抗リン脂質抗体症候群

疾患概念・病態

抗リン脂質抗体に関連して起こる動静脈血栓症あるいは習慣性流産・子宮内胎児死亡などの妊娠合併症を主症状とする全身性自己免疫疾患で、後天性血栓症疾患のなかで最も頻度が高い疾患である。基礎疾患を持たない原発性APSと全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus, SLE)などに伴う続発性APSに分けられる。

疫学

1998年の全国疫学調査では、1997年の医療受給者証保持者は約3,700人であった。近年の欧州で行われた疫学調査を参考にすると、SLEの約10%がAPSを合併していると推定されている。また、原発性APSがSLEに伴う続発性APSとほぼ同数の患者数と推定されており、日本でSLE患者が約50,000人いることもあわせると、続発性APSが5,000人、原発性も同程度の5,000人で合わせて 約10,000人の患者がいると推定される。
男女比は1:5.4と女性に多く、平均発症年齢は30~40歳前後とされている。

診断・鑑別診断

2006年に改訂された抗リン脂質抗体症候群改訂診断基準(Sydney revised Sapporo criteria)を用いて診断する。

  1. 臨床所見
    • (1)血栓症
      • 画像検査や病理検査で確認が可能な動脈または静脈血栓症
        (血管のサイズや部位は問わない。血管炎や表層性の静脈炎は除外)
    • (2)妊娠合併症
      • 妊娠10週以降の胎児奇形のない子宮内胎児死亡
      • 妊娠高血圧もしくは胎盤機能不全による妊娠34週以前の早産
      • 3回以上つづけての妊娠10週以前の流産
        (ただし、母体の解剖学異常、内分泌異常、父母の染色体異常を除く)
  2. 検査基準
    • (1)国際血栓止血学会ガイドラインに従った測定法による、ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant, LAC)が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
    • (2)中等度以上の力価(40GPLまたはMPL以上, あるいは99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗カルジオリピン抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
    • (3)中等度以上の力価(99%タイル以上)のIgGあるいはIgM型抗β2GP1抗体が12週以上の間隔をおいて2回以上陽性
  • ※少なくとも1つの臨床所見と1つの検査所見が存在するときに抗リン脂質抗体症候群と診断する

臨床症状

もっとも頻度が高いのが血栓症であり、血栓症が起こる血管の太さや部位はさまざまである(表1)。そのほかに血小板減少、溶血性貧血、心臓弁膜病変、頭痛・痙攣発作、精神症状なども認められることがある。

表1 抗リン脂質抗体症候群の血栓症

  • 中枢神経系:脳梗塞、一過性脳虚血発作、網膜動静脈血栓症、横断性脊髄炎
  • 心肺血管系:心筋梗塞、肺血栓塞栓症、肺高血圧症
  • 消化器系:腸間膜動脈塞栓症、虚血性腸炎、肝梗塞、脾梗塞、Budd-Chiari症候群
  • 腎泌尿器系:腎動静脈血栓症、腎梗塞、微小血栓性糸球体腎炎、腎高血圧症
  • 皮膚:指尖潰瘍、皮膚梗塞、深部静脈血栓症、網状皮斑
  • その他:習慣性流産、胎盤血流不全、子宮内胎児死亡

検査所見

  • 一般検査では、血小板減少が約40~50%の例に認められる。血小板数は、5万~10万/μLであることが多く、2万/μL以下に下がることはまれである。
  • 梅毒反応偽陽性(STS陽性、TPHA陰性)やAPTT延長は抗リン脂質抗体の存在を疑う所見として有用である。
  • 抗リン脂質抗体(anti phospholipid antibody, aPL)は、抗カルジオリピン抗体、LAC、抗カルジオリピンβ2グリコプロテインI複合体抗体(抗CLβ2GPI抗体)、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT抗体)が代表的である。しかし、他の自己免疫疾患や基礎疾患なしに陽性となることがあり、LACと抗カルジオリピン抗体は健常者の1〜5%で陽性となる報告もある。
  • LACの検査法は、カオリン凝固時間(kaolin clotting time, KCT)、希釈ラッセル蛇毒時間(diluted Russell's viper venom time, dRVVT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time, APTT)とあり、dRVVT法のみ保険適用でスクリーニングアッセイのなかでは比較的特異性が高いとされているが、内因系のインヒビターを見逃す可能性がある。
  • 現在保険適用となるaPLは、IgG型抗カルジオリピン抗体、IgG型抗CLβ2GP1抗体、LAC(dRVVT法)のみで、IgM型抗体やaPS/PT抗体については自費検査となる。

治療

  • 急性期血栓症の治療は一般的な血栓症に対する治療と同様で、動脈血栓症は低用量アスピリンなどの抗血小板薬、静脈血栓症に対してはワルファリンが主に用いられる。
  • APSの血栓症の再発はおよそ半分以上の確率で起こると言われており、二次予防が重要であり長期にわたり継続する必要がある。しかし、適切な二次予防を行っても再発・再燃するケースもあり、現時点では抗血小板・抗凝固療法の強化が行われることが多いが、出血リスクを増強するため注意が必要である。

予後

血栓症の後の二次予防を行わなかった場合、2年以内に約80%で再発がみられる。二次性を含めたAPS患者の1,000名の5年間の追跡調査では、約17%に血栓症の再発が認められ、5年間の死亡割合は5.3%であった。
APSのうち1%以下と非常に頻度は少ないが、全身の広範な血栓症と急激な多臓器不全をきたす劇症型抗リン脂質抗体症候群(catastrophic anti-phospholipid syndrome, CAPS)は致死率30~50%ときわめて予後不良である。