反復性肩関節脱臼

怪我の病態

図:前から見た肩関節、上から見た肩関節、バンガード損傷、上腕骨骨折

上腕をより広範囲に動かす目的のため、肩関節は受け皿である肩甲骨関節面が非常に小さいという特徴を持ちます。加えて解剖学的な構造上、上腕骨骨頭は前下方に逸脱しやすく、この方向に大きな外力が加わると脱臼する危険性を伴ってます。したがって、脱臼は通常、肩を挙げて転んだ際に地面に手をついたときや、大きな外力で上腕が後方にもっていかれた時などに起こりやすくなります。

受け皿を補強するためには,関節唇(=軟骨様の堤防)、関節包(=袋)、腱板、補強靱帯が発達していますが、脱臼時にはこうした関節の構造が破壊されてしまいます。

明らかな外傷の経験がない場合にも、特に関節が軟らかい人の中には脱臼の不安感をもつ人がいます。女性に多く、多方向への関節弛緩性を示すこともあり、動揺肩(=loose shoulder)といわれます。このような関節の構造があまり破壊されてないケースにも程度によって手術を必要とします。

治療

外旋位保持装具、アルケア(株)HPより

初回脱臼の整復後は断裂した関節包などの軟部組織が修復するまで、約3-6週間の固定が必要です。上肢の固定肢位については諸説ありますが、従来からある固定方法では若年者の場合90%は再脱臼を来たし、反復性脱臼へ移行するといった報告もあり、十分な治療成績は得られてません。近年では、肩関節を外旋位に保って固定する方法が損傷組織の修復にはより有効ではないか、と提唱されています。
 一定の固定期間の後、肩周囲の筋力増強・可動域改善などを試みますが、軟部組織の緩みや破綻が残ると反復性脱臼に移行します。初回脱臼の年齢が若いほど、高率に反復性となりやすく、日常生活で不安感のある場合や、肩に負担のかかる運動を継続したい場合には手術を検討します。

検査

脱臼時には関節窩と上腕骨骨頭が衝突し、骨欠損を生じやすい

骨欠損の評価は通常レントゲン撮影で評価します。また、関節内に生理食塩水で希釈した造影剤を注入した後にMRI撮影を行うと、軟部組織の損傷程度を評価できるので、手術の適応や方法を決定するのに有効です。なお、造影剤は生体にとって異物となるものですから、稀にアレルギー反応を示すことも危惧されますが、今日まで重篤な合併症を起こした例はありません。当院では事前に問診を行っています。

手術

画像:(上)破綻した関節唇(=堤防)、(下)縫合して修復した後

当院では主に関節鏡視下にバンカート病変修復術を行ってます。肩関節脱臼がくせになる主な原因は、上腕骨骨頭の骨欠損、関節包の弛緩、一部の関節唇の剥離によって、正常な構造が破綻することです。手術はアンカーと呼ばれる生体吸収性のビスを関節窩(関節の端)の最適部位に3~4カ所挿入し、ビスについている糸で関節包と関節唇を縫いつけて正常の構造に近づくよう、できるかぎり修復します。約1センチの傷が肩の前面と後面に合計3カ所できます。手術後2週間は三角巾で簡単に固定します。
 入院期間は平均約4日間です。通常約1か月でデスクワークなどの軽作業ができるようになり、日常生活に不自由がなくなります。3か月で軽負荷のスポーツや作業、6か月でスポーツや重労働への完全復帰を目指します。

傷をあけ筋肉を分けて行う脱臼制動術では手術の傷跡が大きい、肩関節周囲腱の一部を切離するため筋力低下や癒着がおこり関節が硬くなりやすい、などの問題がありました。関節鏡視下手術では正常な組織を切離することなく関節にアプローチできるため、これらの問題が起こりにくく、週一回の通院リハビリテーションと自主トレとしてのホームエクササイズで行うことが可能です。