大学院研究について

びまん性肺疾患グループ研究内容

当院において特に重点を置いているびまん性肺疾患領域は、特発性肺線維症を中心とした特発性間質性肺炎、薬剤性肺障害、膠原病関連間質性肺疾患です。

1.特発性肺線維症・特発性間質性肺炎

当院では特発性肺線維症の診断に至った症例では積極的な抗線維化薬の導入を行っており、特にNintedanib(オフェブ®) に関しては当科および浦安病院のデータを用いたリアルワールドデータの発表を行っています。 Nintedanibによる消化器関連有害事象はSci Rep誌に [1]、長期使用の有用性についてはATSで発表 (ATS 2020)、Drug Des Devel Ther [2]誌に掲載され、低用量での有用性と安全性についての検討を行いATS (ATS 2021)で発表し論文執筆中です。

また、予後不良である急性増悪の病態に着目し、誘因別の予後の違い、予後予測因子などを後方視的に検討、Respi Res誌に掲載[3] されました。また、急性増悪の際に治療に用いられることがあるPMX-DHPの有効性の指標に関しては国際学会で発表 (ATS 2021)し、現在論文投稿中です。一方、近年着目されているPPFEに関しても当院での症例集積を行っており、PPFE症例の予後因子の解析を行いRespiration誌に掲載[4]されました(浦安病院と共同)。最近は本邦よりPPFEの臨床診断基準案発表されたが発表されたため、当科の症例を用いて各臨床診断基準ごとの予後の調査などを行っております(JRS 2022など)。

当院は厚生労働省びまん性肺疾患研究班の参加施設 であり、他施設との前向き共同研究も積極的に行っています。同研究班で行われた特発性肺線維症に対するピルフェニドン+ムコフィリン吸入併用療法 (研究代表施設:東邦大学)の臨床試験へは8例 (びまん班参加施設内登録患者数3位)の患者登録を行い、本試験の結果についてはEur Respir J誌に掲載[5] されました。やはり当科症例が参加した自己免疫の特徴を有した間質性肺炎(Interstitial pneumonia with autoimmune feature: IPAF)の臨床実態(研究代表施設:浜松医科大学)はThorax誌[6]にIPFに対する抗線維化薬2剤併用の実態調査 (研究代表施設:自治医科大学)についてはRespir Investig誌[7]で公表されました。また慢性線維化性間質性肺炎の急性増悪の大規模調査(研究代表施設:公立陶生病院)、iPPFE( 特発性胸膜肺実質線維弾性症の elastin 代謝に関連した病態解明とその制御(研究代表施設:東京医科歯科大学)、加湿器肺に関する全国実態調査(研究代表施設:東邦大学)、 間質性肺炎合併肺癌における免疫チェックポイント阻害剤の安全性と有効性を検討する多施設後方視的研究 (研究代表施設:東邦大学)、間質性肺疾患および肺がん患者の苦痛緩和の実態およびQuality of Dying and Death (QODD) に関する研究 : 多施設横断研究(研究代表施設:浜松医科大学)などに当科も参加しています。

最近は前向き試験での症例収集、研究に力を入れています。本邦初の大規模レジストリーである「特発性間質性肺炎に対する多施設共同前向き観察研究(JIPS, 研究代表施設:神奈川県立循環器呼吸器病センター)」には20例 (登録86施設内13位) の症例登録を行い現在は観察期間中です。本試験は付随試験として間質性肺炎の病態に関わる遺伝子検索(NEJ036, 研究代表施設:自治医科大学)も行っており、こちらも現在解析中です。2020年からは、MDD診断やAI診断とも関連した間質性肺疾患の新規レジストリーであるPROMISE試験 (研究代表施設:名古屋大学)、IBiS試験(研究代表施設: 浜松医科大学)にも積極的に症例登録を行っています(2022年5月15日現在73例登録)。

昨今IPFに対しては抗線維化薬の使用頻度が高くなっていますが、膠原病や過敏性肺炎の診断に至らずとも炎症性の素因があるケースなどではステロイドと抗線維化薬の併用療法に期待が持たれます。現在はこれらの併用は一般的ではないため、関東の数施設と共同で、抗線維化薬投与下慢性期特発性肺線維症症例へのステロイド併用実態調査-多施設共同前向き観察試験 (研究代表施設:順天堂大学、2022年5月15日現在、研究全体で27例登録)を行っています。

2.薬剤性肺障害

日本人は薬剤に対する肺の脆弱性が指摘されており、薬剤性肺障害の頻度が多いとされています。当グループでは肺癌臨床グループと共同で、抗癌剤における薬剤性肺障害の研究を以前より進めて参りました。Pemetrexedの薬剤性肺障害[8]および進行肺癌患者への抗癌剤投与での薬剤性肺障害におけるSP-Dの有用性 [9]に関しては国際学会で発表を行い、ともにBMC cancer誌に掲載されました。肺癌関連では、免疫チェックポイント阻害薬による肺障害発症について、一例報告をThoracic Cancer 誌では発表[10]し、ILA(Interstitial lung abnormality)に着目して、既存のILAのパターンによる傾向の違いにつて検討し、発表(JRS 2022など)しました。今後は基礎研究でも薬剤性肺障害に着目し、予防の観点からも研究を進めていく予定です。

図2:二朮湯投与中にびまん性肺胞障害を生じた1例 (Respirology Case Reports 2016; 4: e00195)

3.膠原病関連間質性肺疾患

当院は膠原病の症例が非常に多いため、膠原病に合併した、間質性肺疾患などの呼吸器合併症を有する多くの外来、入院症例を膠原病内科と併診して拝見しています。2019年は抗線維化薬変遷の年となり、今までIPFのみの適応であったNintedanibが全身性強皮症関連間質性肺疾患(SSc-ILD:SCENSCIS試験)、線維化進行性間質性肺炎(PF-ILD;INBUILD)で良好な結果となり、2019年12月よりSSc-ILDにおいて、2020年5月よりPF-ILDに認可され、実際に患者さんへ投与できるようになりました。そのため、当科では膠原病内科と共同で、SSc-ILDおよびPF-ILDでNintedanibを投与する症例を前向きに集め、リアルワールドでのNintedanibの有効性や安全性を検討(SSc-ILDへのニンテダニブ投与の有効性と安全性を確認する前向き観察研究、PF-ILDへのニンテダニブ投与の有効性と安全性を確認する前向き観察研究:ともに研究代表施設:順天堂大学)を行っています。 両試験では並行して、肺高血圧への影響の検討(当科肺循環グループと共同)、Nintedanibの治療効果評価マーカーやSSc-ILDの治療における新規バイオマーカーの探索(当科肺疾患線維化テロメア病態研究グループと共同)、クライオバイオプシーとSSc-ILDやPF-ILDの疾患詳細の診断の有用性、およびNintedanibにおける治療への有用性や有害事象の検討を行っています。そのほか、筋炎関連抗体であるARS抗体陽性症例での検討も行っています。このように多診療科および各研究グループで共同で研究ができるのも、各科や各研究グループ同士の垣根が低い順天堂の強みになります。

4.基礎研究

図3. ブレオマイシン肺線維症モデルへの
薬剤投与における線維化抑制効果の確認

当科では間質性肺炎に関する基礎研究も盛んに行っており、主に肺胞上皮細胞、肺線維芽細胞に着目し研究を行っています。本項では肺胞上皮に関する研究を述べます。肺線維芽細胞に関する研究は肺疾患線維化テロメア病態研究グループの項をご参照ください。
特に肺胞上皮細胞とTGFβ/Smad経路の関連に着目としたメカニズム解析およびBLM肺線維症モデルの構築による薬剤の肺線維化抑制の検討を行っており、DasatinibやTranilastによる肺線維症の抑制効果、Nintedanibのに関して報告 [11、12]に掲載、Nintedanibの上皮間葉転換を標的とした肺線維化抑制効果の確認に関してはRespir Investig誌に掲載 [13]されました。最近は急性増悪の病態にも着目し、そのマウスモデルの構築を行っています。
また、間質性肺炎の気管支肺胞洗浄液の細胞分画の解析を喘息グループと共同で行い、臨床診断病型と気管支肺胞洗浄液の細胞分画の特徴の詳細の検討を行いました。

5.若手への教育

当グループでは、豊富な症例数から日本呼吸器学会関東地方会・総会、ATS、ERS、APSRなどの国際学会などで研修医やレジデントの先生を含む若手へ学会発表を提案し、指導しています。2021年のAPSRでは11演題、ATSでは3演題、2022年日本呼吸器学会では8演題を発表しております。その成果として、235回日本呼吸器学会関東地方会では研修医の先生が最優秀賞を獲得、238回、241回、245回、247回では優秀賞を獲得しました。また発表した症例については英文ケースレポートを執筆し各雑誌に掲載されました[14-15]。

論文

  • Kato M, et al. Gastrointestinal adverse effects of nintedanib and the associated risk factors in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Sci Rep. 2019;9:12062.
  • Kato M, et al. Clinical Significance of Continuable Treatment with Nintedanib Over 12 Months for Idiopathic Pulmonary Fibrosis in a Real-World Setting. Drug Des Devel Ther. 2021;15:223-230.
  • Kato M, et al. Prognostic differences among patients with idiopathic interstitial pneumonias with acute exacerbation of varying pathogenesis: a retrospective study. Respir Res. 2019;20:287.
  • Kato M, et al. Usual Interstitial Pneumonia Pattern in the Lower Lung Lobes as a Prognostic Factor in Idiopathic Pleuroparenchymal Fibroelastosis. Respiration. 2019;97:319-328.
  • Sakamoto S, et al. Pirfenidone plus inhaled N-acetylcysteine for idiopathic pulmonary fibrosis: a randomised trial. Eur Respir J. 2021;57:2000348.
  • Enomoto N, et al. Prospective nationwide multicentre cohort study of the clinical significance of autoimmune features in idiopathic interstitial pneumonias. Thorax. 2022;77:143-153.
  • Hisata S, et al. Safety and tolerability of combination therapy with pirfenidone and nintedanib for idiopathic pulmonary fibrosis: A multicenter retrospective observational study in Japan. Respir Investig. 2021;59:819-826.
  • Kato M, et al. Pemetrexed for advanced non-small cell lung cancer patients with interstitial lung disease. BMC Cancer. 2014;14:508.
  • Nakamura K, et al. Surfactant protein-D predicts prognosis of interstitial lung disease induced by anticancer agents in advanced lung cancer: a case control study. BMC Cancer. 2017;17:302.
  • Kato M, et al. Dramatic, significant metabolic response to a one-time pembrolizumab treatment following a relapse of pre-existing organizing pneumonia in a patient with advanced non-small cell lung cancer: A case report. Thorac Cancer. 2021;12:3076-3079.
  • Kanemaru R, et al. Dasatinib Suppresses TGFβ-Mediated Epithelial-Mesenchymal Transition in Alveolar Epithelial Cells and Inhibits Pulmonary Fibrosis. Lung. 2018;196:531-541.
  • Kato M, et al. Tranilast Inhibits Pulmonary Fibrosis by Suppressing TGFβ/SMAD2 Pathway. Drug Des Devel Ther. 2020;14:4593-4603.
  • Ihara H, et al. Nintedanib inhibits epithelial-mesenchymal transition in A549 alveolar epithelial cells through the regulation of TGF-β/Smad pathway. Respir Investig. 2020;58:275-284.
  • Kato Y, et al. Hermansky-Pudlak syndrome-associated pneumothorax with rapid progression of respiratory failure: a case report. BMC Pulm Med. 2020;20:259.
  • Ochi Y, et al. Thrombocytopaenia during nintedanib treatment in a patient with idiopathic pulmonary fibrosis. Respir Case Rep, 8, 2020, e00628