第9回市民公開講座 質疑応答:講演2

講演2:がん治療早期からの緩和ケア

緩和ケアは患者が希望しないと受けられないのでしょうか。理想ではなく、現状についてお聞きしたい。

「緩和ケアチーム」介入の際には、患者さんの同意が必要となります。本来は、がんに関わる医療者が基本的な緩和ケアの知識・考えをもって患者さんのケアにあたる事が理想です。しかし、まだまだ基本的な緩和ケアが医療者の中でも普及していないのが現実です。このような現状もありますので、がん治療中の緩和ケアを受ける場合、専門的な緩和ケアとして「緩和ケアチーム」の介入を希望される事をおすすめします。

がん治療に際しては、特に「痛み」を減らすことが必要だと思います。どこかで聞いたことがあるのですが「ペイン治療」は有効でしょうか。また、積極的に推進すべき治療方法でしょうか。

がんの痛みの緩和に対しては、薬剤の治療以外にも様々な治療法があります。「ペイン治療」はその一つで「ペインクリニック」における治療になります。「ペインクリニック」では、患者さんの病態・痛みの部位に合わせて薬物治療以外にも神経ブロック注射を行い痛みの緩和につなげる事ができます。しかし、神経ブロック注射の治療は全ての患者さんに適用となるわけではありません。主治医と十分に相談する事が必要となります。

予算(医療費)についてはどのようになっているのでしょうか。

厚生労働省から承認された「緩和ケアチーム」「緩和ケア病棟」には以下の費用がかかります。(*下記金額は平成24年8月現在の費用です。)入院中の緩和ケアチームの診療・サポートには、「緩和ケア診療加算」が加算され、この加算を含めた医療費には医療保険が適用されます。「緩和ケア診療加算」は、1日4,000円の加算がかかります。保険負担に合わせて、3割負担であれば1,200円/日、1割負担であれば400円/日となります。緩和ケア病棟は定額制(治療内容に関わらず1日の医療費が一定額に決められている)となります。入院30日以内であれば1日47,800円(3割負担14,340円/日、1割負担4,780円/日)、入院31日以上60日以内であれば1日42,800円(3割負担12,840円/日、1割負担4,280円/日)、入院61日以上であれば1日32,800円(3割負担9,840円/日、1割負担3,280円/日)となります。また、病院毎に個室料が加わる場合があります。

緩和ケアの健康保険の取り扱いや、入院する場合の費用負担等教えていただきたい。

緩和ケアに関わる診療費などは全て医療保険の適用となります。入院する場合の費用負担は、上述を参照下さい。

がん以外の痛みに対する緩和ケア相談を受ける方は、どのような方が多いでしょうか。

当院では、がん以外の患者さんでは、難治性疼痛をもつ方(病的骨折・皮膚病変の痛み)について相談を受ける事があります。また、痛み以外の問題(眠れない、精神的に不安定・家族との問題など)を抱えている方が相談に来るケースも多くあります。

QOLのお話の中に「死を早めることも遅らせることもしない」とありますが、これが緩和ケアの本質ですか。

「死を早める」という事は、人工的に薬剤などを使用して死を導く、いわゆる「安楽死」の方法をとらないという意味です。「死を遅らせる」という事は、救命や意識の回復が期待できない場合での無駄な延命治療を行わない、という意味となります。緩和ケアでは、QOLの維持・向上が一番の目的です。死が身近に迫った段階でも、残された時間を少しでも患者さん・家族にとってよりよい時間となるようにしていく事が本質であり、命の長さに関わる事ではありません。

緩和ケアを受けるかどうかは、患者さんが選択できる。ということでしたが、もし患者さんにそのエネルギーがない時などの場合は、必要と思われればやはり緩和ケアを勧められますか。

緩和ケアを受ける形は様々です。緩和ケアを受ける事でそのエネルギーが回復するようであれば、緩和ケアを受ける事をお勧めします。しかし、時に緩和ケアを受けるために新たな医療スタッフと接する事自体が本人にとって苦痛と感じる事もあります。その際は、直接的に緩和ケアを受けるのではなく、間接的に緩和ケアを受ける(患者さんではなく家族が緩和ケアを受ける、医療者間のカンファレンスに緩和ケアの専門家が入る、など)方法をとる事もあります。

緩和ケア病棟などへの入院は、どのタイミングで考えたり申し込んだりするものですか。すぐ入院できるものですか。

緩和ケア病棟の入院時期は、手術や抗がん剤などの治療を行うよりも苦痛症状を緩和する治療を中心に行うほうが良い時期であれば入院が可能です。施設によっては、予後6ヶ月以内、のような提示をしている所もあります。厚生労働省に承認された緩和ケア病棟は、都内で21箇所(平成24年4月現在)あります。しかし、いずれも病床数は15~20床前後と少なく緩和ケア病棟入院を希望されてもすぐには入院できない現状があります。緩和ケア病棟のある施設では、緩和ケア相談を受けている事が多いため、将来的に緩和ケア病棟入院を考えている方であれば抗がん治療中でも早めに相談を受ける事をおすすめします。

患者さんが亡くなられた後の、配偶者や家族の心理的落ち込みに対して、どのようなフォローが行われているのでしょうか。また、死亡後に行われるデスカンファレンスは、ご家族に対してどのように役立てられるのでしょうか。

当院では、臨床心理士を中心にがん治療センターのコメディカル相談で、家族を亡くされた方のグリーフケア(遺族ケア)を行っています。他施設では、「遺族外来」や「家族外来」を設けている所もあります。当院の現状では、死亡後に行われているデスカンファレンスは、医療者間でケアの振り返りを行い今後のケアの質を高める事、医療者の思いを表出し自分たちのグリーフケアとする事が目的となっている事が多いため、家族に対しての還元は現段階では行っておりません。デスカンファレンスも含めたカンファレンスを患者さん・家族とどのように共有していくかは今後の課題であると考えます。

講演では緩和ケアは、がん治療に伴った施策のように感ぜられました。長期的治療が必要なのは、がんだけではないと思います。他の病気に対しては考慮されないのでしょうか。

緩和ケアはがん患者だけに行われる事ではありません。しかし、緩和ケアチームや緩和ケアの普及などは、国のがん対策基本法を基に大きく広がった部分があります。また、緩和ケアを専門的に行う医療者の多くは、がん患者の緩和ケアを専門的に行ってきたスタッフが中心となっているのが現状です。がん患者以外の方への緩和ケアは今後大きな課題であると思います。

他の病院で治療した患者に対しても、順天堂での緩和ケアは受けられますか。

当院では、緩和ケア外来を含め緩和ケアを受けるためには緩和ケア以外で当院の診療科に受診している事が原則となります。これは、当院には緩和ケア専門の病床がないため、体調不良時など入院が必要な時には、主診療科で対応する必要があるためです。当院に受診していない方の場合は、自宅近くで緩和ケアを受ける事ができる施設の情報を紹介する事もできます。