産科麻酔チームのご紹介(患者さん向け)
ご挨拶
諸外国では一般的に行われている無痛分娩ですが、日本ではまだ十分に普及していません。その原因として「お腹を痛めて産んだ赤ちゃん」などの表現が用いられるように、日本では陣痛に耐えて産むことを美徳とする風潮があることが指摘されています。しかし海外で出産される日本人の多くが無痛分娩を選択して良好な母子関係を築かれている事実は、日本で出産する女性だけが痛みに耐える必要がないことを如実に物語っています。
日本で無痛分娩が普及しない最大の理由は、一施設当たりの分娩数が少ないために無痛分娩を担当する麻酔科医を常時配置することが困難であるからだと思われます。日本の多くの病院ではこのような状況で無痛分娩を行うための苦肉の策として、無痛分娩を希望する妊婦に対しては計画分娩を勧めたり、麻酔科医ではなく産婦人科医が無痛分娩を担当したりしてきました。しかし安全で質の高い無痛分娩を提供するためには産科麻酔に理解のある麻酔科医の関与は不可欠です。
この度、順天堂医院では産婦人科と麻酔科が協力して24時間体制で自然陣発後の無痛分娩に対応するサービスを開始いたしました。特に初産婦さんでは、自然の陣痛を待ってから入院していただき妊婦さんが鎮痛処置を希望した時点で無痛分娩を開始することで、より順調な分娩の進行が期待できます。もちろん分娩経過が早い可能性の高い経産婦さんなどには計画分娩での無痛分娩にも対応していますが、24時間体制で無痛分娩に対応できますので、実際に無痛分娩を受けるかどうかは分娩経過中に決めていただくことも可能です。また産科麻酔に理解のある麻酔科医が24時間体制で配置されているので、緊急の帝王切開になった場合でも安心です。
日本で最初の無痛分娩は、1916年に与謝野晶子が五男を順天堂医院で分娩した際に施されたとの記録が残っています。それから1世紀近くが経ちましたが、ようやく24時間体制で無痛分娩に対応することが可能となりました。産婦人科外来内に産科麻酔外来を開設しましたので、順天堂医院で分娩予定の妊婦さんで、無痛分娩に興味のある方の受診をお待ちしています。
診療のご案内
無痛分娩について:
当院では24時間体制で自然陣発後の無痛分娩にも対応していますので、無痛分娩のためだけに計画分娩にする必要はありません。麻酔法は硬膜外麻酔単独あるいは脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔の併用により行っています。麻酔を導入してから分娩までは自己疼痛管理装置(PCA装置)を用いて痛みをコントロールしてもらいますが、麻酔科医が定期的に訪問し最後まで十分な鎮痛を提供できるようにしています。
帝王切開の麻酔について:
当院では予定帝王切開は原則として局所麻酔(脊髄くも膜下麻酔)で管理しています。術後鎮痛のための硬膜外麻酔は行っていませんが、脊髄くも膜下麻酔に少量の麻薬を使用し、経口の鎮痛薬を積極的に用いることにより十分な鎮痛を提供しています。無痛分娩中に緊急帝王切開が必要になった場合には、硬膜外麻酔で管理しています。
当院での分娩を希望される方へ
産科麻酔外来のご紹介:
当院で出産を予定されている妊婦さんには妊娠36週までに産科麻酔外来を受診していただきます。帝王切開予定の妊婦さんには、帝王切開の麻酔法についてあらかじめご説明しておきます。経膣分娩予定の妊婦さんには無痛分娩についてご説明しておきますが、無痛分娩を選択するかどうかは分娩経過中に決めていただいて結構です。同時に、緊急の帝王切開が必要となった場合でもあわてることの内容に事前にしっかりと準備しておきます。