抗リン脂質抗体症候群

疾患概念・病態

抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies, aPL)に関連して起こる動静脈血栓症あるいは習慣性流産・子宮内胎児死亡などの妊娠合併症を主症状とする全身性自己免疫疾患である。後天性血栓症疾患のなかで最も頻度が高く、再発が多いことから、臨床上重要な症候群である。基礎疾患を持たない原発性APSと全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus, SLE)などに伴う続発性APSに分けられる。
aPL はリン脂質を直接認識するのではなく、カルジオリピンに結合したβ2-GPI やホスファチジルセリン (PS)に結合したプロトロンビン(PT) などの血漿蛋白を認識する。aPLはAPTTの延長をもたらすが、臨床的には凝固亢進し、血栓症を来す。その機序は不明であるが、リン脂質依存性凝固反応を抑制的に制御しているβ2-GPIの阻害、プロテインCの活性化阻害、血管内皮細胞上のトロンボモジュリンやヘパラン硫酸の阻害、凝固抑制に働く血管内皮細胞からのプロスタサイクリン産生の阻害、血管内皮細胞からのフォンウィルブランド(von Willebrand)因子やプラスミノゲンアクティベータインヒビターの産生増加などにより血栓準備状態がもたらされ、そこに感染、手術侵襲、エストロゲン製剤の使用、長期臥床などの要素が加わると血栓が形成される2nd hit theory が想定されている。

疫学

APS は希少疾患であるだけでなく、aPL の測定に関する標準化がなされていないこと、血栓症以外にも多彩な臨床症状があることから、臨床研究を行うことが難しい疾患である。2018年の医療受給者証保持者は約515人であるが、本邦では全国的な疫学調査は行われておらず、血栓症だけでは自己抗体の検索をされないことも多いと予想されるため、潜在的な患者数はより多いと考えられる。
近年の欧州で行われた疫学調査を参考にすると、男女比は1:5.4と女性に多く、平均発症年齢は30~40歳前後とされる。SLEの約10~20%がAPSを合併しており、SLE患者の約40%で抗リン脂質抗体陽性だが、実際に血栓症が起きるのは40%未満である。原発性APSがSLEに伴う続発性APSとほぼ同数の患者数と推定されており、本邦でSLE患者が約60,000人いることもあわせると、続発性APSが6,000~12000人、原発性も同程度の患者がいると推定される。明らかな遺伝性はないと考えられているが、家族内、親族内で発症する場合も報告されている。

診断・鑑別診断

2006年に改訂された抗リン脂質抗体症候群改訂診断基準(Sydney revised Sapporo criteria)を用いて診断する。

  1. 臨床所見
    • (1)血栓症
      • 画像検査や病理検査で確認が可能な動脈または静脈血栓症
        (血管のサイズや部位は問わない。血管炎や表層性の静脈炎は除外)
    • (2)妊娠合併症
      • 妊娠10週以降の胎児奇形のない子宮内胎児死亡
      • 妊娠高血圧もしくは胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
      • 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産
        (ただし、母体の解剖学異常、内分泌異常、父母の染色体異常を除く)
  2. 検査基準
    • (1)国際血栓止血学会ガイドラインに従った測定法による、ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LAC)が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
    • (2)中等度以上の力価(40GPLまたはMPL以上, あるいは99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗カルジオリピン抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
    • (3)中等度以上の力価(99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗β2GP1抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
  • ※少なくとも1つの臨床所見と1つの検査所見が存在するときに抗リン脂質抗体症候群と診断する

臨床症状

もっとも頻度が高いのが血栓症であり、血栓症が起こる血管の太さや部位はさまざまである(表1)。そのほかに血小板減少、溶血性貧血、心臓弁膜病変、頭痛・痙攣発作、精神症状なども認められることがある。欧州白人におけるAPSは動脈系と静脈系の血栓症の比が等しいか静脈血栓症がやや多い傾向があるが、本邦におけるAPSは動脈血栓症が静脈血栓症に比べ約2倍の有病率である。

表1 抗リン脂質抗体症候群の血栓症

  • 中枢神経系:脳梗塞、一過性脳虚血発作、網膜動静脈血栓症、横断性脊髄炎
  • 心肺血管系:心筋梗塞、肺血栓塞栓症、肺高血圧症
  • 消化器系:腸間膜動脈塞栓症、虚血性腸炎、肝梗塞、脾梗塞、Budd-Chiari症候群
  • 腎泌尿器系:腎動静脈血栓症、腎梗塞、微小血栓性糸球体腎炎、腎高血圧症
  • 皮膚:指尖潰瘍、皮膚梗塞、深部静脈血栓症、網状皮斑
  • その他:習慣性流産、胎盤血流不全、子宮内胎児死亡

検査所見

一般検査では、血小板減少が約40~50%の例に認められる。血小板数は、5万~10万/μLであることが多く、2万/μL以下に下がることはまれである。SLE患者の血小板減少においては、APSに伴う血小板減少を鑑別することは治療方針決定において重要である。
梅毒反応偽陽性(STS陽性、TPHA陰性)やAPTT延長は抗リン脂質抗体の存在を疑う所見として有用である。aPLは、抗カルジオリピン抗体、LAC、抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT抗体)が代表的である。aPS/PT抗体は分類基準に含まれていないが、APS の病態に強く関わることが想定されており、診断においても抗CLβ2GPI 抗体と同程度に感度、特異度が高いことが報告されている。一方で、LACと抗カルジオリピン抗体は健常者の1〜5%で陽性となる報告もある。
LACの検査法は、カオリン凝固時間(kaolin clotting time, KCT)、希釈ラッセル蛇毒時間(diluted Russell's viper venom time, dRVVT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time, APTT)とあり、dRVVT法のみ保険適用でスクリーニングアッセイのなかでは比較的特異性が高いとされているが、内因系のインヒビターを見逃す可能性がある。
現在保険適用となるaPLは、IgG型抗カルジオリピン抗体、IgG型抗CLβ2GP1抗体、LAC(dRVVT法)のみで、IgM型抗体やaPS/PT抗体については自費検査となる。

治療

現時点でAPS に特異的な治療法はなく、ステロイドや免疫抑制剤の有効性は示されていない。急性期血栓症の治療は一般的な血栓症に対する治療と同様で、低用量アスピリンなどの抗血小板薬、ヘパリン点滴療法後のワルファリン導入が主に用いられる。二次予防が重要であり長期にわたり継続する必要がある。静脈血栓症ではINR 2.0-3.0、動脈血栓症はINR 3.0~4.0、もしくは抗血小板を併用しINR 2.0-3.0で管理することが推奨されている。ワルファリン禁忌例ではDOACが考慮されることがあるがエビデンスは乏しい。適切な二次予防を行っても再発・再燃するケースもあり、抗血小板・抗凝固療法の強化が行われることが多いが、出血リスクを増強するため注意が必要である。APSに関連する血小板減少症併発例では、血小板が少なくても血栓傾向を生じることがあるため、血栓症の既往があれば二次予防を検討する。
一方、一次予防においては、aPL の種類や抗体価を考慮したリスク評価を行う。複数の抗リン脂質抗体陽性、LAC陽性、抗リン脂質抗体が持続的に高力価を呈する場合は血栓症のリスクが高いハイリスクaPLプロファイル患者として、生活習慣の管理などと共に、LDAによる予防が推奨される。SLEにおいては、ヒドロキシクロロキン(HCQ, プラケニル®)の血栓症抑制効果が報告されている。 産科APS既往をもつ妊婦には、LDAとヘパリン予防量併用が推奨される。妊娠合併症を繰り返す場合は、ヘパリンを治療量へ増量、ヒドロキシクロロキンの追加、または妊娠第1三半期(最初の13週6日)におけるプレドニゾロン低用量の追加が考慮される。

予後

本邦ではAPSの予後 に関する疫学研究は行われていないが、欧州で行われた二次性を含めたAPS患者 1,000例の追跡調査では、5年間の血栓症再発率は約17%、5年生存率は94.7%と報告されている。日常生活においては禁煙、高血圧や脂質異常症の改善による心血管リスク因子の長期的な管理、経口避妊薬の中止などが予後改善に必要であり、外科手術、入院、長期臥床、産褥期など高リスク状況では低分子量ヘパリンの使用が検討される。
APSのうち1%以下と非常に頻度は少ないが、全身の広範な血栓症と急激な多臓器不全をきたす劇症型抗リン脂質抗体症候群(catastrophic anti-phospholipid syndrome, CAPS)は致死率30~50%ときわめて予後不良である。

劇症型抗リン脂質抗体症候群の診断

国際的な定義は定まっていないが、AshersonらによるPreliminary criteriaがよく用いられる。(Cervera ER, et al. Ann Rheum Dis 64:1204-1209, 2005)

  • 3つ以上の臓器(組織)における血栓症の存在。
    一般的に画像検査にて証明する。
    50%以上の血清クレアチニン上昇、重篤な高血圧(>180/100mmHg)または尿蛋白(>500mg/日)のいずれかを満たすとき、 腎障害あり定義する。
  • 同時あるいは1週間以内に連続して発症。
  • 少なくとも1臓器(組織)以上で組織学的に微小血栓を証明。
    血管炎が併存していてもよい。
  • 抗リン脂質抗体が存在する。
    過去にAPSと診断されていない場合はAPS診断基準に従って、抗リン脂質抗体が少なくとも6週間隔をあけて存在を証明する。

劇症型抗リン脂質抗体症候群の確定
上記4項目を満たすもの。

劇症型リン脂質抗体症候群の疑い

  • 2臓器の血栓症であるが、他の項目を満たすもの。
  • 早期死亡によって6週間隔での抗リン脂質抗体の証明ができなかったが、他の項目を満たすもの。
  • 1、2、4の3項目を満たすもの。
  • 1、3、4を満たし、1ヶ月以内に3臓器目の血栓症を生じたもの。

劇症型抗リン脂質抗体症候群の治療

ヘパリン点滴とワーファリン導入に加え、病態に応じてステロイド大量療法や血漿交換療法、ガンマグロブリン療法などを併用する。感染症や悪性腫瘍などの誘発因子に対する治療も必要である。難治症例におけるリツキシマブやエクリズマブの有効性が症例報告レベルで散見される。


更新日:2020年7月1日