急性腎障害とは

急性腎障害とは腎機能の急激な低下の結果、体液貯留(溢水)、電解質バランスの異常(高カリウム血症など)、毒素の蓄積(高窒素血症)などが出現する症候群とされ、時として生命に関わり迅速な対応を要する場合があります。急性腎障害の発症は生命予後に直接関ることが報告されている他、一部の患者さんは慢性腎臓病(CKD)に移行し、やがて末期腎不全に至り腎代替療法(透析療法または腎移植)が必要となる場合があります。そのため、急性腎障害を発症した患者さんは急性期のみならず、長期的なフォローが必要となる場合も少なくありません。以前は急性腎不全とよばれていましたが、早期発見と国際的な統一基準の観点から、近年は急性腎障害と呼ばれるようになりました。

急性腎障害の症状

急性腎障害の症状は、急性腎障害を来す原因による症状に加え、尿量低下や浮腫、嘔気や食欲低下、全身倦怠感などを伴うことがありますが、原因によっては尿量低下を含めそれらの症状を呈さない場合もあります。そのため、別の病態の検査の際に診断されるケースも少なくありません。

急性腎障害の原因

急性腎障害の原因は多岐にわたり、病態により腎前性、腎性、腎後性の3つに分類されます (表1参照)。急性腎障害は原因により治療方針が異なるため、その鑑別は重要となります。病歴、身体所見、血液・尿検査所見、画像検査(超音波検査やCTなど)、場合によっては腎生検などにより鑑別を進めます。急性腎障害の原因は、外来患者さんでは約70%が脱水や低血圧を原因とした腎前性、入院患者さんでは55~60%が薬剤や何らかの炎症で腎臓そのものにダメージをきたす腎性という報告があります。

表1.急性腎不全の分類と原因(一部)

腎前性 体液量の減少(下痢、出血)、敗血症、心不全、心筋梗塞、不整脈、ネフローゼ症候群、
肝腎症候群、薬剤(非ステロイド性抗炎症薬、レニンアンギオテンシン系阻害薬)
腎性 血管障害 (播種性血管内凝固症候群、悪性高血圧、溶血性尿毒症症候群)
急性糸球体腎炎、急速進行性糸球体腎炎、急性間質性腎炎(薬剤、特発性間質性腎炎)、
急性尿細管壊死、尿細管閉塞(多発性骨髄腫、腫瘍崩壊症候群)
腎後性 膀胱、尿管の閉塞(前立腺肥大、前立腺癌、膀胱腫瘍)、
両側尿管の閉塞(悪性腫瘍の骨盤内浸潤など)

急性腎障害の治療

急性腎障害の治療においては、まずはその重症度および合併症の程度を判断し、緊急対応が必要か否か見極めます。急性腎障害により高カリウム血症、代謝性アシドーシス、高度の溢水などを認めた場合、原因に関わらず直ちに薬物療法などの治療を検討し、場合によっては透析療法が必要となる場合があります。同時に、病歴、身体所見および検査所見から急性腎障害の原因を鑑別し、直ちに治療を開始します。

例えば、脱水や低血圧が原因である腎前性の急性腎障害を呈している場合、その原因に対する治療と並行し、輸液や必要に応じ血圧を上げる薬剤(昇圧剤)を用い治療を行うことがあります。また、血管炎により腎臓そのものに炎症をきたす腎性の急性腎障害を呈している場合(急速進行性糸球体腎炎)、ステロイド薬などの免疫抑制療法や、血管炎の原因となる抗体などの除去を目的とした血漿交換療法などが検討されます。急性腎障害が回復するまでの期間は、腎機能の妨げになる薬剤などを避けて適切な輸液、栄養管理を行い、腎臓に悪影響を及ぼさないよう管理することが重要となります。また、尿路閉塞に伴う腎後性の急性腎障害を呈している場合、泌尿器科へコンサルトして加療することになります。

急性腎障害の予後

急性腎障害の発症は生命予後に影響することが報告されており、適切なマネージメントにより、生存した患者さんの約30%は腎機能が完全に回復しますが、約60%の患者さんは不完全な回復にとどまり慢性腎臓病(CKD)に移行し、残りの10%の患者さんは腎機能が廃絶し腎代替療法(透析療法、腎移植)が必要になるという報告があります。腎機能が改善するかどうかは患者さんの年齢、既往歴、急性腎障害の原因などが影響します。特に高齢の患者さんでは非可逆的な腎機能の経過を辿る可能性があり、迅速かつ適切なマネージメントが重要となりその後のフォローが必要となる場合があります。

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