漏斗胸に対する手術 (Nuss法)

順天堂大学小児外科・小児泌尿生殖器外科
主任教授 山高 篤行
先任准教授 岡﨑 任晴
岡和田 学

小児外科は、生後間もない新生児から思春期に至るまでの患児の、消化器、呼吸器、泌尿器、生殖器、良性・悪性腫瘍、体表の疾患など、きわめて多岐にわたる疾患を取り扱う分野である。近年、まだまだ治療に難渋する疾患もあるが、鏡視下手術の導入、周術期管理の進歩など、目覚しい変化を遂げている。本シリーズでは小児外科疾患の、特に手術治療のトピックスを紹介する。

図1:漏斗胸患者胸郭外観と術前胸部X線側面像
図1:漏斗胸患者胸郭外観(a)と術前胸部X線側面像(b)

漏斗胸とは胸の真ん中の部分がポコッとへこんだ胸郭変形を呈する疾患である(図1)。頻度は1,000人に1人の割合で小児に発現するといわれ、男女比では男児が75~80%と圧倒的に多い。大多数は散発性に起こるが、時に家族発生もみられる。原因は未だはっきりとはわかっていないが、胸郭の成長に比較して肋軟骨が過成長すること、新生児期や乳幼児期に陥没呼吸が長く続くことが要因といわれている。また、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群、Poland症候群などの先天異常症に合併することがある。
治療としては現在、胸腔鏡補助下に金属製のプレートを胸の陥凹部の側面より挿入し、陥凹部を挙上する術式(Nuss法)が広く導入されている。本稿では、当院で行っているNuss法について述べる。

症状

図2:左右非対称陥凹外観
図2:左右非対称陥凹外観(a)と同患者の術前胸部CT像(b)

陥凹の中心が右側へ偏位している。
同患者の術前胸部CT像

漏斗胸は成長とともに前胸部の陥凹の程度が進行することが多く、症状は幼児から小学校低学年で喘息様発作や風邪を引きやすい等の呼吸器症状を呈する。小学校中学年以上では労作時呼吸困難や胸部圧迫感を認めることがある。
さらに、胸骨の陥凹により、心臓が左方に偏移するため、心電図上、右脚ブロックを呈することが多い。また、時間の経過とともに、陥凹の中心が徐々に右側へ偏り、右側が急峻な陥凹を示し、左側は比較的平坦な非対称の胸壁へと変化を示す(図2)。

手術適応

図3:術前胸部CT
図3:術前胸部CT(a)と術前胸部3D-CT(b)

a:CT-index :A/B≧3.2が手術適応の目安となる。
b:陥凹部を立体的に描出させることができる(矢印)
術前胸部3D-CT

胸郭変形が軽度のものに関してはまったく治療の必要がない場合もある。しかし、一般的に漏斗胸は乳児期に軽度の陥凹を示していたものが、身長が伸びはじめる思春期にかけて急激に陥凹が進行する。したがって、治療を行う適切な時期を判断し、適切な対応が必要となる。もちろん、前記の症状を有していて陥凹の程度が強ければ手術適応と判断する。客観的指標として、胸部CT-index[胸郭の横径(A)/胸骨正中部後面と脊椎前面の距離(B)]が3.2以上の場合、手術適応とされている(図3)。
しかしながら、症状を認めるのは漏斗胸の30%程度にすぎない。手術を望む一番の要因は、患児および家族が外見上の問題をきわめて強い精神的ストレスと感じる点である。このため、無症状であっても患児および家族の希望により手術を行う場合が多い。

手術手技

手術に先立ち、術中・術後の疼痛管理のために硬膜外麻酔を施行する。硬膜外麻酔終了後、体位は仰臥位、両腕を開いた状態とし、最陥凹点を確認してプレートの長さと通過させる位置を決定する。プレートの位置は第5肋間もしくはその上下1肋間であることが多い。
プレートの通過する位置が、胸骨尾側端よりあまり頭側すぎると効果的に胸骨の挙上ができず、また逆に尾側にずれて胸骨をはずれてしまっても胸骨が挙上できなくなる。年長者では陥凹の状態によってプレートを2本挿入することも考慮する。
次に、選択したプレートを矯正後の胸郭の形に合わせて弯曲させる。この際注意しなければならないことは、プレートを回転した後、胸骨は元の陥凹状態へ戻ろうとするため、この力によってプレートが圧迫され変形することがある。この点を考慮に入れ、プレートの弯曲はあらかじめやや強めにしておくことが必要である。
以下、順を追って手術手技について記す(図4・5)。

図4:Nuss法の実際
図4:Nuss法の実際
  1. 皮膚切開は、左右側胸部に約2cm、皮膚割線に沿って行う。右側胸部の皮膚切開線より1または2肋間尾側より5mmトロッカーを挿入し、胸腔鏡を用いて胸腔内を観察しながら手術を進行していく。気胸圧は基本的には5mmHgとし、特に片肺挿管は行っていない。
  2. あらかじめプレートが通過する胸骨右縁近くの肋骨に、固定用の糸をループ上にかけておき、右側からイントロデューサー(プレートを挿入する経路を作るための鉗子)を挿入する。
  3. イントロデューサーを、ループ状にかけた糸の内側を通し、前胸壁に沿わせながら、内胸動脈・心損傷に注意しつつ、対側まで挿入する。左側の胸壁を貫通させ、イントロデューサーにテープを通して引き抜く。
  4. テープにプレートを固定して、プレートを予定位置まで導入する。次に、プレート回転器を取り付け、プレートを回転させることで胸骨を挙上する。その際、胸腔鏡により出血がないこと、臓器・組織をプレートに巻き込んでいないことを十分に確認し、さらに胸腔外のプレート長、形状を確認した後、プレートを縫合糸で左右の胸郭に固定する。
  5. 前記2.のプレートを通した固定用の糸も固定し、計3点でプレートを固定する。
  6. その後、スタビライザー(補強用胸骨プレート)によりプレート固定の補強を行う。陥凹が重度、または左右非対称度が強い症例に対して、われわれは両側にスタビライザーを用いている。
  7. 閉創に際しては、創部感染を予防するべく洗浄を十分に行う。
  8. 手術終了後、必ず手術室において胸部X線撮影を施行する。脱気が十分になされ気胸が残存しないこと。プレート挿入位置の確認、出血の有無などを行う。
図5:Nuss法術後創部
図5:Nuss法術後創部

わずか2~3cmの創が左右側胸部に残るのみ(矢印)である。

合併症

一般的にNuss法の合併症には、術中合併症として血胸、気胸、心損傷など、術後合併症として無気肺、創部感染、胸水、血胸、膿胸などがある。心損傷など致命的な合併症となりうるものもあり、本法を施行するに当たっては術式と解剖に習熟することが大切である。