第3回 「シリーズをはじめるにあたって」

掲載日:2011.01.06
臨床画像2010. Vol26 1393「知っていますか?画像診断に不可欠な画像解剖と正常値」より
桑鶴良平 (放射線診断学講座 教授)

CT,MRIなどの画像診断時に,「異常を認めない」とか「正常」とレポートを書くことが1日に何度となくある。現実には明らかに異常があるほうがレポートは書きやすい。異常所見を記載し,広がりや質的診断,今後の追加検査や治療を推薦するといったレポートが作成される。
異常がないという診断は,正常な形態,正常な値を熟知していて,それらに照らし合わせて判断している。ときに疑問に思うのは,画像診断において正常な形態とか正常な値とかは一体どう判断すればよいかということである。全検査で画像診断医が自分で各臓器の体積を計算したり,CT値を測定するのは費やす時間と得られる効果を考えると意味がないと思われる。体格によっても正常値は異なるので考慮が必要である。将来的には身長,体重,生年月日(年齢)を入力してコンピュータが自動的に各臓器の体積やCT値,辺縁の角度,表面の平滑度などを計算して出力してくれるのであれば,われわれは測定の手間が省け,得られたデーターを参照して所見を書くということが日常行われる可能性がある。
現時点で日本人の画像診断の正常値,正常の形態に関して,特にCT,MRIの分野で全身を網羅した正常値の成書はみられない。したがって断片的に正常値が書かれた文献を探したり,自分で正常と思われる症例と異常と思われる症例を積み重ねて検討しているのが現況と思われる。画像診断は今後も進歩し,空間分解能やコントラスト分解能の変化により,正常値はやや異なってくることもあると思われるが,現時点で正常値や正常形態についてまとめてみたいと思ったのが本シリーズ企画のきっかけである。その後,各領域の専門の先生にお願いして,現在は多領域における執筆が進行中とお聞きしている。多くの文献を調べたり,画像を集めたり各分担執筆者にはご苦労をおかけしているが,画像診断の質の向上のため,新たに画像診断の勉強をはじめた研修医教育,医局員教育のためと思って執筆を快諾していただいた諸先生に感謝する次第である。よい原稿が出そろってきており,ぜひ,日常診療で参考にしていただきたいと思っている。