除菌が確立するまでにいろいろな研究が繰り返されたことを考えると、すぐというわけにはいかないかもしれません。
小児の除菌法、薬の量は成人と一緒でしょうか。また、除菌は何歳から可能でしょうか。
再感染も多いので、一般的には14歳以上といわれています。潰瘍などを繰り返している場合はさらに年少でも治療を行います。量は体重当たりの量が決められていますが、一般的に成人の量を最大量としている報告が多いようです。
慢性萎縮性胃炎で除菌して二年になりますが、症状は悪いままで胃痛もあります。除菌で胃の粘膜は良くなりますか。
胃粘膜の炎症(組織学的炎症=組織をとって顕微鏡で調べることによって診断される炎症)はよくなってきます。前にも述べましたが、症状がありピロリ菌によって症状が改善するのは一部の方です。
ポリープが多数あって現在検査中です。ピロリ菌の有無は不明ですか。
胃底腺ポリープと言われるポリープをお持ちの場合はピロリ菌がいないことが多いです。過形成性ポリープと言われるポリープをお持ちの場合はピロリ菌がいることが多いです。この過形成性ポリープはピロリ菌を治療することによって小さくなったり、消失したりすることがあります。
ピロリ菌は、具体的にはどのような方法で感染するのでしょうか。また、家族にピロリ菌陽性の人がいたら、生活面ではどのような注意が必要でしょうか。
やはり家族内感染が多いです。ピロリ菌をお持ちの御両親は子供が小さな時には口うつしなどの濃厚な接触は避けた方が良いと思います。食器などに神経質になる必要はありません。
ピロリ菌の診断方法のなかでは、どの検査が最も信頼性がありますか。以前、尿素呼気検査を受けましたが、検査の仕方に疑問を持ちました。熟練した方に検査していただかないと結果が不確かな場合がありますか。
尿素呼気試験は有効な検査です。呼気をバッグに入れる際にタイミングが合わなかったのかもしれませんね。検査担当者によって結果が変わることはあまりないと思います。どの検査もそれぞれ特性があります。また、プロトンポンプインヒビターなどの潰瘍や逆流性食道炎の薬の内服は、結果に影響することがあります。詳しくは担当医師にお尋ねください。
二度の除菌で除菌できなかった場合は、どうなりますか。
潰瘍を繰り返している方は、抗潰瘍薬の維持療法が必要かもしれません。定期的な内視鏡検査による経過観察をおすすめします。
ピロリ菌がいた場合の初回の標準的治療方法は、いつ頃確立されたものですか。
日本で初回の標準的治療方法が保険適応になった(確立されたということを意味しています)のは2000年11月です。
胃MALTリンパ腫をみつけるには、どんな検査をうけるのでしょうか。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラとよばれているものです)でわかります。
ピロリ菌が引き起こす胃がんとは、おもに内視鏡的治療をしたあとの胃がんのことを指しているのでしょうか。
胃がんを内視鏡的治療をした後にピロリ菌を治療する群としない群にわけて観察した報告により、胃がんの内視鏡的治療をした人にピロリ菌を治療することは極めて有効だとわかったのです。実際は、ピロリ菌自体はピロリ菌に感染した全ての人のがん発生に関与します。しかし、実際にがんが発生するのは様々な因子が関与します。従って胃がんをすでに発症してしまった人は胃がんになりやすい他の因子も持っていると考えられます。そして、先ほどの報告により、新たながんの出現が少ないことがわかったため、内視鏡治療をしたあとの患者さんに積極的にピロリ菌を治療するようになったのです。
がんになるリスクのタバコとは、本人が喫煙せず受動喫煙でも言えることでしょうか。
受動喫煙でもリスクになります。しかし、総量的には喫煙者よりは少ないことよりリスク自体も少し低くなると思います。
ピロリ菌保有者が胃がんになった場合、その胃がんの原因がピロリ菌なのか、それ以外なのかを見極めることはできますか。
ピロリ菌単独でがんになることはないといわれています。スナネズミ(ピロリ菌が感染する特殊なネズミ)を用いた実験で、がんができるのはピロリ菌以外の発がん因子となる何らかの因子が必要と分かっています。
「ペプシノーゲン法」についてもう少し詳しく知りたいのですが、どうしたら知ることができますか。
人間ドックでペプシノーゲン法が検診項目にある場合は、その解説をご参照ください。インターネット検索でも出てきます。
ピロリ菌を概ね除去した場合でも、数年後に再除去する必要があるのでしょうか。
除菌治療を行って、除菌成功した場合はほとんど再感染はありません。
ピロリ菌がいるかどうかの検査費用と、菌がいた場合の除去費用はどのくらいでしょうか(窓口負担が3割の場合)。
用いた検査と、用いた治療薬によって異なりますので、費用に関しては各医療機関でお尋ねください。

講演2:がん治療早期からの緩和ケア

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緩和ケアは患者が希望しないと受けられないのでしょうか。理想ではなく、現状についてお聞きしたい。
「緩和ケアチーム」介入の際には、患者さんの同意が必要となります。本来は、がんに関わる医療者が基本的な緩和ケアの知識・考えをもって患者さんのケアにあたる事が理想です。しかし、まだまだ基本的な緩和ケアが医療者の中でも普及していないのが現実です。このような現状もありますので、がん治療中の緩和ケアを受ける場合、専門的な緩和ケアとして「緩和ケアチーム」の介入を希望される事をおすすめします。
がん治療に際しては、特に「痛み」を減らすことが必要だと思います。どこかで聞いたことがあるのですが「ペイン治療」は有効でしょうか。また、積極的に推進すべき治療方法でしょうか。
がんの痛みの緩和に対しては、薬剤の治療以外にも様々な治療法があります。「ペイン治療」はその一つで「ペインクリニック」における治療になります。「ペインクリニック」では、患者さんの病態・痛みの部位に合わせて薬物治療以外にも神経ブロック注射を行い痛みの緩和につなげる事ができます。しかし、神経ブロック注射の治療は全ての患者さんに適用となるわけではありません。主治医と十分に相談する事が必要となります。
予算(医療費)についてはどのようになっているのでしょうか。
厚生労働省から承認された「緩和ケアチーム」「緩和ケア病棟」には以下の費用がかかります。(*下記金額は平成24年8月現在の費用です。)入院中の緩和ケアチームの診療・サポートには、「緩和ケア診療加算」が加算され、この加算を含めた医療費には医療保険が適用されます。「緩和ケア診療加算」は、1日4,000円の加算がかかります。保険負担に合わせて、3割負担であれば1,200円/日、1割負担であれば400円/日となります。緩和ケア病棟は定額制(治療内容に関わらず1日の医療費が一定額に決められている)となります。入院30日以内であれば1日47,800円(3割負担14,340円/日、1割負担4,780円/日)、入院31日以上60日以内であれば1日42,800円(3割負担12,840円/日、1割負担4,280円/日)、入院61日以上であれば1日32,800円(3割負担9,840円/日、1割負担3,280円/日)となります。また、病院毎に個室料が加わる場合があります。
緩和ケアの健康保険の取り扱いや、入院する場合の費用負担等教えていただきたい。
緩和ケアに関わる診療費などは全て医療保険の適用となります。入院する場合の費用負担は、上述を参照下さい。
がん以外の痛みに対する緩和ケア相談を受ける方は、どのような方が多いでしょうか。
当院では、がん以外の患者さんでは、難治性疼痛をもつ方(病的骨折・皮膚病変の痛み)について相談を受ける事があります。また、痛み以外の問題(眠れない、精神的に不安定・家族との問題など)を抱えている方が相談に来るケースも多くあります。
QOLのお話の中に「死を早めることも遅らせることもしない」とありますが、これが緩和ケアの本質ですか。
「死を早める」という事は、人工的に薬剤などを使用して死を導く、いわゆる「安楽死」の方法をとらないという意味です。「死を遅らせる」という事は、救命や意識の回復が期待できない場合での無駄な延命治療を行わない、という意味となります。緩和ケアでは、QOLの維持・向上が一番の目的です。死が身近に迫った段階でも、残された時間を少しでも患者さん・家族にとってよりよい時間となるようにしていく事が本質であり、命の長さに関わる事ではありません。
緩和ケアを受けるかどうかは、患者さんが選択できる。ということでしたが、もし患者さんにそのエネルギーがない時などの場合は、必要と思われればやはり緩和ケアを勧められますか。
緩和ケアを受ける形は様々です。緩和ケアを受ける事でそのエネルギーが回復するようであれば、緩和ケアを受ける事をお勧めします。しかし、時に緩和ケアを受けるために新たな医療スタッフと接する事自体が本人にとって苦痛と感じる事もあります。その際は、直接的に緩和ケアを受けるのではなく、間接的に緩和ケアを受ける(患者さんではなく家族が緩和ケアを受ける、医療者間のカンファレンスに緩和ケアの専門家が入る、など)方法をとる事もあります。
緩和ケア病棟などへの入院は、どのタイミングで考えたり申し込んだりするものですか。すぐ入院できるものですか。
緩和ケア病棟の入院時期は、手術や抗がん剤などの治療を行うよりも苦痛症状を緩和する治療を中心に行うほうが良い時期であれば入院が可能です。施設によっては、予後6ヶ月以内、のような提示をしている所もあります。厚生労働省に承認された緩和ケア病棟は、都内で21箇所(平成24年4月現在)あります。しかし、いずれも病床数は15~20床前後と少なく緩和ケア病棟入院を希望されてもすぐには入院できない現状があります。緩和ケア病棟のある施設では、緩和ケア相談を受けている事が多いため、将来的に緩和ケア病棟入院を考えている方であれば抗がん治療中でも早めに相談を受ける事をおすすめします。
患者さんが亡くなられた後の、配偶者や家族の心理的落ち込みに対して、どのようなフォローが行われているのでしょうか。また、死亡後に行われるデスカンファレンスは、ご家族に対してどのように役立てられるのでしょうか。
当院では、臨床心理士を中心にがん治療センターのコメディカル相談で、家族を亡くされた方のグリーフケア(遺族ケア)を行っています。他施設では、「遺族外来」や「家族外来」を設けている所もあります。当院の現状では、死亡後に行われているデスカンファレンスは、医療者間でケアの振り返りを行い今後のケアの質を高める事、医療者の思いを表出し自分たちのグリーフケアとする事が目的となっている事が多いため、家族に対しての還元は現段階では行っておりません。デスカンファレンスも含めたカンファレンスを患者さん・家族とどのように共有していくかは今後の課題であると考えます。
講演では緩和ケアは、がん治療に伴った施策のように感ぜられました。長期的治療が必要なのは、がんだけではないと思います。他の病気に対しては考慮されないのでしょうか。
緩和ケアはがん患者だけに行われる事ではありません。しかし、緩和ケアチームや緩和ケアの普及などは、国のがん対策基本法を基に大きく広がった部分があります。また、緩和ケアを専門的に行う医療者の多くは、がん患者の緩和ケアを専門的に行ってきたスタッフが中心となっているのが現状です。がん患者以外の方への緩和ケアは今後大きな課題であると思います。
他の病院で治療した患者に対しても、順天堂での緩和ケアは受けられますか。
当院では、緩和ケア外来を含め緩和ケアを受けるためには緩和ケア以外で当院の診療科に受診している事が原則となります。これは、当院には緩和ケア専門の病床がないため、体調不良時など入院が必要な時には、主診療科で対応する必要があるためです。当院に受診していない方の場合は、自宅近くで緩和ケアを受ける事ができる施設の情報を紹介する事もできます。