2019年5月 当科よりM6 有賀さんの海外ポリクリのサポートをしました。

医療機関の方へ

John’s Hopkins University – Thoracic Surgeryでの海外実習
順天堂大学医学部医学科6年 
有賀 希(Nozomi Ariga)

お世話になった病院のスタッフと筆者

5年生の9月ごろ、以前から留学を希望していた私は、文科省主催の「トビタテ!」に応募し奨学金をいただいけることになった。 いくつかの候補の中からアメリカ合衆国メリーランド州BaltimoreのJohn’s Hopkins Universityでの実習プログラムに決め、国内でのポリクリの日程と調整をして、約4週間滞在した。


実習内容

Thoracic Surgeryの中の1つのグループに所属した。内容としては手術見学、回診、チームカンファレンス、講演会、研究発表会などへの参加などである。

手術見学

手術室の内部

Thoracic Surgeryを自由に見学するスタイルであった。最初は遠くからの見学のみだったが、病院の講義と試験であるScrub testをパスしたのちには術野に入れてもらえ、間近で見学できるようになった。
小柄な東洋人に比べてアメリカ人の術者は体格がよい。そして同じように患者の体もとても大きい。術野が深いため、手術器具も日本では注文しなければならない長いものが普通に揃っていた。
グローブも私が使うと、一番小さいものでもぶかぶか。
要するに何もかもが大きいのだ。

日本ではまず見られない外傷の手術の一つとして「GSWs」がある。gunshot woundsの略称、いわゆる「銃創」である。傷が複数形であることにアメリカが銃社会であることを嫌でも再認識させられる。


院内の移植掲示板

また、私にとって一番印象的だったのは、肺移植手術である。私はそれまで片肺の、しかも一側面しか見たことがなかったので、体の中で動く両肺の全体像に圧倒された。アメリカでは臓器提供に抵抗がないことや、さらには上記のようにgunshotが多いため、肺移植の件数がかなり多いように思われる。私も実際に肺の摘出側チームの一員として、donor のいるワシントンDCの病院まで赴き、その一部始終を見学した。

回診

私が参加したグループである外科系はとにかく集合時間が早い。チームのメンバーは早朝5時40分から6時までに集合して、回診を始める。寝ている患者も起こして、調子や質問などを聞く。大体の場合は泊まり込みの家族が同席しており、家族からの疑問や要望もその時に一緒に聞いていく。

薄暗い早朝の院内から市内を望む

院内の病室はすべて個室(順天堂本院の個室と同程度の広さ)で、各部屋には患者のベッド、トイレ以外に簡易ベッドになるソファが設置されており、患者家族はここに宿泊することができる。
また院内にはfamily spaceがあり、テーブルや椅子、飲み物などが置いてあり、病室以外でも家族が休めるようになっていた。

回診終了後はチームカンファレンスが行われ、今日これから一日の各患者の情報が共有される。
院内の連絡手段はPHSなどの専用媒体ではなく、基本は個人の携帯電話。ポケベルのようなものを使用する場合もあったが、限定的である。そして、テキストメッセージよりも通話。直接の通話を重要視しているようだ。実際、チームステーションでは常に誰かが通話していた。

院内の入退出は、いたるところに設置されているスライド式カード読み取り機に、名前、所属部署、写真の入ったIDカードをスライドさせて行う。ところが、これが結構な頻度で壊れている。いざ入ったものの出られない、なんてことも日常茶飯事らしくて、誰もが大して驚きもせずに慣れたものである。

病室 すべて個室

とはいうものの、病院内の環境は総じて快適である。
日本の緻密で丁寧な仕事ぶりに慣れていた身としては大雑把に感じることも多かったが、一方でカルテ記載などの情報共有がきっちりとなされていることから、doctorの仕事を他の職種が分担することができること、また病院内の環境が患者やその家族に対してもきちんと整えられていることなど、非常に学ぶべきことも多かった。

オペ室の脇に置かれたキャンディ 気軽に手に取れる

早朝の回診が終了すると、朝食とともに講演会などが催されることがある。会場前には各種ベーグルや菓子パン、フルーツカクテル、ヨーグルト、そしてコーヒーなどの飲み物などがふんだんに用意されている。
それにしてもみんな朝からよく食べる。たくさんの量を抱えて朝食を摂りながら視聴する。内容は、時には著名な先生がいらっしゃることもあるが、歴史的な内容が多く、医療に深く踏み込んだものは少ないようだった。

感想

アメリカは挨拶に始まり、すべてが言葉のコミュニケーションが主体だと思った。聞き直しても根気よく何度も言い直したり言い換えたりしてくれた。また、反対にこちらが伝えたい意思を示すととても真剣に聞いて理解しようとしてくれる。皆親切であった。

そしてこれは病院内に限ったことではない。危ないといわれるBaltimoreの市内であっても、通りすがりの人がバスの運賃の両替に応じてくれたり、立ち止まっていると道を教えてくれたりした。他人の様子に敏感で、コミュニケーションを図って物事を解決しようとする姿勢が見て取れた。

4週間の滞在は、大学が紹介してくれた「929アパートメント」を利用した。短期契約は選択が限られるが、自分で調べて交渉すれば思いがけない掘り出し物に出会えたりする。実際私も、当初大学に紹介されたのとは別の部屋を自分で見つけてそこに決めた。

Baltimoreは道路の反対側が危険地帯だったりするし、実際どのあたりが危険地帯なのか地元の人にしかわからない。その点ここは安心であった。
ここのアパートは警備が常駐で部屋も広く、必要なもの(キッチン、巨大な冷蔵冷凍庫、バス、ドラム洗濯機・乾燥機)はすべて揃っていた。毎週1回クリーニングが入り、バスタオルの交換やごみ捨てをしてくれる。そしてなんといっても病院の目の前。John’s Hopkinsの寮もあるのだが、他学部の敷地にあるため、病院まではバス通学になってしまう。
今回の私のように、外科系はもとより、内科系であっても集合時間は7時ごろ。まだ暗いうちに外に出ることになるので、近いのはありがたかった。


名物のブルークラブ 非常にスパイシー

ところで、余談ではあるがアメリカはcredit card社会。学生だと限度額も少額だし、また盗難の危険性も排除できない。おすすめはチャージ式のものである。これを一枚用意しておくと、ネットバンキングや日本からもチャージできるので限度額越えの心配がない。

渡米の準備や事務手続きは、病院とメールのやり取りで行った。時差が日本時間-13時間であり、すぐ返信されない場合も多く、基本的には1件のやり取りに3~5日、土日を挟むと1週間かかることもあった。さらには複数の質問をしても1つしか回答が戻ってこなかったりしたので、質問に番号を付けけるなど、書き方に工夫した。

慎重に慎重を重ね、準備万端で渡米したはずなのに、それでも登録に不備があった。挙句には初日に医局に行くと「あれ?今日からだっけ?」と言われる始末。
思い返せばつくづくトラブル続きであった。

大変なこともあったが、自分から積極的に動いて交渉することで一つ一つ解決できたように思う。

例えば前述のScrub testの件では、病院が設定している試験日が限られていて、それを待っていてはいつまでたっても手術室の遠くから眺めることしかできない。 留学期間が限られている事情を話し、自己学習して個別に受けさせてもらうことができた。

やはりここでも重要なのはコミュニケーションなのだ。


病院のシンボル ドーム

受け入れにご尽力いただいた、Malcolm Block先生のご家族と一緒に