後鼻神経切断術のコツと工夫

後鼻神経切断術は水様性鼻漏やくしゃみに対する積極的なアプロ−チ

アレルギ−性鼻炎や血管運動性鼻炎の外科的治療の戦略目的は下鼻甲介に存在する効果器の物理的または機能的除去である。近年、難治性の水様性鼻漏やくしゃみに対する積極的なアプロ−チとして、下鼻甲介に分布する副交感神経と知覚神経を選択的に切断する後鼻神経切断術が試みられている(図1)。従来から知られている古典的なvidian神経切断術では上顎洞経由でアプローチする術式であるが、涙腺に分布する副交感神経も切断するために涙液分泌障害が生じる可能性が高く、口蓋粘膜への知覚枝の切断により同部位の知覚鈍麻も報告されている。その反面、鼻内経由の後鼻神経切断術は極めて少ない副損傷の頻度でしかも最小の侵襲でと施行可能な術式である。

後鼻神経の同定は中鼻道経由の蝶口蓋動脈の拍動である

後鼻神経へは中鼻道経由で行い、その同定と確認のポイントは内視鏡による伴走する蝶口蓋動脈の拍動である。中鼻道より鈎状突起の下端から1~2cm後方でまたは上顎洞自然口が明視可能な場合はその後方の鼻腔外側の骨壁に2~3cmの縦に弧状の粘膜切開を加える。骨膜下で後方に剥離して、粘膜弁を挙上すると蝶口蓋孔から出てくる神経と血管の索状物が同定できる(図2)。蝶口蓋動脈の血管拍動を認めることによって、目的である索状物であることを確認できる。この索状物内の深部側に後鼻神経が存在する。

後鼻神経を含んだ神経血管索状物
挿絵は「図で説く整形外科疾患-外来診療のヒント」 寺山 和雄、堀尾 重治著 医学書院より転写

後鼻神経は超音波凝固装置で伴走動静脈とともに切断にする

後鼻神経の切断は伴走動静脈とともに行うのが簡便であり、超音波凝固装置(ハ−モニックスカルペル)が切断に威力を発揮する。通常使用するのはフック型ブレードで、出力レベルは3に設定している。しばしば下鼻甲介の内側方向の突出によって、ハ−モニックスカルペルのブレードが神経血管索状物まで到達できないことがある。その場合には、粘膜下下鼻甲介骨切除術または下鼻甲介の外側方向の骨折によって、ハ−モニックスカルペルの挿入経路を確保することも手術のポイントである。

蝶口蓋孔の全貌の露見によって確実な後鼻神経の切断が確認できる

フック型ブレードを鼻腔外側の骨壁に沿ってゆっくりと操作することで、蝶口蓋動静脈から出血することなく神経血管索状物を切断できる。ここで、切断面の血管の拍動を再度確認するとともに、蝶口蓋孔の全貌が露見したことによって確実に後鼻神経が切断されたことが確認できる。また挙上した粘膜弁を損傷せずに神経血管索状物を切断できると、後の骨または軟骨片が挿入しやすくなる。ハ−モニックスカルペルのブレードを鼻腔外側の骨壁にむやみに強く接触させると、ブレードの破損につながるだけではなく、深部に存在する翼口蓋神経節や顎動静脈の損傷の危険性がある。

切断面を骨片や軟骨片で被覆し、再発を予防する

最後に、下鼻甲介骨の骨片や鼻中隔の軟骨片を、粘膜皮弁と鼻腔外側の骨壁の間に挿入して、神経血管索状物の切断面を被覆する(図3)。さらに、フィブリン糊で接着、補強しても良い。この操作によって、後鼻神経の再支配を防ぐことができ、蝶口蓋動脈からの術後出血も回避できる。

鼻中隔軟骨による後神経の切断面の被覆
挿絵は「図で説く整形外科疾患-外来診療のヒント」 寺山 和雄、堀尾 重治著 医学書院より転写

鼻症状の改善率は8割以上である

術後の鼻内視鏡所見では粘膜の切開部位に血液凝固塊を認めるのみである(図4)。後鼻神経切断術を含む手術症例56例の6ヶ月間から4年間の観察期間の臨床成績では、2症例を除き鼻症状の改善は8割以上である。また術後の鼻腔抵抗値と鼻粘膜抗原誘発検査も検討した15症例すべてで改善を認めている。術後の合併症では鼻出血が1症例、一過性の口蓋粘膜の知覚鈍麻1症例である。

術後1週間の中鼻道所見
挿絵は「図で説く整形外科疾患-外来診療のヒント」 寺山 和雄、堀尾 重治著 医学書院より転写