薬物治療

抗てんかん薬
てんかん患者の約70%は、抗てんかん薬の内服にて、発作抑制が可能とされています。
てんかん発作型およびてんかん症候群分類に基づき、適切な抗てんかん薬を選択しております。
近年は、種々の新しい抗てんかん薬も使用可能です。それぞれの患者さんにより、使用する抗てんかん薬の選択には、さまざまな要素を考慮する必要がありますので、外来にてご相談ください。

血中濃度測定

採血
バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバールの血中濃度に関しては、採血後より1~2時間で結果をお伝えすることが可能です。ゾニサミド、レベチラセタム、ラモチリジンは、採血後結果が出るのに数日を要します。トピラメートに関しては、血中濃度の測定は必要と判断された場合に行うことにしています。

挙児希望の女性

挙児希望の女性
1剤コントロールを目指します。完全に抗てんかん薬の内服をやめることができなくても、単剤コントロールが可能になることで、奇形が起こる危険性は減らすことができます。葉酸の投与は全例に行っています。てんかん発作頻度が多い患者さんや不妊治療を行っている患者さんは、当院産婦人科または二次連携施設産婦人科と連携をとり安全な妊娠、出産を目指します。側頭葉てんかんなどで、抗てんかん薬を中止できる可能性がある場合は、手術治療を考慮します。

側頭葉てんかん

側頭葉
抗てんかん薬は効きづらいですが、手術治療の有効性が既に確立されています。検査結果が妥当であれば、早期の手術治療を行うことで社会生活へ適応しやすくなると思われます。

小児てんかん

小児てんかん
抗てんかん薬が著効を示す全般てんかんには適切な薬物治療を行います。難治性てんかんで、てんかん発作が長引くことで精神運動発達を遅らせてしまう危険性があると判断された時には、抗てんかん薬による治療をむやみに延長することはなく、発達を促すことを第一に考え、発作を軽減させる手術を行います。

その他

絶対的薬物治療が必要な場合もありますが、手術治療との併用により、抗てんかん薬の減量ができる患者さんがいます。抗てんかん薬の種類が減ったり、中毒量ぎりぎりの投与から余裕ある投与量に変更することができれば、副作用の軽減のみでなく、社会生活への適応に近づけると思います。

手術治療

基本的にてんかん外科は脳摘出手術です。そのため、摘出に伴い欠損する神経症状があることに注意しなければなりません。
私たちは以下の手術目標を掲げます。 
1.適切な手術時期を逃さない。
2.正確なてんかん焦点診断を行う。
3.手術による神経学的欠損症状をなくす。
手術治療には大きく分けて、根治術と緩和術があります

(1)側頭葉てんかんに対する選択的海馬扁桃体摘出術

側頭葉てんかんの主たる原因として、海馬硬化が考えられます。頭部MRIにて海馬硬化を認め、脳波検査にて同部位からのてんかん性脳波異常、発作症候が側頭葉てんかんに矛盾しない場合には、摘出術が適応となります。摘出術には、選択的海馬扁桃体摘出術と前部側頭葉切除術があります。当てんかんセンターでは、主に、選択的海馬扁桃体摘出術を行なっております。

手術用顕微鏡を用いて、シルビウス裂(前頭葉と側頭葉を分ける脳の大きな溝)を分けて、脳実質内に入ります。側脳室下角(髄液のたまり)に入り、海馬および扁桃体を確認します。海馬、扁桃体および外側側頭葉皮質に電極を留置して、術中脳波を記録します。
これは、海馬、扁桃体の摘出後に、外側側頭葉皮質の摘出を行うか否かの根拠の一つになります。術当日は、ICU(集中治療室)にて経過観察をいたします。術翌日には、頭部CT検査を行い一般病棟へと戻ります。入院期間は、約10日程度となります。退院後は、約2週間後を目安に、外来に通院していただきます。経過が良好であれば、その後は、約1ヶ月に1度の通院となります。抗てんかん薬は、原則、術後1-2年は、術前と同様の用法・用量で内服を継続いたします。術後半年、1年、2年のタイミングで、外来にて頭部MRI、脳波検査、神経心理検査を行い(小児の場合には鎮静が必要となるので1泊2日もしくは2泊3日入院)、発作の有無などを確認した上で、外来担当医が減薬について判断いたします。

(2)焦点切除術

限局性皮質異形成、脳腫瘍、血管奇形、瘢痕病変(出血、虚血、外傷、感染後の脳実質の変化)などが認められる場合には、同部位がてんかん焦点であること、かつ同部位を安全に摘出可能であることを確認した上で、焦点切除術の適応となります。頭蓋内電極留置術の適応となることもあります。術後の流れは、上記(1)と同様になります。

(3)半球離断術

片側巨脳症やスタージウェーバー症候群などの、大脳半球一側の広範囲にわたる病変を認める場合に、半球離断術が適応となります。大半は小児患者さんが対象となります。精神運動発達遅滞があり、片麻痺や半盲などの神経症状が、すでに明らかである場合が適応となります。てんかん性の異常放電が伝播する繊維を離断します。術後、片麻痺の増悪が出現しますが、小児では脳の可塑性が高く、代償性に回復が期待されます。術後から数日間は、離断症状といって、意識状態の低下、呼吸状態の悪化や嚥下機能低下などが出現しますので、これらの症状が改善するまでは、ICU(集中治療室)での管理となります。入院期間は約3週間前後となります。退院後の流れは、(1)と同様になります。

(4)脳梁離断術

緩和手術の一つになりますが、転倒発作に対しては非常に効果が期待できます。てんかん性スパズムに対する脳梁離断術の有効性も報告されております。術式には、全脳梁離断術と脳梁前半部離断術があります。年長児に対して全脳梁離断術を施行すると、術後に離断症候群という合併症が出現するとされています。当てんかんセンターでは年齢を顧慮した上で、全脳梁離断術もしくは脳梁前半部離断術、いずれかの術式を選択しております。術後の流れは、(3)と同様になります。

(5)迷走神経刺激療法(VNS)

緩和手術の一つになります。薬剤抵抗性てんかんで、開頭手術の適応にならない場合(多焦点である、運動野や言語野といった機能的領域に焦点がある)、もしくは開頭手術の効果が不十分だった場合、迷走神経刺激装置留置術(vagus nerve stimulation : VNS)の適応となり ます。VNSにより、てんかん発作は、2年後までに平均50-60%減少すると報告されています。
発作が消失する患者さんは約5%、効果のない患者さんは約10-20%存在します。
手術用顕微鏡を用いて左頚部から迷走神経を同定して刺激電極を巻きつけます。左前胸部 にはジェネレーターと呼ばれる刺激装置を植え込みます。
入院は2泊3日間となります。退院後、約2週間を目安に外来受診していただ き、実際の刺激を開始していきます。間欠的に入る刺激によりてんかん発作を抑制する効 果があります。刺激に伴う副作用として、咳、嗄声、咽頭部不快感、嚥下障害などが挙げ られますが、一時的であり改善していきます。

(6)頭蓋内電極留置術

非侵襲的検査(MRI検査/脳波検査/PET検査など)で、てんかん焦点の同定ができない場合や、機能的領域(手足の運動を司る、言語を司る領域)の近くにてんかん焦点が存在していて脳機能マッピングが必要な場合には、頭蓋内電極留置術の適応となります。これは、てんかん焦点同定のための検査ではありますが実際には検査目的のための手術となります。
手術室で、全身麻酔下に開頭術を行い、脳表を確認したのち、非侵襲的検査でてんかん焦点を疑われる領域や機能的領域およびその近傍に電極を留置します。術後から、ICU(集中治療室)で、脳波モニタリングを行います。複数回の発作を捉えるために、安全な範囲で抗てんかん薬を減量もしくは中止をします。てんかん焦点の同定が終了したのちに、一般病棟へ戻ります。続いて、脳機能マッピングを行います。当てんかんセンターでは、大阪大学脳神経外科および東京農業工業大学工学部と共同研究をしており、脳機能マッピングの際には患者さんにご協力をいただくことがあります。原則2週間、電極を留置したのち、摘出術(2回目の手術)を行います。術後は、手術創部の管理のために、約2週間程度の入院継続が必要となるので、計1ヶ月前後の入院となります。退院後の流れは、(1)と同様になります。

手術支援

ナビゲーション

術中脳波


Stealth stationというナビゲーションシステムを使用しております。手術中に、脳腫瘍や形成異常の部位を正確に同定し、安全で効果的な摘出を心がけています。

術中脳波

終夜ビデオ脳波検査
術中脳波が必要なのかについては、以前より議論の的になっていますが、私たちはてんかん手術の際には、全例で脳波を記録する方針をとっています。術前に決定したてんかん焦点を摘出した後には、脳波分布が変化する可能性があると考えています。術中脳波を試行することで、手術時間は長くなりますが、手術のリスクを上げることにはならないと考えています。

術中脳機能モニタリング

専任のメディカルエレクトロニストが手術中の感覚機能、運動機能、視覚機能の同定を担当しています。