腸内細菌療法の臨床研究について

便移植療法+抗生剤
~新しい腸内細菌療法の確立を目指す~

 本邦において難病指定疾患である潰瘍性大腸炎の患者数は毎年約1万人の増加を認め、2017年の統計では20万人以上の患者さんがいると推定されています。潰瘍性大腸炎やクローン病は「増悪、寛解を繰り返し、治癒がない疾患」であり、新規薬物療法の登場で治療効果は飛躍的に向上したものの、無効例や、薬物起因性の副作用のリスクもあり、副作用の少ない根本的治療が望まれています。
便移植療法は副作用の少ない治療として注目され、クロストリジウム・ディフィシル感染性腸炎では高い奏功率を示し、すでに欧米諸国では通常医療として行われております。しかしながら、潰瘍性大腸炎やクローン病に対する従来の便移植療法の治療効果については未だ不透明であり、投与方法、ドナー便の選択、投与回数などの方法について議論が行われています。
そこで、私たちはより効果的な腸内細菌叢の再構築と便移植療法の効果増強を狙い、便移植前に前処置として抗生剤3種類を投与する「抗生剤併用便移植療法」 (図1)を提唱し、2014年6月から臨床研究を開始しました。

図1:抗生剤併用便移植療法の概念図
図1:抗生剤併用便移植療法の概念図

便移植療法の臨床研究に関する情報公開

 当科において2014年6月から開始いたしました「潰瘍性大腸炎に対しての抗生剤療法と糞便移植療法の臨床研究」についてご報告いたします。
20歳以上の活動性のある潰瘍性大腸炎の患者さんを対象にして、抗生剤療法(AFM療法)単独、便移植療法単独、そしてAFM療法と便移植療法の併用療法を行い、2016年12月の研究機関終了までに計96名の患者さんに参加していただきました。治療効果の判定、腸内細菌叢の分析から、治療の有効性が明らかになってきましたので報告いたします。
本研究により、①抗生剤併用便移植療法による腸内細菌叢の変化が、潰瘍性大腸炎の治療効果と病勢に関連していること、②腸内細菌叢の大きな変化が高い治療効果に関連していることが明らかになりました。本成果は便移植療法などの腸内細菌療法が、潰瘍性大腸炎の有効な治療法になりうる可能性を示したものです。本研究結果は、米国の学会誌「Inflammatory Bowel Disease」(2017年11月)に掲載されました。(詳しくは順天堂大学ホームページ内広報活動、広報誌>プレスリリースからご覧になれます。)

トピックス

 当科の便移植療法の臨床研究が、今年のアメリカ消化器病学会に注目研究として取り上げられ、動画が作成され放送されました(DDW TV 2017)。

国内外の学会で、積極的に発表しております。詳細は診療科業績でご覧になれます。
また、新聞、テレビ、雑誌等で扱われました。記事などはこちらからご覧になれます。

治療を受けた患者さんへ

 現在、治療後の長期経過を追っております。当科で外来継続されている方以外の方については、郵送で症状のアンケート等をお願いしております。順次、電話や郵送でご連絡させていただきますので、お手数ではございますが、今後の潰瘍性大腸炎治療の発展及びより良い医療の提供のためご協力ください。

 2016年12月から「協和発酵キリン㈱ および 協和発酵バイオ㈱」との共同研究が開始されました。それに伴い改めて同意書をいただいておりますが、同意取得の手続きが困難な患者さんや便提供者(ドナー)の方についてはこのホームページで情報を公開しております。
詳細はこちらでご確認ください。

便移植療法の新規臨床研究開始について
~これから治療を希望されている患者さんへ

 2016年12月の当院倫理委員会の承認を得て、2017年4月より、新規の便移植療法の臨床研究に参加する患者さんの募集を開始いたします。
対象として、潰瘍性大腸炎に追加してクローン病の患者さんも可能となります。対象年齢も、下限を6歳までに拡大いたしました。ドナーについては、従来では親族や既知の方を、患者さんご自身に連れてきて頂くようにしておりましたが、新規臨床研究では、ドナー候補のいない方でも、我々からドナー便を提供することができるようになります(便バンク方式)。
詳しくは毎週金曜日午後の石川外来を受診して頂き、お話しさせていただくことになります。臨床研究についての問い合わせが多い状況ですので、外来受診前にfmt@juntendo.ac.jpにメールで問い合わせていただければ、受診の手順や診察可能な日程などを調節することができますので、まずは、主治医の先生とよく相談してからメールでご連絡ください。
尚、患者さんからの直接の電話については、対応が困難になることが予想されますので、緊急の場合を除いてはご遠慮頂ければ幸いです。

~ご紹介いただく主治医の皆様へ~

 当科での便移植の臨床研究が開始され約3年が経過し、症例数も増えてまいりました。現在までに得た治療効果や、腸内細菌叢と治療効果の関連などの知見については、国内外の学会、医学雑誌、論文(Ishikawa et al. Inflammatory Bowel Disease 2017) にてご報告させていただいております。また、海外からの最近の報告(Sudarshan et al. Lancet 2017) でも、UCに対するFMTのRCT(n = 85)でFMTの治療効果が明らかになったことが報告され、更に注目が集まっています。未だ解明できていない領域の治療とは思いますが、便移植については大きな可能性があるものと思っております。また、今まで便移植療法自体に大きな副作用は認めておりませんので、治療選択肢が乏しくなっている、または薬剤アレルギーなどで薬物療法が使用しづらいIBD患者さんにはよい適応と思います。
先生のご同意のもとに、情報提供書持参で消化器内科石川大外来あてにご紹介頂ければ幸いです。外来日程については患者さん御自身で当方にメール連絡して決めて頂ければと存じます。不明な点がございましたら、遠慮なくご連絡ください。

問い合わせ先:責任者 順天堂大学消化器内科准教授 石川大 fmt@juntendo.ac.jp

更なる腸内細菌療法の飛躍を目指して

 便移植療法の開始から約3年半が経過し、抗生剤療法と組み合わせることで、潰瘍性大腸炎の患者さんの腸内細菌叢を効率的に変化させ、その変化が高い治療効果と関わっていることが明らかになってきました。今後、更にこの治療法の効果を高めるべく、ドナー便の選択や、投与回数、評価の方法などを変えて効果的なプロトコールを目指しているところです。まず、ドナーですが、こちらで特定のドナーを選択し、提供する方式(便バンク方式)を2017年6月から採用しております。

共同研究

腸内細菌叢の多角的解析、便移植した腸内細菌の定着メカニズムなど、積極的に他施設との共同研究をすすめています。

  • 2016年12月から「協和発酵キリン㈱ および 協和発酵バイオ㈱」との共同研究が開始されました。
  • 2017年4月からアメリカ、ミシガン大学消化器内科の腸内細菌チームとの共同研究も開始されました。
  • 2017年9月より、当院の小児科とも協力して対象年齢を6歳以上の小児科患者さん(潰瘍性大腸炎・クローン病の患者さん)へ参加範囲を拡大しました。こちらのドナー便に対しても親御さんや御兄弟からではなく、我々から提供するドナー便とさせて頂きます。
    → 詳しい問い合わせは、fmt@juntendo.ac.jpもしくは小児科工藤先生の外来を受診して頂き、本研究に参加できるかどうかをお尋ね頂けますと幸いです。

さいごに

 今まで130名を超える潰瘍性大腸炎の患者さん、約60名のドナーの方に参加していただきました。我々はこの臨床研究を通して、実際に患者さんが改善していることも実感しており、できるだけ早く先進医療として提供できるように、そして近い将来通常治療としてより多くの患者さんに提供できることを目指して、今後も真摯に臨床研究を進めてまいります。その先には多くの潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんのより明るい人生に寄与できればと思っております。

2018年4月1日更新
順天堂消化器内科腸内細菌研究グループ 石川大