• 腹膜透析(PD:Peritoneal Dialysis)は、透析療法の1つです。
  • 1920年代に血液を浄化する方法として発見され、急性腎不全の治療法として臨床導入された後、1976年モンクリフ(Moncrief)とポポビッチ(Popovich)の両氏によって現在の慢性腎不全に対する治療法が確立しました。
  • 自宅や会社で透析ができ、社会復帰が比較的容易です。
  • 維持透析患者さんの3%前後の人が腹膜透析を行っています。

腹膜透析の原理

腹膜透析の原理図1(腎不全 治療選択と その実際2022年度版より引用)
血液浄化の半透膜として、自分の体中にある腹膜を使用します。腹膜は腸を始めとするお腹の中(腹腔)の臓器を覆っている薄い膜です。その面積はほぼ体表面積と同じであり、この腹膜には毛細血管が網の目のように走っています。図1のように、お腹に専用の管(カテーテル)を手術によって入れ、このカテーテルを用いて治療液(透析液)を腹腔内に入れます。透析液を4~8時間いれておくと、腹膜内の血管を介して血液中の老廃物や余分な水分、ミネラルが透析液へ移動します。腹腔内に貯留した透析液を、定期的に新しい液と交換することで尿毒症状態を改善します。

腹膜透析を始めるには

腹膜透析を始めるには、透析液を出し入れする専用のカテーテルをお腹に埋め込む手術が必要です。図1のようにカテーテルのほとんどはお腹の中で、体の外に出ているカテーテル部分はわずかですが、一度埋め込まれたカテーテルは半永久的に使用しますので、患者さん自身でカテーテルが皮膚から出てくる出口部の消毒を毎日行なって清潔を保ち感染症を防ぐ必要があります。

カテーテルを使用して透析液を腹腔から出し、新しい透析液を入れることを「バッグ交換」といいます。カテーテルは体内に直接繋がっていますので、バッグ交換時に不潔操作を行なうと腹膜炎を起こします。確実なバッグ交換手技の習得と十分な交換時の注意が必要です。

腹膜透析患者さんの1日

腹膜透析には、患者さん自身が自分で透析液を交換するCAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:連続携行式腹膜透析)と専用装置が自動的に透析液を交換するAPD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)があります。
CAPDの場合(図3):4~8時間ごとに1日4回程度のバッグ交換を行い、24時間連続して治療を行ないます。透析液をためる時間や回数は、病状に応じて前後します。
腹膜透析患者さんの1日_01図3(腎代替療法選択ガイド2020より引用)
APDの場合(図4):夜間眠っている間に、専用の装置が自動的にバッグ交換を行ないます。残っている腎臓の機能や患者さんの体調等を考慮したうえで、日中のバッグ交換を追加する必要もあります。
腹膜透析患者さんの1日_02図4(腎代替療法選択ガイド2020より引用)

腹膜透析の利点

  • 連続した透析のため、体液や血圧の変動が少なく心臓をはじめとするからだへの負担が、血液透析に比較して軽いと考えられています。
  • 透析液にカリウムが含まれていないため、食事制限の上で野菜や果物、生ものの制限が比較的に緩和されています。
  • 透析のために特別な設備が不要であり、自宅や会社、学校といった医療施設以外で治療を行なう在宅医療になります。このため、自由度の高い生活が可能で、社会復帰が容易です。
  • 血液透析に比べ、透析を始めた後でも残っている腎臓の機能が長く保たれます。

腹膜透析の欠点

  • 腹膜透析を行なうためのカテーテルは腹腔と直接つながっています。バッグ交換の際に不潔な操作を行なったり、カテーテルの出口部の手入れを怠ったりすると、腹膜炎やカテーテル周囲の感染症を起こします。
  • カテーテルがお腹から挿入されているため、入浴やシャワー、水泳の際には挿入部分が濡れないようにカバーする必要があります。
  • 1回のバック交換で腹腔に1500~2000mlの透析液を注入します。このため、お腹の膨らんだ感じや腰痛、時にお腹が膨れたことによって食事量が一時的にへることがあります。
  • 透析膜として使用している腹膜は、5~7年経過すると透析膜としての機能が著しく低下します。また、長期間腹膜透析を行なった患者さんで中止後に被嚢性腹膜硬化症(腹膜が厚く固くなり、腸の動きが妨げられることにより生命にかかわることがあります)という合併症を発症する(1%)ことがあります。このため、5~7年以上にわたる治療の継続は困難です。

腹膜透析と血液透析の比較


項目 腹膜透析 血液透析
透析方法 透析場所 自宅・会社・学校等 医療機関
透析時間 24時間連続 1回あたり4~5時間
透析の拘束時間 1回30分、1日4~5回 1回あたり4~5時間 +通院時間、週3回
透析治療の実施者 患者さん自身・ご家族 医療スタッフ
通院回数 月1~2回 月13回程度
手術 カテーテル挿入術 血管吻合手術 (シャント作成)
抗凝固剤 不要 必要
症状 透析時の問題点 お腹のはり 穿刺痛、不均衡症候群(頭痛、吐気)、血圧の低下等
日常生活 社会復帰 有利 可能 (但し、拘束あり)
感染への注意 必要 必要
入浴 カテーテルの保護必要 透析日には穿刺部分を注意
食事 塩分制限、リン制限が必要 水分摂取量は、尿量に依存 カリウム制限は必要ないことがほとんど 塩分、水分、 カリウム、リン制限が必要
スポーツ 可能 (但し、水泳・腹圧のかかる 可能 (但し、シャントへの注意必要)
旅行 透析液・器材の携行 あるいは配送が必要 長期の場合は予め 透析施設への予約が必須
自己負担 入浴時の 保護物品等の購入 通院費用

腹膜透析の導入が決まったら

腹膜透析の導入には、①カテーテル挿入~腹膜透析開始を一度の入院で行う方法と、②カテーテル留置と腹膜透析開始を別々の入院で行う方法(SMAP法といいます)とがあります。
 
①の場合、入院期間は約3週間になります。
 
  1. カテーテル挿入手術のために、入院します。
  2. 手術前から、バッグ交換の講習を受けます。
  3. (カテーテル挿入術)
  4. 手術後もバッグ交換の練習をします。
  5. (腹膜透析を開始)
  6. カテーテル出口部のケアと入浴(シャワー浴)のカバー装着が自分でできるように練習します。
  7. 自宅への透析液配送の手続きをします。
  8. 退院後の自己管理のための講習を受けます。
  9. 退院後の初回外来を確認し、退院となります。
 
②(SMAP法)の場合は、
入院①

 
  1. カテーテル挿入手術のために、入院します。
  2. 手術前から、バッグ交換の講習を受けます。
  3. (カテーテル挿入術・カテーテルは皮膚の外に出さず、皮膚の下に埋め込んでおきます)
  4. 手術後もバッグ交換の練習をします。
  5. 術後約1週間で退院になります。
 
その後は再び外来通院に戻り、透析が必要になるタイミングで再度入院します。
 
入院②
 
  1. 入院後、皮膚の下に埋め込んだカテーテルを取り出します。
  2. (腹膜透析を開始)
  3. バッグ交換の練習をします。
  4. カテーテル出口部のケアと入浴(シャワー浴)のカバー装着が自分でできるように練習します。
  5. 自宅への透析液配送の手続きをします。
  6. 退院後の自己管理のための講習を受けます。
  7. 退院後の初回外来を確認し、約2週間で退院となります。

食事療法

腹膜透析患者 1日当たりの摂取量
エネルギー 標準体重1kgあたり29~34 kcal (透析液から吸収されるブドウ糖のエネルギー量を含む)
たんぱく質 標準体重1kgあたり1.1~1.3g
塩分 腹膜透析での除水量(L)×7.5+尿量(L)×5(g)
カリウム 2.0~2.5 g
リン 700 mg
カルシウム 600 mg
食事外の水分 腹膜透析による除水量+尿量