第17回市民公開講座 質疑応答:講演1

講演1:あなたの疑問にお答えします!「小児がんの正しい理解とトータルケア」

治療を終え退院し、外来でフォロー中に再発する子どもたちはどのくらいいますか。

病気の種類や病状によって再発率は様々ですので、一概にお答えすることは難しいのですが、小児白血病やリンパ腫など造血器腫瘍は20-30%程度、神経芽腫などの固形腫瘍や脳腫瘍は30-40%程度と考えられます。

在宅へ帰られる子どもたちに医師はどのように関わっていくのですか。

医療が必要な状態で在宅に移行された子どもに対して、私たちが往診することはしておりませんので、小児の在宅医療を行っていただける訪問診療の先生方や、訪問看護ステーションの看護師さんと連携を図って在宅医療を行っています。

70%は克服するとありますが、その中に再発する数は含まれていますか。

もしかすると、この中には再発を経験された患者さんもおられるかもしれませんが、最終的にはそれも含めて小児がんを克服され、病気が治癒した患者さんたちを指しています。

現在実施予定の治験はありますか。

現在、当院では小児がんに対する新規薬剤や新規治療に関する治験は予定されておりません。国立がん研究センターなどでは小児がんに対する治験が行われていることがあります。

拡大治験または患者申出療養を受けたい場合はどうしたらよいのでしょうか。また、治験方法については医師から提案されるのか、患者から提案するのでしょうか。

拡大治験や患者申出療養については、それを提供している施設にお問い合わせいただくのがよろしいかと思います。治験には適応(参加基準)がありますので、基準を満たしている(と思われる)治験であれば、患者さまからのご要望でご紹介する場合もありますし、医師側からご提案する場合もあります。

なぜ再発するのでしょうか。また再発を防ぐ方法はありますか。

再発のメカニズムについては、まだ完全には解明されておりませんが、再発には二つの仮説があります。腫瘍細胞が初発時の治療に対して徐々に耐性を獲得し、最終的に生き残ったごくわずかな腫瘍細胞が再度増殖して再発が起きるとする説と、すでに初発時の段階で治療が効きやすい腫瘍細胞と、ごくわずかな治療が効きにくい腫瘍細胞が混在しており、最終的に効きにくい腫瘍細胞が生き残って再発が起きるとする説です。残念ながら、現在は再発を完全に防ぐことはできません。しかし、なるべく再発を少なくするためには、やはり初発時治療をより良いものにしていくことが重要と考えられますので、そのためにそれぞれの疾患で多施設共同臨床試験が行われています。

治療で予防接種が全てやり直しの場合は、4種混合など全て行った方が良いのでしょうか。

通常の化学療法のみで治療を終えた場合には、すべてのワクチンを再接種する必要はないと思われますが、造血細胞移植などを受けられた場合には必要になることもあります。また、ワクチンの種類によっても抗体の獲得率や、獲得した抗体が持続する程度が異なる場合もありますので、治療終了後に抗体検査を行い、必要と判断されたワクチンについて再接種を行うのが望ましいと思います。

小児がんは体の深部で発生することが多いと言われていますが、なぜ予後が良好で進行後の治療でも成果を期待できることが多いのでしょうか。

がんの予後は、体の比較的表面に近い部分で発症する(上皮性)か、深部で発症する(非上皮性)かとは、あまり深い関係はなく、その疾患が持つ性質によって決まる部分が大きいと考えられます。したがって、小児がんの予後が比較的良いのは、小児がんがそのような性質の病気だからです。

小児がんを診ている病院は400程度あるということですが、15歳を過ぎると小児科から内科受診があたりまえになっておりますが、連携はどうなっていますか。

日本では、小児がんに限らず小児期に罹患した疾患の経過観察(長期フォローアップ)において、小児科医から成人診療科への移行(トランジション)の仕組みがまだ充分に整っていません。そのため、小児がん経験者の長期フォローアップは、患者が成人になった後も小児科医が総合的に行っている施設がほとんどです。今後、小児がんの治癒率がさらに向上するに連れ、小児がん経験者の数はさらに増えることが予想されますので、現在の長期フォローアップの仕組みには限界があります。トランジションに関する問題は、小児がん医療の中で最も解決が急がれる問題のひとつだと思います。

現在、順天堂には小児科がんの子どもは何人いますか。

患者数の多少の増減はありますが、当科には常時15-25名程度の小児がん患児が入院して治療を受けております。また、外来には、治療が終了した多くの子どもたちが定期的に通院をしています。

小児がんの発見方法は、親としてどんなところを注意して見れば良いのですか。

子どもが小児がんに罹患される可能性は極めて低いですし、もしできたとしても全身の どこにできるかわかりません。だからと言って、ご両親に毎日全身をくまなく診察していただく必要はありません。理由のはっきりしない発熱、腹部の膨満、痛みなどの症状が続き、症状の改善が認められない場合には、一度専門医に相談することをお薦めします。

小児がんが治っても後遺症などは残るのでしょうか。

原疾患である腫瘍そのものによる症状が後々まで残ることがあります。例えば、脳腫瘍で生じた視力障害が、治療が終了して原疾患が治癒しても残存する場合などがそれにあたります。また、治療に伴う副作用や合併症が残る場合もあります。例えば、化学療法による心機能障害、聴力障害などがそれにあたります。

がんにかかりやすい子ども、そうでない子どもがいるとのこと。どのような子どもがなりやすいのでしょうか。

どのような子どもが小児がんに罹りやすいのかは、まだはっきりとわかっていません。 しかし、ある先天性の疾患や体質をお持ちの子どもや、超性出生体重児で生まれた子どもなどは、ある種の小児がんにかかりやすいことは知られています。また、これまでの疫学研究から、母体の出産年齢、ご両親の喫煙歴などが小児がん罹患率と関係があることがわかっています。

抗がん剤治療後、味覚等変わりますか。

抗がん剤治療中は、わりと濃い味付けを好む傾向があり、治療前と比べて食べ物の嗜好が変わる子どもをしばしば見かけますが、治療後も恒久的に味覚の変化が続くかどうかは、詳しくわかっていません。

二次がんはどのようながんがありますか。

化学療法で使用される幾つかの薬剤がリスク因子として知られています。アルキル化剤(シクロフォスファミドなど)、トポイソメラーゼ阻害剤(エトポシドなど)、アントラサイクリン系抗がん剤(ドキソルビシンなど)による骨髄性白血病や骨髄異形性症候群などが二次がんとして発症することがあります。
また、放射線治療と二次がんの関連も知られています。照射部位と関連した二次がんが多く報告されており、頸部や胸部に照射したホジキンリンパ腫後の乳がん、甲状腺がん、肺がん、頭蓋照射を施行した白血病後の脳腫瘍などが知られています。

5年後のフォローアップはどのような事を行うのでしょうか。

治療終了から5年が経過すると、一般的には原疾患の再発の危険性は極めて低くなります。そのため、通常5年経過後は再発の有無に重点を置いた経過観察ではなく、晩期合併症や二次がんの有無などについて重点を置いた経過観察をしていくことになります。

5年経過後、晩期合併症で気をつけることはありますか。

まずは、健康に留意した生活を維持することで、自分または子どもの身体的な変化にいち早く気づくことができます。前提として、自分または子どもの病気を正確に理解すること、抗がん剤の種類や投与量、放射線照射部位や線量、移植の種類や内容等の治療内容についての情報を入手し、その内容を理解していることが重要です。原疾患や受けた治療内容によって、起こりうる晩期合併症の種類が異なってきますので、主治医と一緒にフォローアップ計画を立て、定期健診をきちんと受けることが重要です。

晩期合併症について、内容的にはどのような合併症が多いのでしょうか。

小児がん治療に関わる晩期合併症は、主に生命に関わる可能性のある合併症と、生活の質に関わる合併症とに分けて考えることができます。主に生命に関わるものでは、二次がん、アントラサイクリン系抗がん剤による心機能障害、ブレオマイシンによる肺線維症などがあります。また、生活の質に関わるものでは、妊孕性の低下(不妊症)、頭蓋照射による知能障害、化学療法や放射線治療による視覚・聴覚障害、内分泌障害(低身長を含む)などがあります。

晩期合併症のリスクを減らせるようなセルフケア、生活習慣のエビデンスがありますか。(海外/日本)また、そのケアについてサバイバーはどの位認識しており、実行に移すことができていますか。

晩期合併症のリスクを軽減するために、充分なエビデンスのあるセルフケアや生活習慣はまだありません。また、原疾患や治療内容によって注意すべき点は異なりますので、一概に論じることはできません。しかし、食事、運動、感染症予防、睡眠、禁煙などは一般的に人間の健康レベルを向上させる要因ですので、これらを充分に理解し工夫して生活する必要があります。二次がんの発症リスクを下げるためには、一般的にがんの発症を促すような行動をとらないことが重要ですので、禁煙、過度な飲酒や日焼け、放射線暴露を控えることなどが必要となります。これらについて、小児がん経験者がどの程度認識しており、実践しているかは正確にはわかりませんが、理想的には全ての小児がん経験者に理解していただき、実践していただくことが望ましく、そのためには私たちが健康指導や健康教育にもっと力を注いでいく必要があると考えています。

晩期合併症(循環器の問題、婦人科の問題)に発症した場合、どこまで小児科の医師がフォローされているのでしょうか。

日本では、小児がんに限らず小児期に罹患した疾患の長期フォローアップにおいて、小児科医から成人診療科への移行(トランジション)の仕組みがまだ整っていません。そのため、小児がん経験者の長期フォローアップは、患者が成人になった後も小児科医が総合的に行っている施設がほとんどだと思います。しかし、小児科医が全ての晩期合併症に対応できるわけではありませんので、循環器に関する問題が生じた場合には、小児期であれば小児循環器の専門医に、成人した後であれば循環器内科医に協力していただいて診療しています。また、婦人科的問題が生じた場合も同様で、多くは産婦人科医に協力していただきながらフォローアップを行っています。

晩期合併症が発症した人の就職問題はどうでしょうか。

小児がんへの認識が徐々に深まるとともに、小児がんの既往のみで、現在は普通に就労できる方に関しては、就職に関する大きな支障はなくなってきたと思われます。しかし、晩期合併症を生じておられる方に関しては、その合併症の種類や程度によりますが、選択しうる職業が制限されてしまったり、場合によっては就労困難となる場合もあります。

患児を支援する体制が整っていると感じましたが、今後どのような課題があるか教えてください。

治療中・治療後を通して、患児を支援する体制は徐々に整っていると思いますが、例えば入院治療中の高校生に対する学習支援は大きな課題の一つです。現在、入院中の小学生、中学生に対する院内学級や訪問学級はほぼ完璧に行われていますが、高校生に対する学習支援が行われている医療機関は非常に少なく、自主学習や個人的な家庭教師等に依存しているのが実際です。また、移行医療(トランジション)の仕組みを整えることも、非常に大きな課題だと思われます。

小児がんの発症「率」(例えば年間一万人あたり)についても小児がんは成人のがんによりかなり低いという理解であっていますか。率の数字はどの位でしょうか。

15歳以下の小児人口と、それ以上の人口は比率が異なりますが、仮に全く同等であったとしても小児がん患者数の方が少ないため、小児がんの発症頻度は成人のがんよりも低いと考えられます。

良性の線維腺腫(しこりとか)が、がん化することはありますか。

良性の腫瘍が悪性に転化することは絶対にないとは言い切れないと思いますが、通常は稀なことと認識します。

小1で発症し、現在小6になりなぜ薬を飲まなければいけないのか、身体が疲れやすい、なぜリンパ浮腫がおきたのか、等疑問が多く出てきています。治療後、通院間隔が空くようになってからこのような症状が現れ、説明に苦慮しています。どのように説明したら良いでしょうか。

まず、子どもは自分の病気を正確に理解していますか。小1での発症となると、その時点で病気や治療の説明を受けていても充分な理解が得られませんし、記憶も曖昧になっていきます。まずは、自分が幼少期にどんな病気に罹ったのか、そしてどんな治療を受けたのかを、小学6年生の理解力に合わせてもう一度正確に説明してあげることが必要だと思います。その上で、原疾患や治療内容によって現在の症状が生じていることや、定期受診が必要な理由を理解してもらう必要があります。説明にあたっては、ご両親からでも主治医からでも良いと思いますが、いずれにしても大変な治療を乗り越えて頑張った結果が現在の姿であることを、みんなが認めてあげる姿勢が非常に大切です。

小児がんを治癒して成人した人達は過去の治療での体験を「思い出したくない」のか、「あの時がんばった。だからこれからもがんばる」どちらの考えをお持ちの人達が多いのでしょうか。

私が外来で接している小児がん経験者の方々は、発症した年齢などにもよりますが、「思い出したくない」と感じている患者さんは非常に少ないように思います。患児自身に病名告知や病状説明をする際、「辛い経験ではあるが、小児がんに罹患したという事実もあなたの人生の一部だよ」とお話ししています。実際に患児たちは、そのことを自ら感じて受け止めながら、力強く自分の人生を生きている子どもたちが非常に多いと思います。