低侵襲手術の具体例

近年、内視鏡下技術の発展に伴い安全かつ短期入院で患者さんの負担の少ない手術が提供できるようになりました。内視鏡を用いない手術に比べ正常な組織を傷つけにくい、術後の疼痛が少ない、滅菌された潅流液を流しながら手術を行うため術後感染が少ない、術後の傷が小さい、術後リハビリテーションの負担が少ない、早期スポーツ復帰が可能である、などの利点があります。 整形外科・スポーツ診療科では膝関節前十字靭帯損傷や半月板損傷、反復性肩関節脱臼や肩腱板断裂などの手術に積極的に用いています。

膝前十字靭帯損傷の手術

スポーツでけがをした膝前十字靱帯を治療するためには、自分の組織を用いて再建するのがベストな方法とされています。当院ではこの治療は1978年から開始し、1982年には世界で初めて大きく切らずにできる関節鏡手術として行うことに成功し、世界でもこの分野ではもっとも経験を積んだ病院の一つとなっております。当院で主に行っている膝屈筋腱(ハムストリングス)を用いた関節鏡視下膝前十字靱帯再建術は、大きな合併症がなく術後の成績も安定しているため、有効な治療方法として確立されています。手術は膝関節を構成する大腿骨と脛骨の至適部位に関節鏡を用いてトンネルを作製し、そこに採取加工した腱を貫いて上端と下端を金具で固定することで膝の安定性を得ることを目的とし、全麻+硬膜外持続麻酔下で行います。術後は膝の固定装具を特別必要とせず、手術翌日より車椅子移動、2日目より手術した足も着いて歩く訓練を開始します。ほとんどの場合、7日目で創の抜糸をして歩いて退院が可能で、その後は2週間から1ヵ月の間隔で膝専門外来に通院しながら、リハビリを行って頂きます。およそ6~8ヵ月でスポーツ復帰が可能で、リハビリはホームエクササイズとして自宅での自主トレーニングでも可能です。この方法でこれまで、プロや日本代表クラスの選手から高校生やママさんバレークラスのアマチュアの方までたくさんの方々に再びスポーツを行うことができる喜びを提供し続けています。

前十字靭帯損傷
前十字靭帯損傷
靱帯再建後
靱帯再建後

反復性肩関節脱臼の手術

関節鏡視下バンカート病変修復術を行っています。肩関節脱臼がくせになる原因は、上腕骨頭(腕の付け根)の骨が削れてしまうことと、関節前方の関節唇(軟骨様の関節の堤防)がはがれてしまうことです。痛んだ関節包(関節の袋)や関節唇を関節鏡で確認し、アンカーと呼ばれる糸付きの小さなビスを関節窩(関節の端)に挿入し、その糸を用いて関節包と関節唇を縫いつける方法を行っています。手術後2週間、三角巾でのかんたんな腕の固定を行います。各個人差がありますが、約1か月でデスクワークなどの軽作業ができるようになり、日常生活に不自由がなくなります。3か月で軽負荷のスポーツや作業、6か月でスポーツや重労働への完全復帰を目指します。約6日間の入院期間で行っています。 傷をあけ筋肉を分けて行う脱臼制動術では手術の傷跡が大きい、肩関節周囲腱の一部を切離するため筋力低下や癒着がおこり関節が硬くなりやすい、などの問題がありました。関節鏡視下手術では正常な組織を切離することなく関節にアプローチできるため、これらの問題が起こりにくく、週一回の通院リハビリテーションと自主トレとしてのホームエクササイズで行うことが可能であり、患者さんからも負担が少ないとご好評を頂いております。

関節唇損傷
関節唇損傷
関節唇修復後
関節唇修復後