肝臓グループ

担当教授ご挨拶

Dr池嶋健一l
肝臓グループ教授
池嶋 健一
肝臓グループは、第2代主任教授の故浪久利彦先生が主宰された肝臓研究室に端を発し、佐藤信紘、渡辺純夫両教授の薫陶のもと、臨床面のみならず医学教育・基礎研究や国際交流などを通じて幅広い活動を行ってきました。平成29年11月に教授を拝命し、この伝統を礎にして、最良の肝臓病診療を提供しつつ最新の研究を展開出来るよう、気持ちを新たにスタッフ共々取り組んでおります。
診療としては、急性および慢性の各種肝臓病の診断から治療・フォローアップを専門としております。肝臓は"沈黙の臓器"ともいわれ、初期~中期の段階では自覚症状に乏しいため、適切なタイミングで検査を受け、正しい診断を得て治療介入することが極めて重要です。昨今、C型やB型のウイルス性肝炎の抗ウイルス薬の進歩は目覚ましく、多くの患者さんにとって福音となっています。一方、アルコール性肝障害やメタボリックシンドロームに伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)など、生活習慣や嗜癖に伴う肝臓病は、個々の状況に応じたマネージメントが求められます。また、自己免疫性肝疾患など難治性の肝臓病は、より良い治療法の開発が望まれています。私たちのグループは、国際的な視野を生かして、分子病態の深い理解に根差したハイエンドの肝疾患診療を常に目指しています。

診療実績

私たちは肝臓病全般に渡る診療を担当しており、ウイルス性肝炎はもとより、アルコール性肝障害および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎など)、薬物性肝障害、代謝性肝疾患(ウィルソン病など)の診断・治療およびフォローアップを行っています。外来では、肝臓専門医がどの曜日でも、午前・午後のいずれかで診療に従事できるような体制をとっています。
 
肝臓病の的確な診断には、詳細な問診や血液検査に加え、腹部超音波検査やCT、MRIなどの画像検査が不可欠です。確定診断や詳細な病態の把握には、入院での肝生検が最もスタンダードな手段ですが、私たちのグループは、超音波下肝生検および腹腔鏡下肝生検の両方の手技に対応できる、全国でも希少な体制を維持しており、年間40~50例の精査を行っています。病理所見については、病理医との合同カンファレンスを毎月定例で行い、臨床・病理双方の情報共有や討議を密に行うことで診断精度の向上に努めています。一方、最近は非侵襲的検査の精度が向上してきており、慢性肝疾患の病態進行に伴う線維化の進行度判定や脂肪肝の定量的評価に関しては代用可能になってきました。超音波画像診断装置フィブロスキャン®は、体を傷つけることなく簡便に慢性肝炎の病態の進行度や肝臓内に貯留した脂肪の量を把握することができ、年間300名程の患者さんが検査を受けられています。
肝臓グループ診療実績01
肝臓グループ診療実績02
近年、C型肝炎の治療は直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)によるインターフェロンフリー治療が主流になり、慢性肝炎では最短で8週間、代償性肝硬変でも12週間の外来通院治療で95%以上のウイルス持続陰性化が得られるようになりました。これまでに400名を超える患者さんが私たちの下でDAAs治療を受けられており、国内治験データや市販後調査での全国施設平均を上回る奏効率を達成しています。また、300名以上のB型肝炎の患者さんが定期通院されており、主として各種核酸アナログ製剤を用いた治療を受けられています。
 
私たちのグループは以前からアルコール性肝障害を研究テーマの一つとして精力的に取り組んでおり、近年注目されているメタボリックシンドロームに伴うNAFLDおよびNASHの病態解明および治療アプローチについても先駆けて研究を展開してきています。日本消化器病学会の「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014」では先代の渡辺純夫教授が作成委員長を務め、池嶋健一教授も当時より作成委員として参画しており、改訂版の作成副委員長にも就任しています。NAFLD/NASHの治療には生活習慣の改善が必須ですが、私たちは栄養部と協力して定期的に肝臓病栄養教室を行い、栄養療法の啓蒙に努めています。NASHの薬物療法は未だ確立していないのが現状ですが、メタボリックシンドロームへの対応など個々の病態に合わせたフォローアップを行っており、今後は臨床治験も含めて最新治療を提供していく予定です。
 
順天堂医院は以前から膠原病内科が充実していることに加え、故浪久利彦教授が自己免疫性肝疾患に造詣が深かった経緯もあり、全国的にも有数の自己免疫性肝疾患の患者さんが集まって来られています。自己免疫性肝炎は140名以上、原発性胆汁性胆管炎は80名以上、これらの特徴を併せ持つオーバーラップ症候群の患者さんも15名程が通院治療を続けられています。
 
肝臓病の入院治療に関しては、毎週金曜日に肝臓疾患カンファレンスを行っており、病棟医と専門スタッフが綿密に情報交換して、高レベルの治療を実施継続できるよう努めています。急性肝不全(劇症肝炎)や重症アルコール性肝炎などのacute on chronic型肝不全(ACLF)に対しては血液浄化療法(血漿交換や持続血液ろ過透析)を中心とした集学的治療を行い、状況に応じて肝胆膵外科と連携して肝移植の適応判断と移植前マネージメントも行っています。また、肝硬変非代償期の慢性肝不全に伴う肝性脳症や難治性胸腹水の治療に加え、肝硬変や特発性門脈圧亢進症などに合併する食道胃静脈瘤に対する内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)および硬化療法(EIS)も肝臓グループの専門スタッフが担当しています。これらの内視鏡治療および、症例によっては放射線科と連携してバルーン閉塞下逆行性静脈瘤硬化療法(B-RTO)も選択枝に加え、合わせて年間延べ120件前後を実施しています。
肝臓グループ診療実績03
肝臓グループ診療実績04

臨床研究

  1. 糖尿病合併NAFLDに対するダパグリフロジンとビタミンEの効果:無作為化非盲検比較試験
  2. 自己免疫性肝炎における再燃リスク因子の後方視的検討
  3. 順天堂大学におけるB型肝炎治療に関する後方視的解析:多施設共同研究
  4. 非アルコール性脂肪性肝疾患およびアルコール性肝障害の臨床学的特徴に関する後方視的研究
  5. 慢性肝疾患における糖鎖欠損トランスフェリンの測定意義に関する前方視的検討
  6. リフキシマ投与による上部消化管内細菌叢変化の解析
  7. 当院における急性肝不全・劇症肝炎患者の後方視的研究
  8. 肝疾患病態進展における内分泌ホルモンの役割についての後方視的研究
  9. 本院における免疫関連有害事象(irAE)発症の臨床的特徴の解析
  10. 脂肪肝炎関連疾患の病態形成における好中球細胞外トラップ(NETs)の役割