鼻副鼻腔癌とは

副鼻腔癌は上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞、前頭洞のいずれかの粘膜より生じる癌を指します。大部分は上顎洞粘膜より発生しますので、この項では主に上顎癌について述べていきたいと思います。

上顎癌の特徴

日本の上顎癌の患者様は減少傾向にあり頭頸部悪性腫瘍の約7~8%と推定されています。60才前後の男性に多く大部分が扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)という種類の癌ですが、その他に腺癌(せんがん)や腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん)なども認められる事があります。症状がでにくいので進行された状態で発見される事が多いのが特徴です。

一方、頸部リンパ節(首のリンパ腺)への転移は他の頭頸部癌に比べて少ないので、局所(もとの癌)のコントロールができれば治癒に期待が持てます。腫瘍が内方に進展すれば鼻出血やにおいを伴う鼻漏(鼻みず)、前方であれば頬部腫脹(ほっぺたの腫れ)や顔の痛みなどが出現します。また上方ならば眼球突出や複視(物が二重に見える)などが認められます。後方では、歯痛や開口障害(口が開きにくい)が出現します。これらの症状のなかでも、特によく見られるのは頬部腫脹、眼球突出や鼻出血です。

診断

CTもしくはMRIの画像検査を行う必要があります。骨破壊を伴った一側性の上顎洞病変として描出され、造影にて増強される陰影をしめします(早期の状態では骨破壊をともなわない事もあります)。最終的には腫瘍の一部を採取し病理検査にて確定診断を行うこととなります。

治療

上顎という場所は、解剖学的に顔面を構成している臓器の一部で、血管・神経・骨等が複雑に入り組み、機能面では上気道・消化管の一部となっています。また、これに加え、顔面という美容上の問題が加わるため、治療は大きな制約を受けることになります。手術療法、放射線療法、及び化学療法を組み合わせて治療を行い、顔面の形態や機能の温存といった治療後のQOLを考慮にいれて治療法を選択していきます。

早期の病変であればあまり顔の変形をきたすことが無く治療ができるので手術も良い選択肢となります。一方進行した癌では手術を行うと見た目の変形がでてしまう可能性が高くなります。そのため、当院では抗がん剤と放射線治療を併用した治療を積極的に行っています。抗がん剤の治療は太ももの付け根の血管からカテーテルを挿入し、腫瘍に血液を送っている血管までカテーテルの先を進めていきます。そこから、直接大量の抗がん剤を注入し腫瘍に選択的に作用させようという方法(超選択的動注療法)で行います。超選択的動注療法と放射線療法を同時併用する治療で整容面を保ったまま根治が狙えます(イラスト)。

しかし、扁平上皮癌以外のタイプでは放射線治療の効果があまり期待できないため手術を中心とした治療にならざるをえません。手術の場合には安全域(腫瘍のまわりに正常な部分)をつけて一塊切除を心がけます。切除範囲によって上顎部切、上顎全摘、拡大上顎全摘となります。上顎全摘以上を行った場合には、顔面に大きな欠損ができてしまい、また切除面をそのままにしておくことによる瘢痕拘縮にて顔面の醜形をきたしてしまいます。そのため、それらを防ぐために再建術が必要となり、太ももの皮膚やおなかの皮膚を採取し移植する手術を行います。それにより顔面の変形を防ぐことができますが、それでもやはり病気になる前と比べると見劣りしてしまうことが多いです。特殊なタイプの癌や切除が困難な場合には粒子線治療も適応となりますので、その場合には他院をご紹介することもあります。

鼻副鼻腔癌01左上顎洞癌のCT画像
鼻副鼻腔癌02左上顎洞癌のイラスト図
鼻副鼻腔癌03超選択的動注療法のイラスト図
 A: カテーテルを腫瘍の近くまで進め(動脈)、そこから大量の抗がん剤を投与する。
 B: 別のルート(静脈)から抗がん剤の中和剤を投与し全身への副作用を軽減させる。