内視鏡下副鼻腔手術

【副鼻腔の内視鏡手術とは】

1980年代に入って慢性副鼻腔炎の鼻内経由の手術法に内視鏡が積極的に導入され、内視鏡的副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery)として確立されました。従来の肉眼視による鼻内手術に比較して、手術の正確度、安全性に向上が認められ、現在標準的手術として普及しつつあります。さらに、光学機器の発達によってモニターTVや録画装置を利用した手術技術の標準化と普及、教育、研究へも応用可能となりました。内視鏡的副鼻腔手術の標準化には適切な手術手技による治癒率の向上とともに副損傷を回避することが必須であります。

手術の基本的概念

前部副鼻腔、つまり前篩骨洞、上顎洞、前頭洞の開口部と交通路をostiomeatal complexと呼称し、これらの解剖学的構造物を機能的、概念的に一つとしてとらえます。前部副鼻腔の炎症の原因は各固有副鼻腔の炎症ではなく、ostiomeatal complexの病変によって引き起こされます。また副鼻腔の粘膜病変は可逆的変化であります。従って、ostiomeatal complexの病変の除去は前部副鼻腔と鼻腔の交通路を確立でき、換気と排泄が可能となります。術後の保存的治療により副鼻腔粘膜の機能の正常化を促します。蝶篩陥凹に開口する後篩骨洞や蝶形骨洞の病変も可逆的であり、それらの開放により治癒を促せます。内視鏡的副鼻腔手術では各副鼻腔のポリープ、嚢胞、高度の粘膜肥厚に対して処置を加えるが、基本的には副鼻腔の限界壁の粘膜は温存します。Ostiomeatal complexの病変だけを除去する術式をfunctional endoscopic sinus surgeryと呼び、軽症例に適応となります。

鼻中隔彎曲矯正術及び粘膜下下甲介骨切除術

治癒成績

従来の報告では、今までに手術を受けていない初回手術例に対しての自覚的な症状の改善率は75~98%と満足な結果が得られます。術後成績は短期間の内服ステロイド剤や長期間のマクロライド剤とステロイド噴霧剤、外来処置によってさらに向上できます。一方、再手術例、喘息合併例、高度病変例は治癒率の低下が指摘されています。これらの症例には手術操作、術後管理のさらなる留意が必要であります。

合併症

副損傷を高度障害と軽度障害に分類すると、前者は脳脊髄液漏、頭蓋内損傷、視力障害、外眼筋損傷、鼻涙管損傷、死亡、輸血を要する大出血があり、後者としては眼窩内出血、眼窩周囲気腫、眼窩内侵入、鼻内癒着、小出血などが含まれます。発生頻度では高度副損傷は0~2.7%で、軽度副損傷は5.0~15.1%で、そのうち眼窩損傷が占める割合はどちらも約半数程度と高い頻度を示されています。しかしながら、近年の報告では重篤な合併症の報告が明らかに減少してきています。各国で行われるようになった講習会や質の高い教科書が普及してきたためと考えられます。副損傷の予防には1)高度ポリープ症例、再発症例、術中の出血の予想される症例、全身麻酔症例などの危険因子の把握、2)CT画像の術前検討、適切な手術器機、器具の準備、術野での眼球露出など副損傷回避のための準備、3)手術操作を的確に理解することが必要であります。副損傷の対応及び損傷の拡大の回避には早期発見と適切かつ迅速な処置が必要であります。

【鼻の手術を受ける患者さんおよびご家族の方へ】

  1. 手術は平成  年  月  日に行います。予定時刻は前日の夕方までにわかるので担当の看護師におたずね下さい。
  2. 手術は(全身麻酔・局所麻酔)で行います。
  3. 昔の手術はくちびるの裏側を切って骨を削る方法が多かったですが、現在の手術は、原則として鼻のあなから細い内視鏡(カメラのようなもの)を入れて行います。
  4. 昔の手術は炎症を起こしている粘膜を取る(悪いところは全て取ってしまう)手術でしたが、今の手術では炎症を起こしている粘膜でもできるだけ残し、嚢胞(袋)の中にある膿汁を排泄させる交通路をつけます。そのため、手術後もある一定期間は薬の内服が必要です。
  5. 鼻中隔(鼻の左右を分けている壁)の曲がりを直す手術を同時に行うこともあります。
  6. 鼻の極めて近くには脳、目など重要なものが存在します。そのため手術によりこれらが傷つけられ、視力障害、髄膜炎などを起こす危険性がわずかながらあります。このような大変な合併症は当科ではここ数年、1例もありません。
  7. 手術による出血は少ないと予想されますが、ごく稀に出血量が多いこともあります。
  8. 手術後は止血のために鼻の中にガーゼが入っています。これは  月  日に抜く予定です。
  9. 術後感染防止のため、  月  日まで点滴で抗生剤を投与します。その後は薬を飲んでもらいます。
  10.   月  日に退院の予定です。

【入院期間と費用】

一般的に1週間前後の入院です。患者様によっては多少入院期間が長くなることがあります。費用は手術の内容によって異なりますが、約25~30万円で、個室をご希望なさると、さらに1日当たり3~4万円程度のご負担になります。

【鼻の内視鏡手術は様々な鼻副鼻腔・眼窩などの疾患に適応されています】

1980年代に入って慢性副鼻腔炎の鼻内経由の手術法に内視鏡が積極的に導入され、内視鏡的副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery、ESS)として確立された1)。従来の肉眼視による鼻内手術に比較して、手術の正確度、安全性に向上が認められ、現在標準的手術として普及しつつある。鼻腔及び副鼻腔の微細な観察が可能となり、種々の鼻副鼻腔疾患においても応用されるようになった。本稿では慢性副鼻腔炎に加えて、現在まで報告されている内視鏡的副鼻腔手術の種々の疾患への適応について論じる(表)。本術式の応用は内視鏡手術の十分な経験を持つ外科医の上級コースの手術であることを強調しておく。