糖尿病性腎臓病(DKD)外来を開設しました

総論

  • 糖尿病性腎症は、糖尿病の細小血管合併症(腎症、網膜症、末梢神経障害)の1つであり、糖尿病の罹患後10~15年以上経過してから発症することが多いとされています。
  • 1998年以降、糖尿病性腎症は慢性糸球体腎炎にかわり血液透析導入の原因疾患の1位となり、増加の一途を辿っていましたが、近年ではその傾向は段々鈍ってきています。
  • 治療の中心は、食事療法、血糖・血圧・脂質コントロールです。
  • 糖尿病性腎臓病は、たんぱく尿が出現したのちに腎機能が低下する古典的な糖尿病性腎症に加え、たんぱく尿は少量で腎機能のみが低下する非典型的な糖尿病性腎症を含む概念です。高齢化に伴い増加してきています。

透析導入患者 原疾患割合の推移

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dn_zin-01_02(日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018, p.104)

糖尿病性腎症の病態と成因

病態

糖尿病性腎症は持続する高血糖により発症し、腎障害の進行とともに腎不全に至る病気です。

成因

糖尿病性腎症の成因としては、下記の図のように考えられています。

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糖尿病性腎症の症状

初期には無症状である場合がほとんどです。
進行すると尿中にたんぱく質が大量に漏出し、浮腫(むくみ)が出現します。腎不全になると慢性腎炎や高血圧などが原因の腎不全と同じように尿毒症症状(息切れ、貧血、食欲不振、全身倦怠感など)が出現します。

尿検査所見

尿検査:尿中アルブミン↑、たんぱく尿↑、赤血球尿(+)など
 
糖尿病の患者さんにおいて、たんぱく質の主成分であるアルブミンが尿中に30mg/gCr以上検出(微量アルブミン尿)されると、早期の糖尿病性腎症と診断されます。その後、たんぱく尿は徐々に増加して、多くは大量のたんぱく尿が尿中に漏れてくるようになります。ただし、網膜症や神経症など腎臓以外の合併症が見当たらない場合や高度な血尿を伴う場合は、他の病気が原因によることを考慮して、腎生検を行い確定診断を行う場合もあります。

血液検査

糖尿病検査: 血糖↑、ヘモグロビンA1c(HbA1c) ↑
腎機能検査: 血清クレアチニン↑、推算糸球体濾過量(eGFR)↓(初期は↑することもあり)、尿酸↑
電解質検査: カリウム↑、リン↑、カルシウム↓
貧血検査: 赤血球↓、ヘモグロビン↓

糖尿病性腎症の経過・予後

アルブミン尿(たんぱく尿)が多いほど、腎機能低下をきたす可能性は高くなります。また、腎機能低下は心筋梗塞などの心臓血管合併症を合併しやすい(心腎連関)とされ、生命予後に悪い影響を与えます。

糖尿病性腎症の治療

主な治療法は血糖・血圧・脂質コントロールで、食事療法が基本です。厚生省糖尿病調査研究班により作成された糖尿病性腎症病期分類(表1)に基づき、治療を行います。下図に示すような検査値や生活習慣を改善できるように、治療、指導します。

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(注意)患者さんの病態により、治療目標値は異なる場合がありますので、必ず主治医とご相談ください。
 
血糖コントロール
目標:空腹時血糖130 mg/dL以下、食後2時間後血糖180 mg/dL以下、HbA1c 7.0 % (NGSP) 未満
経口血糖降下薬[ビグアナイド薬(糸球体濾過量 45ml/分以下では注意が必要)、DPP-IV阻害薬、グリニド系薬剤、αグルコシダーゼ阻害薬、SU剤、SGLUT2阻害薬]あるいは注射薬(インスリン、GLP1受容体作動薬)でコントロールします。糖尿病性腎症が進行し腎機能が低下すると、多くの経口薬は副作用の面から、使用困難になる場合もあるため、インスリン療法への切り替えや併用が必要となる場合があります。

血圧コントロール
目標:130/80 mmHg未満
塩分制限(6g/日未満)を行います。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII(AT1)受容体阻害薬(ARB)が第1選択薬となります。目標値に達しない場合には、Ca拮抗薬、利尿薬、α遮断薬、β遮断薬も併用します。
 
食事療法
低たんぱく食を基本とし、各ステージに応じて適宜調整変更する

食事療法の基本は、他の慢性糸球体腎炎の場合と同様にたんぱく制限食になります。日本腎臓学会から刊行された糖尿病性腎症の食事療法ガイドライン(表2)によると、早期の腎臓病(病期分類の第2期まで)はたんぱく制限よりエネルギー制限を基本とし、より進行した腎臓病(第3期以降)はたんぱく制限を中心に行います。年齢や体格によっても食事療法は異なりますので、主治医とよく相談することが重要です。
 
多角的強化療法
悪玉コレステロール・尿酸値のコントロール、禁煙、適度な運動

脂質異常も腎障害を進展させますので、脂質制限食やHMG-CoA還元酵素阻害薬を中心とした脂質コントロールを行います。その他、禁煙や適度な運動などの多角的療法が腎障害抑制に有用であるとの報告があります。

表1 糖尿病性腎症病期分類

病期 尿アルブミン値(mg/gCr)あるいは尿蛋白値(g/gCr) GFR(eGFR)
 (ml/分/1.73m2)
第1期(腎症前期) 正常アルブミン尿(30未満) 30以上
第2期(早期腎症期) 微量アルブミン尿(30~299) 30以上
第3期(顕性腎症期) 顕性アルブミン尿(300以上)
あるいは持続性蛋白尿(0.5以上)
30以上
第4期(腎不全期) 問わない 30未満
第5期(透析療法期) 透析療法中

表2 糖尿病性腎症の食事基準

総エネルギー
 (kcal/kg*/day)
蛋白質
 (g/kg*/day)
食塩
 (g/day)
カリウム
 (g/day)
備考
第1期
 (腎症前期)
25~30
制限せず** 制限せず 糖尿病食を基本とし、血糖コントロールに努める。蛋白質の過剰摂取は好ましくない
第2期
 (早期腎症期)
25~30 1.0~1.2 制限せず** 制限せず
第3期
 (顕性腎症期)
25~35 0.8~1.0 7~8 制限せず 浮腫の程度、心不全の有無により水分を制限する
第4期
 (腎不全期)
30~35 0.6~0.8 7~8 1.5
第5期
 (透析療法期)
透析患者の食事療法に準ずる
*標準体重、**高血圧合併例では6g/dayに制限する