第18回市民公開講座 質疑応答:講演1

質問内容は、皆様にわかりやすいよう一部内容修正しています

講演1:骨転移の診療

骨転移がわかる腫瘍マーカー(採血の変化)は、ありますか。

もともとの原発巣の腫瘍マーカーの変化や、血清ALP(アルカリフォスファターゼ)、 あるいは骨代謝マーカーといわれるものが参考になることはありますが、痛み・しび れなどの理学的所見や画像診断と一致しないこともあるので、参考にしない場合もあります。採血の変化にはむしろ惑わされないように注意すべきと考えています。ですので、これを見れば骨転移がわかる、という腫瘍マーカーはないと考えます。

腫瘍マーカーは、どの位の段階で数値に出てくるのでしょうか。

その症例ごとに異なりますが、通常小さい骨転移が散発した程度、あるいは放射線照射や手術が必要な骨転移1カ所程度ではさほどの動きはないようです。ただし、骨破壊が少なくても、骨髄の中(骨梁間)に広範にがんが浸潤するタイプの骨転移では、腫瘍マーカーが大きく変化することがあります。他のリンパ節や内臓の転移の影響も受けるので、腫瘍マーカーの変化をどう判断するか、骨転移が出てきたかどうかなどは、他の採血データ、症状などの理学的所見、様々な画像診断を含めた総合的な判断が必要と考えます。

骨転移が起きた場合、完治する確率は低いのでしょうか。

基本的に骨転移があるということは、体の中の骨転移以外の部位にもがん細胞が潜んでいることとなり、根治は極めて困難となります。骨転移が起きた場合、いかにいい状態を長く保つかが大切であり、一般的には完全に治るということはほとんどない、と考えてください。ただし甲状腺がん・腎細胞がん・乳がん・前立腺がんなどの一部では他の転移がない場合、骨転移してからも非常に長期に生存することがあります。また、骨髄腫やリンパ腫などの血液のがんの骨病変では、化学療法によってほとんど完治した様な状態になることもあります。

骨転移の確定診断は、何から決定されるのでしょうか。

骨転移の診断の多くは臨床的に行います。痛み・しびれなどの症状と、血液検査、レントゲン・CT・MRI・骨シンチ・PET-CTなどの画像診断で行い、疑わしい症例、紛らわしいものに関しては、経過観察します。経過を見る場合、1~3か月ぐらいの中での増大傾向、症状出現などで判断します。また、特定の腫瘍マーカーの推移を参考にしたり、骨転移部の組織を取って組織診断を行ったりすることもあります。骨転移の診断が、その患者さんの治療方針に大きくかかわることもあり、総合的な判断が必要となります。

大腿骨に転移して骨折した場合、人工関節は日本製のものですか。それとも外国製のものですか。また、人工関節にした場合、CTやレントゲン撮影は可能ですか。

大腿骨のどの部位に転移したか、どの程度の骨破壊を認めるか、予測される予後はどの程度かによって外科的治療の方法が変化します。髄内釘やプレートとスクリューを用いることもあります。人工関節の場合、日本製のものも外国製のものも使われます。
順天堂では部位によって使い分けています。また、人工関節を入れた後、レントゲンは問題ありません。CTやMRIも撮影可能ですが、人工関節の周囲は非常に見えにくくなるので、目的をはっきりさせて行うことが重要です。

骨転移は放射線治療が多いとのことですが、すでに転移場所に放射線治療を行っている場合、どのような治療に変えているのでしょうか。事例がありましたら教えてください。

放射線治療後、骨転移を起こした部位が再度痛くなったり、骨折や麻痺のリスクが出てきたりした時、放射線による障害のリスクを承知で再度放射線治療を行うこともあります。また、脊髄や重要臓器をよけながら治療する特殊な放射線治療を行う場合や、手術を行うこともあります。また、骨盤などでは画像下治療を用いて、骨セメント注入や凍結療法なども行います。いずれも局所的な治療で、全体的には骨修飾薬投与や鎮痛剤投与、リハビリによる日常生活動作指導なども重要になります。

強い痛み・しびれを感じたら、主治医の先生に、整形外科で転移しているのか調べてほしいことを伝えて、整形外科で受診予約を入れた方が良いのでしょうか。

骨転移をきたしているかどうかは、主治医の先生が調べて判断することが多いと思います。画像などで判断に迷うとき、主治医から整形外科医に相談があれば、受診していただくか、その場で画像の判断をお伝えすることが一般的です。ただし、忙しい外来の中で、主治医に骨転移の診断をすべてゆだねるのは困難なこともあります。症状があって、患者さんのご心配があれば、積極的に整形外科に受診することを考えて良いと思います。

骨転移と診断されるまでに、現れる症状を教えてください。

一般的には、骨転移部位に増強する痛みが出てきます。上肢であれば、手をついたときの痛み、下肢であれば、体重をかけた時の痛みなどです。その部位を押したときの痛みも参考になります。脊椎の場合は頚部痛、背部痛、腰痛以外に、神経を圧迫して肩や手、側胸部、臀部や下肢にしびれや痛みが出てくることが多くなります。これらの症状は加齢による脊椎や関節の変形に伴う痛みに類似するため、注意が必要です。また、これらの症状を伴わず、貧血や気分不快などの全身症状が出ることや、まったく症状が出てこないこともあります。

2004年に乳がんの手術をしました。2012年頃から上腕が痛いので3つの病院の整形外科を受診しましたが、すべて五十肩との診断でした。もし骨転移だとすると、診断されるまでにどのくらいの期間がありますか。

骨転移の症状が出てから診断されるまでの期間ということですが、様々な状況でありうるため、一概には言えません。五十肩は一般的に肩関節周囲炎と言って骨には変化が少ないのですが、骨転移と紛らわしいこともあります。もし骨転移だとすると、という仮定をすることにはあまり意味がないと思います。骨転移かどうかには、正確な診断をするために症状の経過と画像の変化などが大切になります。しかし、残念ながら、ずっと痛みを訴えていた患者さんが、かなり時間が経過してから骨転移と診断されることがあるのも事実です。

原発巣が胆管がんで骨転移している場合、治療は可能でしょうか(背中が痛くて整形外科を受診していたが、整形外科では問題なしという診断。あまりに痛くて、家の中で倒れ、救急車で運ばれ、骨転移、圧迫骨折と診断された。既往歴なし)。

骨転移の治療は原発である胆管がんの治療とのバランスでどうするか判断されます。胆管がんに対する治療が不可能な場合でも、骨転移に対する治療は行ったほうがいいこともあります。詳しい状況がわからないので、積極的ながんに対する治療が可能かどうかの判断は難しいですが、緩和的なことも含めての治療であれば、不可能ということはないと思います。

麻痺を防ぐためには、1日に何単位くらいのリハビリをするのでしょうか。また、どのような内容ですか。骨折をしないような力の入れ具合等、注意点も教えていただけますでしょうか。

骨転移による麻痺や骨折の予防に、日常生活動作の指導が大切なことは事実ですが、何単位のリハビリをしたらいいとか、その内容については個々に異なるため、一概には言えません。脊椎では重いものを持つ、中腰の動作、急に体をひねる、背中を丸めて座るなどを避けてもらうことは重要です。上肢も重いものを持たない、手をつかないなど、下肢は痛い方の足はなるべくつかない、ゆっくり少しずつ動く、杖を使うなど、その患者さんの骨転移部位や疼痛の程度によって、また生活習慣によっても異なってくるので、全体を見通した判断が必要です。

以前から右足の甲部分にしびれがありました。仕事で立ち座り等が多くなり、負担が増えたためと考えて、あまり気にしていませんでした。2~3か月前に胃がんが見つかり切除しました。その後、左足の甲、ふくらはぎ外側にしびれを感じるようになりました。もとの右足甲、足裏のしびれ、また腰のしびれ(痛みではありません)も感じます。骨転移の可能性はありますか。

以前からの症状があれば、脊椎の変性によるものがもっとも考えられます。また、抗がん剤治療を行っていれば、それに加えて神経毒性による症状の増悪も考えられます。
ただし、症状の変化が骨転移ではないという保証はありません。胃がんが早期であったかどうかなどのがんの状況も関連するので、今後の方針として、経過観察とするか積極的に画像で検索するかは、まず主治医と相談し、場合によっては整形外科医とも相談した方がいいでしょう。

乳がん治療中でランマーク®治療を先月から始めました。ランマーク®は2年で一度治療を見直すようですが、2年以上使っている人はどのくらいいるのでしょうか。2年で効かなくなってしまうのか知りたいです(現在骨の痛みはないです。CTで骨転移だろうと診断されました)。

骨転移の診断がでれば、ランマーク®の投与は行いたいところです。合併症として顎骨壊死があるため歯科の診察を行い、必要な治療があれば行ってから投与します。2年を超えると顎骨壊死の可能性が上昇してくるので、骨転移の状態が落ち着いていれば、投与間隔を伸ばしたり、一時中断をしたりしますが、全国的に方針が定まっていません。投与開始から2年以上経過しても効果がなくなるわけではなく、骨転移が問題と考えれば投与を継続している患者さんもたくさんいます。ただし、投与していればいいというわけではなく、漫然とした投与には注意が必要です。

6年前に甲状腺がんの手術をしましたが、睡眠中、腰・背中が痛く、目が覚めてしまう事が多いです。骨転移の可能性はありますか。

骨転移の場合、多くは増悪する疼痛、動作時の痛みがあります。甲状腺がんでは、とくに濾胞がんの場合で骨転移が多くみられ、長い経過の中で治療が必要になってくることがあります。6年前でも可能性は否定できないので、とくに疼痛が増悪傾向であれば、一度精査してもらいましょう。

骨転移した場合、家族の協力等、いろいろな気配りが必要だと思うのですが、どこに気を配れば良いでしょうか。初期、中期、後期、程度別で教えてください。

まだあまり疼痛もなく骨転移が小さい場合、日常生活では大きな負担をかけないようにする程度で、定期的な診察や骨修飾薬の投与を欠かさず行うことが必要です。疼痛があり、骨折や麻痺への注意が必要な場合は、放射線治療や手術などの必要な治療と日常生活動作の注意を医師とともに相談し、外出に付き添う、転倒に気を付ける、荷物を持ってあげるなどの気配りを心がけましょう。かなり動くのもつらく残りの時間が少ない時期には、できるだけ傍にいてあげ、何がその人にとって一番大切かをともに考えることが大事だと思います。その時々、その人それぞれに異なることもあると思います。

原発巣(肺)が小さい多発骨転移は、分子標的薬で制御できているなら、ビスフォスフォネート製剤など使用する必要はないのですか。それとも骨強化のため使用した方が良いのですか。また副作用の顎骨壊死のことも教えてください。

分子標的薬の効果が著しい場合でも、原発巣が小さいなどは関係なく、ビスフォスフォネート製剤やランマーク®などの骨修飾薬は、今後の骨転移の進行の予防目的で投  与すべきと考えます。顎骨壊死は骨修飾薬投与をしている患者さんの数パーセントに現れ、投与している期間が長いほど、確率が上がってきます。一度起こると食事がかなり困難になり、処置も大変で長くかかるため、できるだけ回避したいと考えます。そのため、ひどい虫歯がある、歯槽膿漏、入れ歯の問題がある方には、必要な処置を行ってから注意しながら投与するか、投与しないことも選択肢となる場合があります。

骨転移でも治療をすれば長く生きられると話していたが、仕事はいつまで続けることができるのか、またある日突然立てなくなることもあると思うが、その対策としてできることを教えてほしい。

骨転移の治療をしないと、痛みが強くなったり、骨折したり、四肢の麻痺を起こしたりして、動けなくなることが多くなります。寝たきりになれば、体力の低下や肺炎・尿路感染、床ずれなどを起こし、結果的に寿命を縮めることになります。しかし、治療をしっかり行えば、原発巣のがんの状態にもよりますが、動ける状態を長く保つことも可能になります。仕事はその性質によっていつまでどのように行うかは、医師・会社などと話し合いが必要です。動けなくなることへの対策は、背部痛や下肢の痛み、しびれなどが起きた時、あるいは増悪した時、また画像で骨転移の悪化がある時に迅速に医師とよく対処を相談することです。ただし、動けないという状況が避けられないこともあり得ます。

骨転移は(他臓器転移に比べて)痛いと言われるが、そのメカニズムを教えていただきたい(がん細胞が骨にとんで、骨がスカスカになり、骨折した状態になるということでしょうか)。

疼痛発生のメカニズムはかなり専門的になります。がん細胞が骨に着くと、痛みの元である物質が放出され、それによって侵害受容性疼痛が発生します。さらに骨膜や骨髄にある知覚神経が損傷され、神経障害性疼痛も発生するとされています。これに骨破壊による破骨細胞からの痛み刺激の放出、不安定性による物理的なもの、末梢神経・脊髄神経の障害や圧迫が重なっていくものと考えられています。がん細胞が骨にとんで、骨がスカスカになり、骨折した状態になる、とはこの中の物理的なものだけを指しています。それ以外にも化学的な物質の刺激による疼痛発生のメカニズムがあるということです。

骨のがんは一般的に「がん」と呼ばず、骨肉腫とか、骨軟部腫瘍と呼ばれるのは何故でしょうか。高齢による脚・腰の痛みと腫瘍による痛みと区別がつかない場合は、どのように判断すれば良いのでしょうか。

「がん」とは悪性腫瘍全体のことを指す言葉で、「癌」が一般的な上皮性の悪性腫瘍である、肺癌、胃癌、乳癌、大腸癌などの内臓にできるものを指すようです。骨や筋肉にできる悪性腫瘍である肉腫、白血病や骨髄腫・リンパ腫のような血液の悪性腫瘍、脳の悪性腫瘍などもあわせて大きく「がん」とくくるようです。肉腫とは見た目が肉のようだったことから言われたとの説があります。骨軟部腫瘍とは、骨や筋肉、血管神経などの軟部組織にできる腫瘍全体を指し、良性もたくさんあります。骨転移はもとのがんが何であれ、骨に転移したものすべてを指します。高齢による変性での痛みと骨転移の痛みを厳密に区別することは困難ですが、骨転移の痛みは増悪することが多く、画像との比較を含めて総合的に判断が必要です。

がんの種別による骨転移の多い部位はどこですか。骨転移の前兆症状の特徴を教えてほしい。前立腺がんで膝への骨転移が発症することはあるのでしょうか。

がんの種別による骨転移部位の違いに関して、詳しいデータはありません。肺がんに肋骨転移や胸椎転移、乳がんに胸骨転移、前立腺がんに腰椎と骨盤転移がやや多い傾向がある印象はあります。骨転移の前兆症状とは骨転移が出る前の症状ということであれば、特定のものはありません。発見のきっかけとして、増強する背部・腰部・下肢などの痛みやしびれが大事な所見です。前立腺がんに限らず、膝周囲の骨転移は多くありませんが、もちろんあり得ます。

約15年前に前立腺がんの全摘手術を受けました。当時内視鏡手術ではなく、開腹による手術でした。術後PSAは下がりましたが、又上昇しホルモン治療をして又下がりましたが、最近又上昇し、1.00になってきました。現在他の病院で骨密度が低いことが分かり、その治療をしていますが、前立腺の病院ではホルモン治療をすると骨密度には逆効果になると云われました。どうしたらよいでしょうか。現在左足付け根から膝下迄、腰かけていても歩いても痛みがあります。前立腺がんから転移しやすい場所は(%比)あるのでしょうか。

前立腺がんのホルモン治療によって、骨密度は低下する方向になります。これに対して、骨のマネージメントとしてのビスフォスフォネート製剤や抗ランクル抗体の投与を行うことが推奨されています。担当医師と相談し、骨塩定量の検査を行い、低下しているようであれば、上記を検討してもらいましょう。左足の付け根からひざ下の痛みは、腰椎や股関節の変形が考えやすいですが、もちろん骨転移からの場合もあります。過去のデータからはがんによる骨転移部位の詳しいデータはありませんが、前立腺がんでは腰椎や骨盤がやや多い印象があります。