臨床研究「内視鏡診断AIシステムの開発」

 順天堂大学医学部 消化器内科 上山浩也 准教授、永原章仁 教授らのグループは、株式会社AIメディカルサービスと共同で、NBI併用胃拡大内視鏡画像から早期胃癌の診断を自動で行う「内視鏡診断AIシステム」を開発し、これが経験豊富な内視鏡専門医のスキルに匹敵する優れた診断精度であることを実証しました。この成果がJournal of Gastroenterology and Hepatologyに掲載されました(Ueyama H et al. Application of artificial intelligence using a convolutional neural network for diagnosis of early gastric cancer based on magnifying endoscopy with narrow-band imaging. J Gastroenterol Hepatol. 2020. doi: 10.1111/jgh.15190. http://dx.doi.org/10.1111/jgh.15190)。

胃がん(早期胃癌)と「内視鏡診断AIシステム」について

 日本における胃癌の対策型検診としては古くから胃X線検診が行われていましたが、2015年に出された「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」では、胃内視鏡検診も「胃がん死亡率減少効果を示す相応の証拠があり、対策型検診及び任意型検診に推奨する」と判断されました。その後、厚生労働省は2016年に「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正し、胃がん検診の検査項目は「胃部X線検査又は胃内視鏡検査とする」と通達したため、今後、胃がんの対策型検診は胃内視鏡検診が主流になると考えられています。
 一方で、胃内視鏡検診に関しては、医師の技量の差があることが問題となっています。慢性胃炎を背景とした胃癌の内視鏡診断は非常に難しく、内視鏡経験年数、内視鏡技術、内視鏡知識の程度により癌の診断率に大きな差が生じます。胃粘膜は他の消化管粘膜と異なり、癌の背景粘膜に多様性があるため癌の発見や診断が他の消化管癌より困難と言われています。背景粘膜はH.pylori感染など刺激により萎縮性変化、腸上皮化生が形成され、粘膜は凹凸を呈し、色調も発赤や褪色などの多彩な所見を取り、その中に埋もれている胃癌も教科書に記載されている典型例ばかりではなく、一つたりとも同じ胃癌はありません。この問題の解決策を見出すのは非常に困難と考えられていましたが、この解決策となりうるのが近年話題となっているAIを用いた内視鏡画像診断支援システムです。株式会社AIメディカルサービスを中心とした研究グループより、AIを活用し胃内視鏡静止画像の中から高精度に胃がんを検出する内視鏡画像診断支援システムの開発と解析結果が報告されています(Hirasawa T et al. Gastric cancer. 2018, Ikenomiya Y et al. Digestive Endoscopy. 2020)。今後、リアルタイム診断支援が可能となれば、医師の技量の差を埋めることになると予想されます。しかし、通常内視鏡では検出または診断が困難な胃癌は少なからず存在することも報告されており、この問題を解決するのは容易ではないと考えられています。

NBI併用胃拡大内視鏡※1画像を用いたAI胃がん内視鏡診断支援システム

 この問題の解決策になりうるのが、「NBI併用拡大内視鏡画像診断支援システム」と考えられます。胃癌の内視鏡診断において通常白色光観察の検出と診断に加えてNBI併用拡大内視鏡観察が胃癌診断の正診率の上乗せ効果があることは以前から報告されており(Ezoe Y et al. Gastrointest Endosc. 2010, Yao K et al. Gastric Cancer. 2014)、AIを用いた胃癌内視鏡画像診断支援システムにおいても通常白色光観察の診断と同様に上乗せ効果があると予想されます。
 そこで、当科と株式会社AIメディカルサービスの共同研究として、「NBI併用胃拡大内視鏡画像を用いたAI胃がん内視鏡診断支援システム」を開発しました。
 このシステムは、約5500枚のNBI併用胃拡大内視鏡画像(胃がんの画像、胃がんではない画像)を用いてDeep learning(深層学習)※2で学習しました。AIシステムの診断精度を検証するために、学習用画像とは別の約2300枚のNBI併用胃拡大内視鏡画像(胃がんの画像、胃がんではない画像)を用いて評価しました。AIシステムはほとんどのがんの拾い上げに成功し(感度98%)、正常な胃をすべて正常と正しく判断していました(特異度100%)。これらの結果から非常に診断精度の高いAIシステムを開発できたことになります。
 近い将来、このAIシステムが実用化されれば、すべての内視鏡検査で経験豊富な専門医と同等の診断サポートが得られ、医師の経験に関わらず高度な診断が提供可能となります。結果、早期胃癌の見落としが減るほか、不要な組織生検が減ることで、検査を受ける患者の負担軽減につながります。現在、実用化に向けて更なる研究を計画しています。

「NBI併用胃拡大内視鏡画像を用いたAI胃がん内視鏡診断支援システム」

※1 NBI併用胃拡大内視鏡
 狭帯域光観察は粘膜表面の細かな構造や微小な血管のコントラストを強調した観察が可能とする技術です。消化管の観察に用いる光の波長を適切に短くする(狭帯域特性に変更する)ことで、がん内部の微小血管と微細構造が強調され、細かい所見を評価することが可能です。
 拡大観察では、スコープの先端に取り付けた2枚のレンズを調整することで、光学的に拡大して対象物を観察することができます。狭帯域光観察と併用することで、より細かな表面構造や血管が評価可能になり、腫瘍と非腫瘍を見分ける精度が向上することが多くの研究で報告されています。

胃がん
斑状発赤(非がん)

※2 Deep learning(深層学習)
 ディープランニング(深層学習)とはAIの学習方法の一つです。この方法により、AIは与えられた画像データから、がんに見られる規則性や判断基準を自ら導き出すことが可能となります。今回のAIシステムはディープランニングの手法の一つであるコンボルーショナルニューラルネットワーク(CNN)を用いて構築されました。ニューラルネットワークとは人間の脳回路をモデルにしたアルゴリズムのことで、CNNは特に画像認識に非常に優れています。

受賞

  • Travel grant UEG Week Barcelona 2019
    Application of artificial intelligence using a convolutional neural network for diagnosis of early gastric cancer by magnifying endoscopy with narrow-band imaging. UEG (United European Gastroenterology) 2019

論文・執筆

  • Ueyama H et al. Application of artificial intelligence using a convolutional neural network for diagnosis of early gastric cancer based on magnifying endoscopy with narrow-band imaging. J Gastroenterol Hepatol. 2020. doi: 10.1111/jgh.15190.
  • 上山浩也,永原章仁.胃がんリスク層別化検診(ABC検診)マニュアル 第5章 胃がん内視鏡検診・診断および人口知能(AI)の活用 14.NBI併用胃拡大内視鏡画像を用いたAI胃がん内視鏡診断支援システム 168-170 南山堂 2019.

講演・学会発表

  • JDDW 2019 KOBE 第27回 日本消化器関連学会週間 統合プログラム5消化管領域のAI内視鏡診断の現状2019年11月
    NBI併用胃拡大内視鏡画像を用いたAI胃がん内視鏡診断支援システムの開発
  • UEGW (United European Gastroenterology Week) 2019 Spain Barcelona Oral presentation 2019年10月
    Application of artificial intelligence using a convolutional neural network for diagnosis of early gastric cancer by magnifying endoscopy with narrow-band imaging (Oral presentation)
  • Takeda-Otsuka Web Seminar 2020年2月
    消化管領域のAI内視鏡診断の現状
  • 江蘇省中医院上部早期癌トレーニングコース・オンライン起動式 オリンパス中国 2020年7月9日
    胃放大内镜诊断的现状