胸腺は胸骨の裏側にあり、左右の両葉からなる一対の器官です。胸腺は、胎生期に最も発達していますが、思春期以降は次第に退縮し、成人では大部分が脂肪に置き換わっています。その胸腺組織が腫瘍化したものが胸腺腫です。胸腺腫は、病理学的には良性でありますが、その特徴として、周囲臓器に浸潤しながら増大傾向を示すため、臨床的には悪性腫瘍に準じて治療方針を決める必要があります。胸腺腫の治療における第一選択は外科的手術で、一般的には正中切開による胸腺腫・遺残胸腺組織・周囲の脂肪組織を一塊として切除する拡大胸腺全摘術が行われてきました。この20年間で外科的手術の技術、機器は格段に進歩しました。従来の胸骨正中切開手術、胸腔鏡下手術に加え、当院ではロボット手術にも力をいれており、身体への負担を出来る限り軽減することに努めてます。呼吸器外科領域におけるロボット手術の手術件数は全国1位(2022年のデータ)です。腫瘍の大きさ、位置によっては、胸骨正中切開が良いこともあり、きちんとそれぞれの患者さんに適したアプローチ方法を提供するように努めてます。

予後は浸潤の程度によりますが、完全切除がなされれば、一般的に良好です。現在、もっともよく用いられている胸腺腫の臨床病期分類は正岡分類であり、治療方針や予後の判定に有用とされています。呼吸器外科学会学術調査の報告によると正岡分類病期別の5年生存割合は、I期100%、II期98.3%、III期89.2%、IVa期73.1%、IVb期63.5%でした。

胸腺腫には、種々の自己免疫性疾患が合併することが知られています。頻度の高いものは重症筋無力症、低ガンマグロブリン血症、赤芽球ろうです。胸腺腫に合併する頻度は、呼吸器外科学会学術調査によると、それぞれ24.7%、2.6%、0.65%でした。当科では、脳神経内科とも連携をとって取り組んでおり、症例数は日本でもトップレベルの施設です。