IgG4関連疾患

疾患概念・病態

IgG4関連疾患は血清IgG4高値と組織におけるIgG4陽性形質細胞の増殖、浸潤を特徴とし、全身の様々な臓器に線維性、腫瘤性、肥厚性病変を呈する慢性リンパ増殖性疾患である。本邦からの自己免疫膵炎における血清IgG4値高値の報告(2001年)を嚆矢とし、Mikulicz病などにおいても全身臓器への病変浸潤が存在することの発見からIgG4が関連した共通の全身性病態ととらえられるようになった。その疾患概念の確立、理解の歴史には本邦の研究者らが大きく貢献してきたという歴史的背景がある。
報告された標的臓器は多岐にわたり、現在ではMikulicz病、リーデル甲状腺炎、キュットナー腫瘍、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、後腹膜線維症、縦隔線維症、炎症性偽腫瘍のほか、間質性腎炎,間質性肺炎、硬膜病変、下垂体疾患、心膜病変、動脈病変、前立腺炎の一部などもIgG4関連疾患として認識されており、その疾患概念は大きな広がりを見せている。
これらの病態の存在が明らかになっていく中で、自己免疫膵炎、Mikulicz病、腎疾患、硬化性胆管炎についてはそれぞれ各臓器の診断基準が作成されてきた。また、特定の領域にかかわらず一般診療医でも広く診断に至れるよう、2010年の厚生労働省研究班において「IgG4関連疾患」という名称が提唱され、2011年にはIgG4関連疾患包括診断基準が上梓されている。以降、米国において2011年に第一回、2014年に第二回の国際シンポジウムが開催されるなど海外での認知度もいままさに上がりつつある。
IgG4関連疾患の詳細な病因は不明である。アジアにおける発生率の高さなどから、遺伝的背景をもとにし、感染症、自然免疫応答の活性化などによる自己免疫反応の関与が報告されている。高γグロブリン血症の存在や非特異的な自己抗体の存在、副腎皮質ステロイドが著効することなどから自己免疫学的機序による病態形成が推測されているが、決定的な病因抗体の直接証明は未だなされていない。
もともとヒト免疫グロブリンIgGには4つのサブクラスが存在するが、その中でIgG4の占める割合は最も少なく、通常3~5%とされている。IgG4が他のサブクラスと比較して異なる点として、補体との結合能を有しないこと、Fcγ受容体結合性を有しないこと、H鎖が容易に分離し別のH鎖と会合することで二重特異性のIgG分子を形成することが挙げられるが、IgG4は通常IgGが機能的に働く免疫複合体形成などの作用を有さず、他のIgG の補体結合やIgG受容体への結合を阻害することによる抗炎症作用を示すと考えられており、現時点ではIgG4が免疫応答において果たす役割は限定的なものとされている。このためIgG4関連疾患におけるIgG4の直接的な病態形成に対する意義、役割は不明である。
多くの症例で副腎皮質ステロイド治療が奏功し、早期の治療がなされれば臓器障害も改善し得るとされている。一方で進行した病期においては線維化による障害は不可逆的なものとなることも報告されている。良好なステロイド反応性を示す一方で、漸減とともに再燃しやすいという特徴もある。
IgG4関連疾患の認知度が高まるにつれ、従来悪性腫瘍と誤って判断され手術などがなされていたIgG4関連病変が、適切なステロイド投与により機能的な回復が得られ、侵襲的な治療が回避されるケースが増加することは歓迎すべきことだが、他疾患でも血清IgG4高値はまま認められることであるため、実際に血液悪性疾患や固形癌が存在しているのにも関わらず血清IgG4高値や組織IgG4陽性形質細胞浸潤が認められるという理由のみでIgG4関連疾患と誤診される可能性があることには注意すべきである。

疫学

IgG4関連疾患の発症年齢は60歳代にピークがあり,男女比はMikulicz病を除くと明らかに男性に多い。Mikulicz病ではやや女性に多いとされる。
本邦での推定患者数は自己免疫性膵炎で約3,000人(2007年)、Mikulicz病で約1,100人(2010年)とされているが疾患認知の浸透に伴い報告数が急増している。IgG4関連疾患全体の推定患者数は26,000人とする報告もある。

診断・鑑別診断

各臓器にまたがる全身疾患たるIgG4関連疾患関連疾患は、病変が形成される臓器箇所によって臨床症状や検査所見が異なる。このため、IgG4関連Mikulicz病やIgG4関連自己免疫性膵炎、IgG4関連腎疾患、IgG4関連硬化性胆管炎については臓器別診断基準が提唱されている。臓器による症状の差を補う目的に、2011年本邦よりIgG4関連疾患包括診断基準が提唱された(表1)。包括診断基準の基本理念は、各臓器病変の専門医以外の臨床医でも使用できること、各臓器におけるIgG4関連疾患の診断基準と併用できること、できるだけ簡潔化されていること、病理組織所見を重視し悪性腫瘍をしっかり除外できること、安易な副腎皮質ステロイドの診断的治療は推奨しないこと、といった点にある。包括診断基準は病理組織所見を重視しているため、生検組織が得られにくい各臓器病変に関する診断は,より専門的な臓器病変の診断基準を併用するのが望ましいとされている。
包括診断基準は臨床症状、血液所見、病理組織所見の3項目から構成される。臨床的に単一または複数臓器に特徴的なびまん性あるいは限局性腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変を認めることが前提となる。そのうえで診断確定には、血清学的所見として高IgG4血症(135mg/dl以上)を認めること、生検を行い、病理学的所見として組織への著明なリンパ球、形質細胞の浸潤と線維化を認めることともにIgG4/IgG陽性細胞比40%以上、かつIgG4陽性形質細胞が10/HPFを超えるといったIgG4陽性形質細胞浸潤が認められることが条件となる。
鑑別疾患としては各臓器の悪性腫瘍やシェーグレン症候群、原発性硬化性胆管炎、多中心性キャッスルマン病、原発性後腹膜線維症、多発血管炎性肉芽腫症、サルコイドーシス、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などが挙げられる。
鑑別を行う際には135mg/dl以上といった血清IgG4高値や組織へのIgG4陽性細胞の浸潤がそのままIgG4関連疾患の存在を示唆する、とは言い切れないということに注意を払うべきである。即ち、血清高IgG4血症を呈する疾患はIgG4関連疾患だけではなく、関節リウマチ、強皮症、多発性筋炎、シェーグレン症候群、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症といった自己免疫疾患、多中心性キャッスルマン病といったリンパ増殖性疾患、他にも慢性肝炎、肝硬変、膜性腎症、気管支喘息、好酸球性肺炎、好酸球性筋膜炎、アトピー性皮膚炎、天疱瘡などがあることや、組織中にIgG4陽性細胞が増加する非IgG4関連疾患として原発性硬化性胆管炎、ANCA(antineutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎、関節リウマチ、炎症性腸疾患、慢性副鼻腔炎、Rosai-Dorfman病、脾臓硬化性血管腫様結節、皮膚形質細胞増加症、自己免疫性委縮性胃炎などの炎症性疾患、悪性リンパ腫(MALT(mucosal-associated lymphoid tissue)リンパ腫、濾胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫など)が知られていることには十分に留意する必要性がある。
特に注意が必要なのは癌や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍である。膵癌や胆管癌の約10%で血中IgG4高値を認めるとの報告もある。悪性腫瘍組織や領域リンパ節でもIgG4細胞浸潤があると報告されており、IgG4が傍腫瘍反応として増加するという見解や特に眼窩領域においては悪性リンパ腫がIgG4関連疾患の慢性炎症を背景に発生するとの報告もある。悪性腫瘍とIgG4関連疾患の関連については,現在も検討が進められている。

臨床症状

線維化と腺組織を囲むような硬化性炎症を呈するため、臨床症状はIgG4関連疾患が存在する臓器の箇所によってことなる。線維化病変が偽腫瘍に見えることもある。
Mikulicz病においては無痛性両側眼瞼腫脹と顎下腺、耳下腺腫脹により特徴的な容貌を呈する。また、嗅覚障害を半数以上の症例に認めるとされている。唾液腺においてはキュットナー腫瘍と呼ばれる一側または両側性の硬性、無痛性顎下腺腫脹を呈することがある。
リーデル甲状腺炎は高度な線維化による腫脹が周辺臓器におよび、嚥下障害などの圧迫症状を呈する稀な甲状腺疾患である。頭頸部領域では他にリンパ節腫脹を生じるという報告もあり、原因不明のリンパ節症と診断された中にIgG4関連疾患が含まれている可能性もある。
自己免疫性膵炎は中高年男性に多く、膵管狭窄によりしばしば閉塞性黄疸を伴う。膵石合併の報告もある。肝臓においては胆管病変のみならず肝実質障害を示す場合もあり、原因不明の慢性肝炎の中にIgG4関連疾患が含まれている可能性がある。原発性硬化性胆管炎では肝内外の胆管に多発性、びまん性の狭窄が生じ,胆汁うっ滞をきたす。腎臓においては尿細管間質性腎炎が生じ、これは中高年男性に多いとされる。クレアチニン上昇を示す例が半数以上であり、中にはクレアチニン値5mg/dLを超えるような重度の腎障害をきたすこともあるとの報告もある。
神経領域においては眼窩内での神経腫脹、視神経や傍脊椎領域の神経障害、ホルモン欠落を伴う下垂体炎や肥厚性硬膜炎、多発単神経炎の報告がある。
肺病変としては間質性肺炎、炎症性偽腫瘍など、多彩な所見の報告があり、心膜炎を生じたとの報告もある。大動脈および一次分岐に動脈周囲病変を認めることがあり、特に腎動脈以下の腹部大動脈周囲に好発する。炎症性大動脈瘤を来すこともある。後腹膜線維症は中高年男性に好発する。炎症性大動脈瘤と合わせて慢性大動脈周囲炎という同一疾患分布範囲とする向きもある。尿管の狭窄をきたすと腎障害を来し得る。
前立腺病変では排尿障害を来し得る。血清PSA値が高値を示すこともあるとされる。また間質性膀胱炎がIgG4関連疾患の一つである可能性も報告されている。
これらの各臓器の症状の他、合併症として気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を高率に認めるとされる。

検査所見

採血では包括診断基準にも含まれているように、血清IgG4値が135mg/dL以上と高値を示すことが多い。また、高γグロブリン血症、好酸球増多、高IgE血症を呈することもある。IgG4の産生にIL-4、IL-13といったTh2優位のサイトカインが関わるとされているためとされている。低補体血症も約50~58%で認めると報告されている。
複数臓器に病変が浸潤している症例が一概にIgG4値が高値をとるとは言えないため、IgG4値の多寡のみで症例の重症度が規定することはできないとされている。抗核抗体は約23%、リウマトイド因子(Rheumatoid Factor, RF)は約27%で認めるとされるが、疾患特異的な自己抗体は見出されていない。
CTやPET-CT、MRI MRI(magnetic resonance imaging)、ガリウムシンチなどによる画像検査では、障害される臓器に対応した部位での腫脹、腫瘤像などを認めることが出来る。即ちMikulicz病においては涙腺・耳下腺・顎下腺の腫脹が、自己免疫性膵炎においてはびまん性の膵腫大が、神経障害では神経に沿った炎症性変化が、後腹膜線維症では場合により尿管狭窄が、腎障害においては、造影CTにおいて腎実質の多発造影不良域、びまん性腎腫大、血管像に乏しい単発性腎腫瘤、腎盂壁肥厚病変といった変化などがみられる。

治療

IgG4関連疾患に対しては副腎皮質ステロイド治療が奏功することが知られているが、治療方針についての意見の一致は未だ得られていない。現状では自己免疫膵炎の治療ガイドラインを参照とし、PSL0.6mg/kg/日の初期投与を選択する医療機関が多い様である。その後3-6ヶ月かけて漸減し、PSL2.5-10mg/日の維持投与がなされていることも多い。ステロイド初回投与での無効例についてはIgG4関連疾患との診断を慎重に見直すべきである。
一方、自己免疫性膵炎では自然軽快する例が10~30%程との報告もある。また、早期の減量や中止により再燃が起こることも知られており、ステロイド投与の必要性や投与量、漸減、維持などについての治療ガイドライン作成が行われている。
ステロイド治療抵抗の難治例についてはアザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサートなどの各種免疫抑制薬や抗CD20抗体(リツキシマブ)の有効性が報告されている。
治療効果判定については現在確立されたものはなく、一般的には血清IgG4値の低下、CT、MRI、PET-CTでの画像所見をもって総合的に評価されることが多い。血清IgG4値はステロイド加療開始により速やかに低下するものの、PSL10mg/日まで漸減したあたりで臨床的再燃とは無関係に再度上昇に転ずる例が多いとの報告もある。

予後

一般的にステロイド治療によって約70%が臨床的寛解に至るなど予後は良好とされるが、病期が進行し線維化が著明となった腫瘤性病変については改善が難しいとされている。また、寛解に至っても約19%が再燃するとの報告もあり、再燃が決して少なくないことも推測されている。寛解した症例のうち維持量で投与されているステロイドを中止できたのは10%未満であったとの報告もある。

表1 IgG4関連疾患包括診断基準(2011年)