乳房再建手術について

当院では乳腺センター内に関係各科が集まり、チーム医療として乳がん治療に取り組んでおります。形成外科もその一員であり、乳房再建は当院の乳がん治療の大きな柱となっております。形成外科では乳房再建担当医を定めることにより、責任の所在を明確にし、医療レベルの一定化を図っております。担当医は乳腺センターのカンファレンスに出席し、乳腺センターで外来を持つことにより、関係各科と患者さんの情報を共有し、各々の患者さんにとって最良の医療を目指しておりますので、どうぞ何なりとご相談ください。

当院では6割強の患者さんが乳房温存術による外科治療を受けられ、4割弱の患者さんが乳房切除術による外科治療を受けられています。これは乳がんの大きさや種類によって医学的に決定されるもので、乳房温存術は、がんの周りに充分に正常の乳腺組織を付けた状態で切除を行い、切除範囲が乳房の1/4以下で済む場合を適応としています。病理標本の結果次第で、追加切除となる可能性がありますので、当院では温存手術に対する積極的な同時再建手術は行っておりません。形成外科が再建を行うのは、主に乳房切除術の患者さんです。

再建の方法は、乳房のボリュームをどこから持ってくるか、ということで決まります。自分のからだの組織を使って乳房を作る方法を「自家組織再建」といいます。自分の体の組織ですから温かく柔らかい乳房ができますが、長時間の手術が必要になり、組織を採取した場所には大きな傷痕が残ります。既製品のシリコンインプラントを用いて再建を行う場合には、体に大きな傷痕を残すことはなく、短時間の手術で再建が可能ですが、少し硬い感じがするかもしれません。ご相談を受けた際には、外来で具体的な写真等をお見せして説明しますので、ご自分のお気持ちにあった再建法をお選びいただくことができます。

また、乳房再建の時期には大きく分けて2つのパターンがあります。1つめは、当院乳腺科で乳房切除術を受けられる患者さんで、同時に乳房の再建を行う即時再建と呼ばれるものです。当院で多いのは、乳房切除と同時に組織拡張器(エキスパンダー)を挿入するものです。乳がんの手術前は考えなければいけないことがたくさんあって、再建のことまで色々考えるのは苦痛かもしれません。でも乳房がなくなってしまうのは耐えられない、という患者さんには、とりあえずエキスパンダーを同時に挿入しておく、というのはいい方法です。その後、乳房の大きさにより、3ヶ月から半年くらいの間、月に1度程度外来を受診していただき、エキスパンダーに生理食塩水を注入していきます。その間にゆっくりお考えいただき、エキスパンダーを入れたお胸が反対側の乳房より充分に大きくなったら、シリコンインプラントに入れ替えるか、自家組織を挿入するか、決めていただきます。はじめから自家組織での再建をご希望の患者さんに対しては、乳房切除と同時に自家組織再建を行うことも可能です。
もうひとつは2期再建です。当院で乳房切除術を行った方、他院で乳房切除術を行った方、どちらでも再建は可能です。乳腺科の担当医から「もう再建を考えてもいいですよ。」と言われたら、いつでもご相談ください。2期再建でも、自家組織による再建もインプラントによる再建も、どちらも可能です。また、乳房温存術・放射線照射を行った患者さんで、どうしても乳房の形が受け入れられない、という方もご相談ください。放射線照射後の皮膚は脆く、エキスパンダー/インプラントを用いた再建は難しいですが、自家組織を用いた再建は可能です。当院では、小さな陥凹変形に対しては脂肪注入術、中等度の変形に対しては脂肪弁移行術等、大きく引きつれを起こした変形に対しては広背筋皮弁移行術を行い、変形の改善を目指しております。
以下、それぞれの手術法を詳しく説明させていただきます。ホームページでは具体的な症例写真はお見せできませんが、外来を受診いただいた患者さんには、できるだけ詳しい情報をお伝えできますので、ぜひ受診ください。

インプラントを用いた再建術

乳房再建用エキスパンダーとブレスト・インプラント術が保険適応になりました。
詳しくは医師までお問い合わせください。

定型的な乳房切除術を行った場合、乳腺とともに皮膚も切除されますので、まずは皮膚を伸ばす必要があります。皮膚を伸ばすのに用いられるのがエキスパンダーという医療器具です(図1)。
当院で乳房切除術を行い同時の再建を希望された場合、乳房切除と同時にエキスパンダーを挿入し、外来で生理食塩水を入れて皮膚を拡張していきます。
乳房切除後の患者さんで、2期的にエキスパンダー挿入術を行うことも勿論可能ですし、最終的な乳房の出来具合に差はありません。

図1エキスパンダー
図1エキスパンダー

エキスパンダー挿入術

エキスパンダーは図2のように大胸筋の下に挿入します。乳腺は大胸筋の上にありますから、万が一局所再発がおこった場合には、大胸筋上に出てきます。大胸筋下にエキスパンダーやインプラントを入れることにより、再発を見逃すことはありません。また、「大胸筋ごと乳房にしてしまっても大丈夫なの?」と思われるかもしれませんが、大胸筋という筋肉をヒトはあまり使っていません。特に女性ではもともと薄い筋肉ですので、日常生活には全く支障はありません。手術は全身麻酔で、入院期間は5~6日です。

図2エキスパンダーを大胸筋下に挿入したところ
図2エキスパンダーを大胸筋下に挿入したところ

生理食塩水の注入は3~4週間に1度外来を受診していただき、60~100mLづつ注入していきます。お胸の大きさにより生理食塩水の注入期間は異なりますが、だいたい3~6カ月で皮膚を充分に拡張することができます。拡張が終わったら2回目の手術(エキスパンダー抜去・インプラント挿入術)となります。

エキスパンダー抜去・インプラント挿入術

エキスパンダーの周りには被膜という硬い膜ができます(図3)。普通は、この膜からエキスパンダーを抜いた後に、この膜の中にインプラントを挿入します。しかし、被膜の形とインプラントの形が異なるため、どうしても美容的に満足いく結果が出ません。そこで当院では、エキスパンダーを抜去してインプラントに入れ替える際に、この被膜を切除してインプラントの美しい形態が出るように工夫しています(図3)。

図3エキスパンダー挿入時の断面図とインプラント挿入時の断面図
図3エキスパンダー挿入時の断面図とインプラント挿入時の断面図
(緑色で示す被膜を切除して、インプラントのきれいな形態が出る工夫をしています。)

挿入するインプラントは、図4の様に表面がザラザラしていて(テキスチャードタイプ)、自然に少し下垂した形(アナトミカルタイプ)のものを使用していま す。このインプラントを、エキスパンダーの被膜を切除した新しい層に挿入します。手術は全身麻酔で、入院期間は3日となります。

図4テキスチャード・アナトミカルタイプ・インプラント
図4テキスチャード・アナトミカルタイプ・インプラント

術後はインプラントの位置がずれないように、専用のブラジャーを使用していただきます。また、傷痕をきれいにするために、傷痕専用のテープも3ヶ月間貼付していただきます。インプラントを挿入して3ヶ月程経過すると、インプラントの位置が固定され、腫れも完全に引いてきます。この時期以降に乳輪乳頭の形成を行います。

図5インプラント挿入後
図5インプラント挿入後

乳輪形成術

乳輪形成には、足の付け根(鼠径部)から少し色素沈着した皮膚を採取して植皮する方法と、アートメイクの技法を使ったTattoo(刺青)で形成する方法の2種類があります。アートメイクによる乳輪形成は非常に自然なニュアンスが出るためお勧めしています(図6)。ただし、自費であること、時間が経つと色があせてくるため数年経ったら追加施術(タッチアップ)が必要になることが欠点かもしれません。アートメイクの顔料は一般的な刺青と比べて含有金属量が少ないため、MRI検査も問題なく受けることができます。植皮は色あせることがありませんが、自然なニュアンスが少し出にくいかもしれません。

図6アートメイクで乳輪を作成した状態
図6アートメイクで乳輪を作成した状態

乳頭形成術

乳頭形成には、tattooをした皮膚を三つ葉型に挙上して乳頭を作る皮弁を用いた乳頭形成術と、健側の乳頭を一部採取して再建乳房に移植する乳頭移植術があります。

(1)皮弁を用いた乳頭再建術

乳頭形成術は図7のように三つ葉型のデザインを施し、これを大胸筋上で挙上します。これを縫合して乳頭を作成しますが(図8)、長期的には平担になってしまう傾向があります。そのため、当院では患者さんの耳介から軟骨を採取させていただき、作成した乳頭の内部に挿入することによって、後戻りを防いでいます。

図7皮弁を用いた乳頭形成術デザイン
図7皮弁を用いた乳頭形成術デザイン
図8皮弁を用いた乳頭形成術出来上がり図
図8皮弁を用いた乳頭形成術出来上がり図
(内側に軟骨を挿入します)

皮弁で乳頭を形成すると、当然ながらtattooで入れた乳輪が歪みます。そこでもう一度tattooを入れて出来上がりです。

(2)健側の乳頭を移植する方法

再建乳房の対側(健側)の乳頭に局所麻酔の注射をし、図9のように一部メスで切開し乳頭を切り取ります。乳頭は傷跡が目立ちにくい場所であるため、数か月経つと採取部位はほとんどわからなくなり、変形も残しません。

図9(上)健側乳頭(中)切除する場所(下)縫合閉鎖したところ
図9(上)健側乳頭(中)切除する場所(下)縫合閉鎖したところ

最終的には図10のように出来上がります。

図10完成図
図10完成図

乳房再建が終わった後にも、1年に1度は外来を受診いただき、状態のチェックを行います。対側の乳房が小さくなってきた、下垂してきた、インプラント上の皮膚が薄くなってインプラントの形が透ける、など問題が起こってきた場合には、インプラントを交換する、健側の乳房の位置を挙上する、自己脂肪注入術を行うなど、修正の手術が可能ですので、いつでもご相談ください。

自家組織による再建

自家組織で再建する場合は広背筋皮弁、もしくは腹直筋皮弁を移植します。
腹直筋皮弁では、いくつかのデザインが考えられます。ここでは皮弁採取部の創が下着に隠れる、横型血管柄付き遊離腹直筋皮弁移植について説明します。
乳房部に移植する際に皮弁は、移植先で血流を再開させる必要があります。
腹部の皮膚脂肪組織に血管を付加して採取しますが、その血管は腋窩や前胸部にある血管と吻合する(縫い合わせる)ことで皮弁の栄養が保たれます。

自家組織による再建1
自家組織による再建2
自家組織による再建3
自家組織による再建4
自家組織による再建5

腹直筋皮弁は他に、患者さんの症状に応じて腹直筋有茎皮弁(栄養血管を切らないで移植)、腹直筋有茎+supercharge(もう一本の血管をさらに吻合して栄養血管を2本以上にする)ものがあります。
腹直筋皮弁移植術による乳房再建が始まった当初は、腹直筋横幅の全幅を含めることも多かったのですが、現在は出来るだけ腹直筋の犠牲が最小限となるように考慮して手術を行っています。

CGの一部素材に飯島貴志先生の「人体のしくみ―CGデザイナーのためのグラフィックバイブル」からデータを使わせて頂きました。