第16回市民公開講座 質疑応答:講演1

講演1:乳腺外来でよく質問されることから (検診・痛み・しこり・石灰化・遺伝)

良性のしこりでも乳房が痛い場合がありますか。

「しこりそのもの」ではなく、乳腺そのものが「痛いこと」は自然で生理的なことで、そういう乳腺の中に「しこりがある」のだと推察しています。

地方の病院と東京の病院では、乳がんの治療・手術などに差や違いはありますか。東京の方が新しい治療が受けられるのでしょうか。

いいえ、基本的には差や違いはありません。どの施設も乳がん診療ガイドラインに沿った治療を行っています。その一方で、都内にも診療ガイドラインに沿っていない独自の治療を施行している場合もありますので注意が必要です。

テレビで芸能人の方の報道がされていますが、少し異常な感じを受けるのですが、治療をする側としてはいかがですか。

報道や書籍の中の「だれか一人」の例を自分にあてはめずに、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」(書籍・インターネット)から客観的な情報を得るように推奨しています。乳がんの特徴・性質・病期など、自分の状況と全く同じ人は他に誰もいません。ですから、他の人の例を自分にあてはめないこと、他の人と比較しないことが大切です。

家族にがん患者がいる場合、遺伝において乳がん発生に関係あるがん、無関係のがんはあるのですか。

はい。がんの種類によって遺伝の可能性を考える必要がある場合と、そうではない場合とがあります。

炎症性乳がんには痛みがあるのでしょうか。

基本的には、乳がん由来の痛みはないです。自然に(生理的に)痛みがある乳腺・乳房に、炎症性乳がんができると、乳がんのせいで痛いと感じるかもしれません。「炎症性乳がん」ではなく、「乳腺炎」は痛くて熱が出たりします。炎症性乳がん・乳腺炎・乳腺症は、それぞれ全く異なる疾患・状態です。言葉が似ていてまぎらわしいですよね。

抗ホルモン薬の5年と10年間の服用期間で差異はあるのでしょうか。

海外の臨床試験における結果が報告され、ガイドラインが改訂されました。その一方、日本でも臨床試験が行われています。大人数の統計では長期投与が推奨されますが、一人一人、長期投与によるメリット(乳がん抑制効果)とデメリット(骨粗鬆症などの副作用)のバランスについての検討が重要と考えています。10年間の内服が推奨される人とそうではない人がいると推察しています。詳しくは担当医との相談をお勧めしています。

3D、4D、MRI検査で、乳がんは発見できますか。

乳がんが発見できる場合と、できない場合とがあります。一般的には、視触診、マンモグラフィ、超音波の併用検診を推奨しています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群の方の検診にMRIが推奨される場合もあります。

年齢によるがんの進行度合いの違いはありますか。

ご高齢でも勢いのある乳がん、若くてもおとなしい乳がんがあります。

祖父母が乳がんと前立腺がんなのですが、食生活が大きく関係しているのでしょうか。

食生活を含む環境因子が背景にある場合と、遺伝子が原因の場合が推察されます。

自治体の検診でパンフレットをもらうだけではわかりにくいので、自己検診の方法を教えてください。

自己検診の方法は一通りではありません。検診施設で配布しているパンフレットや書店で販売している書籍を参考にしていただくよう説明することが多いのですが、そうですよね、わかりにくいですよね。私自身は外来診療時に、自己検診の方法(手を挙げて鏡に向かう・触診の深さなど)を伝えながら診察を心がけています。次回の検診受診時、視触診担当医に質問してみてはいかがでしょうか。大切なことは、検診で「異常なし」の結果が届いたときに、自己検診をして「何もないときの状態をおぼえておく」ことだと説明しています(検診に行こうと思っている朝に自己触診をしてしこりに気付いてあわてることになるよりも)。

腫瘍マーカーについて詳しく説明してください。

いろいろながんに共通の腫瘍マーカーや、乳がんの腫瘍マーカーなどがあります。体内に乳がんのしこりがあっても上昇しないことがほとんどです。進行乳がん、遠隔転移のある乳がんでも、上昇する場合と上昇しない場合とがあります。転移再発乳がんで腫瘍マーカーが上昇している場合には、その上がり下がりを参考にして、画像検査を計画したりします。

血液検査で数値が上がっている場合、がんの再発と考えられるのでしょうか。

いいえ。採血だけではわからないので、CT、骨シンチ、PETCTなどを行います。

乳がんになってからの治療について、簡単に最近の傾向を教えてください。

早期乳がんは基本的には手術で切除して根治を目指します。手術で切除した乳がんの性質に応じてホルモン剤や抗がん剤が必要となる場合があります。リンパ節転移がある場合には、抗がん剤治療をしてから手術を行います。術後の放射線治療には、部分切除術後温存乳房への放射線照射、リンパ節転移個数が4個以上の場合の領域リンパ節照射などがあります。

乳腺の濃度により検査も変わってくるということですが、最近は出産年齢も上がってきて40代の出産も増えている。授乳中にしこりが気になった場合、乳汁のつまりのことも多いですが、受診が必要なのはどのような症状があるときでしょうか。

基本的には症状がないときに、自治体(区・市町村)や職場の検診を受けることをお勧めしています。授乳中にしこりが気になった場合には、授乳前後で大きさが変わらないとき、助産師さんのマッサージでもつまりが解消しないとき、しこりが大きくなり続けるときには、がんの専門病院ではなく、乳腺クリニック受診をお勧めしています。どうしていいか困った場合には、早めに担当の助産師、乳腺クリニック医師、産婦人科医師への相談をお勧めいたします。

授乳している時にがんが見つかったら、赤ちゃんに影響はありますか。

がん細胞が母乳に混入して赤ちゃんの口から胃に入っても影響はありませんが、治療に用いる薬剤は、乳児に影響を及ぼす場合があります。手術・ホルモン剤治療・抗がん剤治療時には授乳を中止していただく場合があります。

妊娠中にがんが発見されたら、胎児はどうなりますか。中絶しなくてはいけませんか。

妊娠を継続しながらできるベストな治療方法は何かについて、乳腺科・産婦人科・麻酔科・臨床心理士・看護師等で相談して、ご本人の決定をサポートできるように力を尽くします。

乳がんから卵巣、子宮に転移する可能性を考えると、取ってしまったほうが良いのでしょうか。

乳がんからの転移の可能性を考慮して、卵巣や子宮を切除することはありません。遺伝性乳がん卵巣がん症候群では、あらたに卵巣がんができる前に切除を考慮する場合があります。子宮がんの場合には、子宮体がんなのか子宮頸がんなのが、大腸がんなど他のがんの手術をしたことがないか、ご家族に大腸がんや子宮がんの人が多くないか、など、確認が必要です。

遺伝子検査の費用について詳しく教えてください。

施設による差もあるようです。各施設の遺伝子診療部門へのお問い合わせをお勧めします。

BRCA1及び2の遺伝異変は、遺伝子検査でどのくらいの確率でわかるものでしょうか。母親に変異がある場合、子供はいつ頃検査を受けたら良いのでしょうか。又どの位の金額が必要でしょうか。

「日本HBOCコンソーシアム」の資料にわかりやすいものがあります。ご参照ください。
日本HBOCコンソーシアムhttp://hboc.jp/public/index.html

乳がん治療としてパクリタキセルが使用されますが、副作用として末梢神経のしびれがあり、ビタミンB剤を処方されることが多い。痛みがなくならない場合、その他の対処法はありますか。

なかなかよくならないしびれ(末梢神経障害)でお困りのことと推察いたします。その他の対処方法もありますので、担当医にご確認ください。しかしながら、劇的な改善を見込むことは難しいようです。

母親が乳がんの場合、娘はいつから検診をしたら良いでしょうか。

30歳あるいは35歳以下の女性の乳がんは、40歳代50歳代に比べると頻度が少ないうえに、高濃度乳腺のことが多く、全員がマンモグラフィ検診の適応とはなりません。しかし、若い乳がん患者さんも増えてきている傾向もあります。しこりが触れる場合や、家族性乳がん卵巣がん症候群の可能性がある場合、遺伝子異常が明らかではなくてもご家族に乳がんの方が多い場合には、30歳前後からの超音波検診を考慮する場合があります。

家系に乳がんがいない場合は、何歳から検診を受ければ良いでしょうか。

区や市から案内が届くようになったら、検診が必要になったのだとお考えいただくとよろしいかと思います。40歳~50歳が多いと思いますが、30歳代でも機会があれば積極的に受診していただけたらとおもいます。しこりが触れる場合には、その限りではなく、一度早めに「乳腺専門クリニック」を受診することをお勧めいたします。

良性の線維腺腫(しこりとか)が、がん化することはありますか。

基本的にはありません。しかし、ごくまれに、線維腺腫の中や、線維腺腫に接して、乳がんが見つかる場合もあります。これらは、線維腺腫の「がん化」とは異なります。

経過観察で数年たって「がん」と診断されるのは、もともと「がん」だった可能性はありますか。

その可能性は否定できませんが、そうではない可能性もあります。乳腺の腫瘤の中には、良性か悪性(=がん)かの見極めが難しい場合があり、顕微鏡で見直しても答えが出ない場合もあります。

乳がんにて全切除後、遺伝子外来にて遺伝子検査を行い、遺伝子にて将来的に卵巣がんを発生する確率が高いと判断された場合において、日本の医療保険で予防的に卵巣を切除することは可能ですか。

子宮にも卵巣にも基礎疾患がない場合には、基本的には保険診療にはなりません。各施設の婦人科あるいは遺伝子診療部門で確認することをお勧めいたします。

乳がんの転移部位で多いのは、どこの臓器ですか。

骨・肺・肝臓・脳が、多いです。その他の臓器に転移することもあります。乳がんの転移ではなく、別に新しいがんが発生する場合もありますので、診断は慎重に進めることが大切です。

1年に1回検診に行っていても、発見時に進行していることがあるのはなぜですか。

検診の合間に、増殖スピードの速い乳がんが見つかる場合があります。また、5㎜未満でもリンパ節転移をする乳がんもあれば、5cmをこえてもリンパ節転移をしない乳がんもあります。

検診で異常が見つかり、大きな病院で診察を受けるよう言われた時のアドバイスをお願いします。

いちばんは、「自宅から通いやすい施設を選ぶこと」と、皆さんにお伝えしています。どの病院も、「乳がん診療ガイドライン」に基づいた治療を実践しています。