縦隔とは、左右の胸膜腔の間に存在する部位をいいます。縦隔内にはさまざまな種類の腫瘍が発生します。日本胸部外科学会学術調査によると、わが国の縦隔腫瘍の発生頻度は、1986~1990年の集計では、胸腺腫が35.9%で最も多く、神経原性腫瘍19.0%、先天性嚢腫11.5%、先天性嚢腫.7%、甲状腺腫6.6%、リンパ性腫瘍4.7%、その他12.5%となっています。
神経原性腫瘍は自律神経節や傍神経節の神経細胞由来の腫瘍と末梢神経の神経線維の腫瘍に大別されます。腫瘍の成長は緩徐であり、症状は多くの場合は認められませんが、代表的な症状としては、胸腔内重圧感、胸背部痛、上肢痛、ホルネル症候群、嗄声、咳、呼吸困難があります。神経原性腫瘍の中には、腫瘍の発育が神経に沿って上行し、椎間腔内に腫瘍が発育することがあります。この場合腫瘍は、脊椎管内と管外で成長し、dumbbell tumorと呼ばれています。その場合、胸椎レベルにおける神経圧迫症状、下肢対麻痺等が出現します。

先天性嚢胞のうち、主なものは気管支原性嚢胞と心膜嚢胞です。気管支嚢胞は胎生期に気道と食道に分離する際にその一部が遊離し、発育して生じます。症状は多くの場合は認められませんが、気道と交通し感染すると、発熱、胸痛をみます。心膜嚢胞の発生原因はいまだ不明ですが、大部分は心横隔膜角に発生し、右側が多いといわれています。一般に無症状です。
奇形腫は、多分化能を有する胚細胞から発生するため様々な分類がなされていますが、大別すると、成熟奇形腫、未熟奇形腫、悪性奇形腫に分類されます。大部分の成熟奇形腫と一部の未熟奇形腫が良性で全体の80~90%を占めます。成熟奇形腫は色々な胚葉由来の成熟した組織から構成される腫瘍で皮膚、髪、歯、気管支、膵組織などが充満しています。成熟奇形腫では症状は一般に軽く、圧迫症状が主です。胸腔内、心嚢内、肺内に穿孔すると、発熱、胸痛、呼吸困難等の症状が出現します。悪性奇形腫は浸潤性で発育速度が速く、周囲組織への圧迫、浸潤による胸痛や呼吸困難や上大静脈症候群が出現してきます。

縦隔内甲状腺腫は頚部の甲状腺が発育して縦隔内に懸垂してきたものです。一般に無症状ですが、進行すれば、嗄声、嚥下障害、上大症候群が出現します。
リンパ性腫瘍の大部分は、悪性リンパ腫です。悪性リンパ腫はリンパ節、リンパ組織由来の悪性腫瘍です。比較的急速に発育する充実型腫瘍です。主症状は発熱、全身倦怠感、表在リンパ節腫脹等です。

治療法は、悪性奇形腫(胚細胞腫)と悪性リンパ腫では化学療法、放射線療法が主体ですが、他の限局性腫瘍に対しては外科的切除が行われます。この20年間で外科的手術の技術、機器は格段に進歩しました。従来の胸骨正中切開手術、胸腔鏡下手術に加え、当院ではロボット手術にも力をいれており、身体への負担を出来る限り軽減することに努めてます。呼吸器外科領域におけるロボット手術の手術件数は全国1位(2022年のデータ)です。腫瘍の大きさ、位置によっては、胸骨正中切開が良いこともあり、きちんとそれぞれの患者さんに適したアプローチ方法を提供するように努めてます。