当センターでの手術治療について説明致します。
当センターは全年代の全ての脊椎脊髄疾患に対して専門性の高い治療をおこなっています。
一般的な手術術式から患者さんへの手術負担を軽減するべく、手術内容の低侵襲化(顕微鏡・内視鏡・経皮的手術・ナビゲーション手術等)を進めています。
以下に当センターでおこなっている代表的な手術術式を説明致します。患者さんの症状・病態・生活状況などを考慮し、その患者さんに適した最善の術式選択をおこなってまいります。

頚椎手術

頚椎椎弓形成術・固定術

頚椎後方から進入し、椎弓に骨溝を作成し骨を開くことで脊髄の圧迫を取り除きます。当センターでは椎弓の片側から骨を開く片開き式を主に用いていますが、椎弓の正中で開く縦割式を用いる場合もあります。頚椎の不安定性は神経症状を助長するため、頚椎に不安定性を認める場合には頚椎固定術がおこなわれます。頚椎にスクリューを挿入し、それぞれロッドと呼ばれる金属で架橋することで安定性を高めることができます。
手術治療01

頚椎前方除圧固定術(ACDF)

頚椎後縦靭帯骨化症や頚椎椎間板ヘルニアなどの神経を前方から圧迫する疾患に有効な手術です。喉仏から横に5cm程度切開し、神経・血管・食道・気管などに注意しながら、頚椎に到達します。その後、椎間板ヘルニアや変性した骨や靭帯など、神経を圧迫している部分を直接取り除き、取り除いた部分に自分の骨やケージなどを設置し固定します。頚椎後方手術と比べると頚椎を支える後方の筋肉を痛めないことが大きなメリットです。
手術治療02
術後レントゲン

頚椎人工椎間板置換術(TDR)

上記の頚椎前方除圧固定術で、手術部位の脊椎の動きを制限した後に、上下の頚椎に障害が出現しやすくなるという問題を解決するために考案された新たな術式です。ケージの代わりに可動性を持つ人工椎間板を設置する方法です。圧迫病変を取り除いた後、固定せずに椎間の可動性を保つことで、上下の頚椎の負担を減らせる利点があります。しかし、頚椎が不安定な方には使用できないなどの制限があります。認定を受けた限られた医師だけが施行できる手術です。
手術治療03術後レントゲン

腰椎手術

顕微鏡下椎弓切除術

椎弓切除術は、背骨の一部を切除することで狭くなった神経の通り道を広げ、神経の圧迫を解除する手術で主に脊柱管狭窄症に対しておこなわれます。神経の通り道を広げ圧迫を解除することで、術前の下肢や臀部の痛み・痺れ、また運動機能の改善が期待できます。当センターでは顕微鏡を用いて、背骨周辺組織を片側のみ展開する片側進入両側除圧をおこなうことで、腰椎の正常形態をなるべく温存しています。これは、術後の痛みの軽減や術後変形の予防に寄与しています。
手術治療04術前MRI画像
手術治療05術後MRI画像

側方経路腰椎椎体間固定術(XLIF・OLIF)

低侵襲手術の一つである側方経路腰椎椎体間固定術(Lateral Lumbar Interbody Fusion: LIF), XLIF:(Extreme Lateral Interbody Fusion)/ OLIF(Oblique Lateral Interbody Fusion)をおこなっています。従来、腰椎後方から腰部の筋肉を切り骨を切除してから固定をする手法をおこなってきましたが、LIFでは腰椎側方から潰れた椎体間を広げて固定します。これにより腰椎後方を通る狭くなった脊柱管を間接的に広げ、腰部の筋肉や骨を切除せず温存して固定ができます。これにより従来よりも出血量や術後疼痛の軽減が期待できます。当センターでは腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、成人脊椎変形にLIFをおこなっております。
手術治療06術後レントゲン

後方腰椎椎体間固定術(TLIF・PLIF)

主に腰椎すべり症や不安定性を伴う腰部脊柱管狭窄症に対して、腰椎後方から神経の圧迫を解除し、さらに椎体間を安定化させる手術です。椎体間の異常可動性は神経症状を増悪させるため、固定術による椎体間の安定化は神経症状の改善に寄与します。腰痛後方から、椎間板を掻爬した場所にケージと自家骨を設置し、その後スクリューやロッドで椎体間を固定します。両側の関節を切除しケージを設置する方法(PLIF)と片側の関節を切除しケージを設置する方法(TLIF)があります。
手術治療07術後レントゲン

完全内視鏡下腰椎椎間板摘出術(FED)

径8ミリの内視鏡を用いて、最小侵襲で腰椎椎間板ヘルニアを摘出する手術です。皮膚の切開は約1cm程度で、従来の手術の様に骨から筋肉を剥離する必要が無く、身体への負担が非常に小さい事が特徴です。腰椎椎間板ヘルニアの他、頚椎症性神経根症、および腰部脊柱管狭窄症にもおこなっています。

手術治療08

顕微鏡下髄核摘出術

顕微鏡を用いて多くは2-3cm程度の皮膚切開でおこなう低侵襲手術です。顕微鏡下に拡大された鮮明な視野で安全に神経を圧迫しているヘルニア(髄核や繊維輪)を摘出します。傷が小さいため出血や創部の痛みが少なく、筋肉への侵襲も小さいため術翌日から歩行可能です。
手術治療09顕微鏡

椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア注入)

ヘルニコア(コンドリアーゼ)は、椎間板内に直接注入することにより、椎間板髄核の一部の成分を特異的に分解し椎間板の保水能を低下させます。すると椎間板内圧が低下しヘルニアによる神経根圧迫が軽減され、臨床症状(下肢痛・腰痛など)が改善すると考えられています。穿刺部位に局所麻酔をおこない、透視下で椎間板を穿刺した後に椎間板に薬剤を注入します。安全性を確認するために1泊2日入院での治療をおこなっています。
手術治療10

その他手術

経皮的椎体形成術(BKP)

骨粗鬆症や癌の脊椎転移による脊椎の骨折は、特に体動時痛の原因となり、生活に支障をきたすことがあります。内服やコルセットによる治療で症状が改善されない場合や予後不良が予測される骨折では、手術がおこなわれることがあります。本手術は、非常に低侵襲(5mm程度の切開、手術時間30分程度、出血少量)で、早期離床、早期除痛が可能です。潰れた椎体内でバルーンを拡張し椎体を整復し、椎体の中に空洞を作り医療用の骨セメントを充填し椎体を安定化させます。

手術治療11

前方進入椎体置換術

脊椎は身体を支える柱としての機能や神経を守るという役割がありますが、骨折の状態によってはその機能が失われてしまい脊柱変形や疼痛、神経障害を起こすことがあります。前方進入椎体置換術とは潰れた椎体そのものを専用のインプラントの支柱に入れ替える手術であり、強い変形矯正力と支持力があります。

手術治療12

腫瘍摘出術

腫瘍は脊髄の内部に発生する場合と、外部に発生する場合があります。腫瘍の傍にある神経を腫瘍から剥がし、神経を温存しながら腫瘍を摘出します。脊髄の内部に発生した腫瘍を切除するには、脊髄を切開する必要があります。脊髄の中でも重篤な障害が発生しない部位を正確に同定し、脊髄を切開して内部にある腫瘍を摘出します。これらの手術は顕微鏡を使用し精細かつ慎重に手術をおこなっております。

最小侵襲脊椎安定術(MISt)

広範囲の脊椎固定術は、以前は侵襲が大きく、特に全身状態の悪い方には困難な手術でした。最小侵襲脊椎安定術(Minimally Invasive spine Stabilization: MISt)では通常おこなう脊椎からの筋肉の剥離をおこなわず、背筋の間からインプラントを挿入するため、出血量や手術時間が低減し脊椎手術がより安全に可能となりました。破裂骨折、化膿性脊椎炎、癌の脊椎転移など多くの脊椎手術にこの技術が使用され、術後疼痛の軽減や入院日数の短縮につながっています。
手術治療13術後レントゲン

脊柱後側弯症矯正固定術

背骨の骨折や潰れた椎間板などが原因で曲がってしまった背骨を、再び生理的な形態の背骨に矯正する手術です。脊柱の骨を削り、潰れた椎間板を掻爬しケージを設置し、後方から挿入したスクリューを使用して矯正をかけます。矯正角度が大きい場合には椎体を大きく楔状に切除する骨切りと呼ばれる方法で矯正することもあります。比較的侵襲の大きな手術になるため、高齢の方では2週に分けて手術をおこなうこともあります。
手術治療14術前レントゲン
手術治療15術後レントゲン

小児側弯症矯正固定術