甲状腺がん

甲状腺がんとは

甲状腺は前頚部に位置し、甲状軟骨(男性で言うとのどぼとけ)の下方に蝶々が羽を広げたような形で存在している内分泌組織です。甲状腺より分泌されるホルモンは新陳代謝を活発にし、活動性を上昇させるホルモンです。甲状腺がんは同部位より発生したがんで、病理組織上おもに乳頭がん・濾胞がん・髄様がん・未分化がんの4種類に分類され、それぞれに特徴があります。予後は他の悪性腫瘍に比べ未分化がんを除いては良く、正しい診断・治療を行えば治るがんと言えます。

甲状腺がんの臨床的特徴

甲状腺がんはごく小さいものまで含めると約10人に1人に認められるほど実は多い疾患です。しかし比較的症状に乏しく、腫瘤の自覚以外に特徴的な症状はあまりありません。腫瘤がかなり大きくなるまで咽喉頭違和感などは無く、甲状腺機能低下や機能亢進の症状をきたすこともあまりありません。そのため、健康診断などで見つかるケースが多く存在します。進行は比較的遅く、急激に増大する腫瘤の場合には嚢胞形成や未分化がんを疑います。甲状腺側葉の大きさは3~4cm程度で、正常であれば触診で触知できないのが普通です。甲状腺の腫大があり疼痛・触診痛があれば亜急性甲状腺炎、未分化がんを疑いますが、多くは無痛性の腫脹のため視触診だけでは鑑別は困難です。

診断

甲状腺に腫大を認めた場合には、がんの他に慢性甲状腺炎・亜急性甲状腺炎・バセドウ病・良性腫瘍などの可能性を考慮にいれて精査を進めていきます。嚥下障害や嗄声を認める場合や、頚部のリンパ節の腫脹などが認められた場合には強くがんを疑います。がんの場合、触診では硬く表面が不整で固着した腫瘤として触知します。超音波検査は痛みなどの侵襲をともなわず比較的手軽にできる検査で、非常に有用です。がんを疑った場合には細胞診が必要です。細胞診は超音波を使用して針を頸部にさし、注射器で腫瘍の細胞を採取してくる検査です。採血で使用する針と同等の太さの針ですので痛みはそれ程ではありませんが、細いため一度では診断がつかず数回行う場合もあります。画像検査は超音波以外にCTやMRIといった検査を行い、主に腫瘍と周囲組織との関係を確認するのに用いられます。血液検査では甲状腺のホルモンの値などをチェックします。腫瘍マーカーもいくつかあり、濾胞がんでのサイログロブリン、髄様がんでのCEA・カルシトニンなどがあります。

乳頭がんの臨床的特徴

乳頭がんは、甲状腺がんの中で一番頻度が高く約85~90%程度を占めます。男女比では女性に多く、その割合はおよそ5:1です。リンパ節転移をきたしやすく周囲組織への浸潤も認められます。超音波検査では微小な石灰化を特徴としています。多くのケースでは非常に予後が良く再発の危険性はありますが生命の危険に陥る可能性はかなり少ないがんです。しかしながら一部には、予後の劣る高危険度群が存在しますので注意が必要です。

治療・予後

甲状腺がんに対しては、放射線療法や化学療法はあまり効果を期待できません。そのため、基本的に手術療法が治療の中心となります。手術の術式は通常、患側の腺葉を切除する腺葉切除(半切)が標準ですが、がんの広がりやリンパ節転移の状態に応じて切除範囲の拡大やリンパ節郭清を行います。半切程度であれば1.5時間程度で済み、入院期間も1週間程度で退院できます。手術の主な後遺症は反回神経麻痺による嗄声があり、わずかな可能性ですが永久的に声がかすれてしまう可能性があります。術後、手術によって甲状腺の機能低下(ホルモン不足)や上皮小体の合併切除に伴うカルシウム調節異常が起こる可能性がありますが、半切の場合には通常これらの合併症はあまり起こりません。直径1cm未満の微小ながん、いわゆる微小乳頭がんは(検診で約100人に1人くらいの確率で発見されます)長い経過のなかでも増大することが少なく、生命の予後に無関係と言われています。最近ではそういった微小乳頭がんは厳重な経過観察のもとに手術を行わない方針をとる施設が増えており当科でも経過観察することが多くなっています。

甲状腺がんは未分化がんを除いて基本的に予後の良いがんですが、初診時に遠隔転移・大きなリンパ節転移・周囲組織の明らかな浸潤を認めるものの予後は劣ると言われています。このように比較的おとなしいがんですので、逆に術後の経過観察は長期間必要となります。