薬物性鼻炎

①疾患の概念

薬物によって鼻閉を呈する状態を薬物性鼻炎と称する。内服薬としては、非ステロイド抗炎症剤、降圧剤、経口避妊薬、精神安定剤、勃起不全改善薬(ホスホジエステラーゼ-5阻害薬)などがある。発症の機序によって3型に分類される [1]。アスピリンなどの非ステロイド抗炎症剤は局所の炎症によって鼻炎を引き起こす。αまたはβ遮断薬、勃起不全改善薬は神経原性機序によって鼻炎を生じる。つまり、鼻腔の血管や粘膜に分布する交感、副交感神経の支配制御を破綻させて、鼻閉や鼻漏を引き起こす。降圧剤、経口避妊薬、精神安定剤などは原因不明に属する。

血管収縮薬の点鼻によって生じる場合は特殊な型として本邦では点鼻薬性鼻炎と称されており [2]、欧米ではrhinitis medicomentosaという。少なくとも3日間以上の血管収縮剤の点鼻によって始まる鼻閉で鼻漏、後鼻漏、くしゃみは伴わない [3]。鼻粘膜はbeefy redとなり、微量な粘液と点状出血を伴う。組織学的には線毛の消失、上皮の脱落、炎症性細胞浸潤、浮腫の所見を認める [4]。薬理学的作用から血管収縮剤は2種類に分類される。カフェイン、エフェドリンなどの交感神経作動薬とナファゾリン、オキシメタゾリンなどα-2刺激薬であり、本邦で使用される薬剤は後者が大部分である。発症機序は未だ解明されていないが、血管収縮薬の過度の使用によって内因性のノルアドレナリンの産生の低下が二次的に生じることが提唱されている。長期連用や中止によって、内因性のノルアドレナリンの供給が停止し、交感神経による血管収縮作用が維持されなくなることが考えられている [5]。また防腐剤として含有している塩化ベンザルコニウムによっても粘膜腫脹が生じることが証明されている [5]。

②治療方針

薬物性鼻炎に対しては薬剤の中止が唯一かつ最善の治療法である。しかしながら、基礎疾患の治療に該当する薬剤投与の継続が必要であれば、鼻閉に対する対症療法が選択される。鼻噴霧用ステロイド剤を1日1回から始めて、鼻閉が改善するまで除々に増量する。効果が現れた後は漸減して適正な投与量とする。抗ヒスタミン剤の点鼻薬との併用は鼻噴霧用ステロイド剤単独で十分な効果が得られない場合に試みる。抗ヒスタミン剤の内服は鼻噴霧用ステロイド剤に比較して効果は低い [1]。

点鼻薬性鼻炎では、血管収縮剤の点鼻をすぐさま中止する。同時に血管収縮剤を使用した原因疾患の治療を開始する。中止によるリバウンド効果が現れるので、その対策として以下を選択する [3]。

  1. 一側のみ血管収縮剤を点鼻し、投与中止した他側の鼻腔粘膜の腫脹の改善を待ってから、完全に中止する。
  2. クロモグリク酸ナトリウム(インタール©)点鼻や生食の点鼻を使用する。
  3. 鼻噴霧用ステロイド剤
  4. 抗ヒスタミン剤の内服
  5. 短期間(5~7日間)のステロイド剤の内服
  6. 3. ~5. の併用

③処方例

  1. 薬物性鼻炎に対する治療
    1. 鼻噴霧用ステロイド剤
      1日1回から始めて、鼻閉が改善するまで除々に増量する。効果が現れた後は漸減して適正な投与量とする。
       ナゾネックス©(モメタゾン)2噴霧/日から増量
    2. 鼻噴霧用ステロイド剤+抗ヒスタミン剤の点鼻薬
       ナゾネックス©(モメタゾン)2噴霧/日とリボスチン(塩酸レボバスチン)©点鼻液
  2. 点鼻薬性鼻炎に対する治療
    軽症例ではi.から開始して、効果が認めない場合や重症の場合はii, iii, ivの治療法に進む。
    1. インタール©点鼻液クロモグリク酸ナトリウム 1日6回
    2. 鼻噴霧用ステロイド剤
       ナゾネックス©(モメタゾン)2噴霧/日から増量
    3. 抗ヒスタミン剤の内服
       タリオン©(ベシル酸ベポタスチン) 20mg 分2
    4. ステロイドの内服
       プレドニゾロン©(プレドニゾロン)20mg 分1 5日間
    5. 止むを得ず、血管収縮点鼻薬を使用する場合
       ナシビル©(塩酸オキシメタゾリン)の生理的食塩水による5倍希釈液 就眠時

④処方の際の注意点

鼻副鼻腔炎、中耳炎、感冒などに対する血管収縮剤の臨床的効果は乏しいが、やむを得ず使用する場合は短期間(10日間以内)、低濃度(ナシビル©では5倍希釈)、低頻度(夜間のみ)に限る。また点鼻液の常用性から離脱した後に、再開することで容易に再発することを十分に患者へ説明し、再発の予防について患者教育することも重要である。

参考文献

  1. Varghese M, Glaum MC, Lockey RF. Drug-induced rhinitis. Clin Exp Allergy. 2010;40:381-4.
  2. 飯沼壽孝 点鼻薬の乱用. JOHNS 1992;8:1025-1027.
  3. Ramey JT, Bailen E, Lockey RF. Rhinitis medicamentosa. J Investig Allergol Clin Immunol. 2006;16:148-55.
  4. Min YG, Kim HS, Suh SH, Jeon SY, Son YI, Yoon S.Paranasal sinusitis after long-term use of topical nasal decongestants. Acta Otolaryngol. 1996;116:465-71.
  5. Graf P. Rhinitis medicamentosa: a review of causes and treatment. Treat Respir Med. 2005;4(1):21-9.