顔面神経麻痺の概要

顔面神経は脳から出て側頭骨内を通り、耳の下から出てきて、顔の表情を作る筋肉に分布している神経です。この経路のうちいずれかが障害を受けると、顔面神経麻痺になります。顔面神経が麻痺すると片方の顔の動きが悪くなり、目を閉じられなくなったり、食べ物や水が口から漏れたりします。その他にも涙や唾液を出す神経や味覚を感じる神経としても枝を出していますので、涙や唾液の分泌低下や味覚障害なども生じます。

顔面神経麻痺の症状

顔が動きづらい(シャワーの際に目に水が入る、食べ物や水が漏れるなど)、涙の分泌低下、味覚障害、聴覚過敏などの症状をきたします。
また、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因による麻痺(ラムゼイ・ハント症候群)の場合は耳や口の中に痛みを伴う湿疹ができるほか、耳鳴り、難聴、めまいなどを伴うことがあります。

顔面神経麻痺の原因

  • 中枢性麻痺(脳腫瘍や脳血管障害)
  • 末梢性麻痺
    ベル麻痺:大半を占めますが、その原因は不明とされます。
    ラムゼイ・ハント症候群:水痘・帯状疱疹ウイルスによるもので、耳や口の中の水疱形成、耳鳴り、難聴、めまいなどを伴うことがあります。
  • 外傷:事故やけが等による側頭骨(頭がい骨)の骨折により生じた顔面神経麻痺では、手術が必要になることがあります。
  • その他:中耳炎によるもの、先天的なものなど。

顔面神経麻痺の検査

当院では、予後診断が重要と考え、発症から7~10日後にENoG(誘発筋電図検査:顔面神経を刺激し筋電図として記録し、左右を比較する検査)を行い、重症度や予後の判定を行っています。
また、中枢性顔面神経麻痺の除外目的に頭部MRI検査を行います。
その他、聴力検査、血液検査、味覚検査、あぶみ骨筋反射、シルマーテスト(涙の分泌試験)などを行い、原因精査や障害の程度を評価します。

顔面神経麻痺

顔面神経麻痺の治療

ベル麻痺は、基本的には外来でのステロイド内服治療を行いますが、麻痺が高度の場合や糖尿病を合併している場合は入院の上で薬物治療を行い、麻痺の改善を図ります。ラムゼイ・ハント症候群はステロイドに加え抗ウイルス薬を併用し、その他循環改善剤、ビタミン剤を併用します。また、必要に応じて顔面神経減荷術という神経の圧迫を解除する手術療法を検討します。

顔面神経麻痺の際は、拘縮予防のために早期からのマッサージが必要となります。

重症の顔面神経麻痺では、病的共同運動などの後遺症が残ることがあります。病的共同運動とは、口を動かすと目が収縮してしまい目元が細くなる、また瞬きをする度に口元がぴくぴくと動くなど、口と目が連動して動いてしまう症状です。このような後遺症に対しては、ボツリヌス毒素注射による治療が効果的です。ボツリヌス毒素注射は効果が3~4ヶ月持続し、永続的に効果があるわけではありません。当院の顔面神経外来では、注射の際の疼痛を最小限にするために、34Gの細い針を用いて治療にあたっております。