脳神経外科学講座

時代を経て変化する脳神経外科領域
小児患者が多い脳腫瘍の治療・研究に取り組み続ける女性医師

脳神経外科
近藤 聡英 教授×鈴木 まりお 特任准教授

脳神経外科

これまで脳神経外科は長時間手術が多く、体力的に厳しい診療科と言われてきました。しかし近年、診断技術とデバイスの進化により手術時間が短縮され、活躍する女性医師も増えてきています。2020年10月に同科主任教授に就任した近藤聡英先生と、特任准教授の鈴木まりお先生が、脳神経外科のやりがいや魅力について語ります。

疾患と術式の多様さが
脳神経外科学を学ぶ魅力

平澤 まず、脳神経外科分野の特徴や魅力について教えていただけますか?

近藤 脳神経外科疾患は、患者が抱える状況によっては変化が劇的で、その症状が生活の質にダイレクトに影響します。また、結果として、画像や患者さんの症状から自分の治療結果を評価しやすいことが特徴です。生活の質の変化については、患者さんから直接フィードバックをいただくことができるのも魅力だと感じています。
一方で脳神経外科は外科系の中で唯一、臓器全体を見ることができない分野です。常に小さな穴や入口から患部を部分的に見つつ、全体に起きていることを推測する必要があり、そこに難しさがあります。しかし、事前に十分な準備をすれば克服できる難しさのため、面白さのひとつともいえます。

近藤先生

脳神経外科科学講座 近藤 聡英 教授
鈴木 私は疾患の多様性を学べることが脳神経外科の面白さだと思っています。脳神経外科が対象とする疾患は、動脈瘤や脳卒中、外傷などの救急疾患が代表的ですが、それ以外にも脳腫瘍やてんかん、脊髄外科疾患、老年医療など、多くの疾患がありますし、脳腫瘍ひとつ取り上げても病理組織像の多様性があって、治療の組み立て方がそれぞれ異なり非常に興味深いです。手術のバリエーションも豊富で40~50種類の術式があります。毎日同じ手術をすることはなく、常に違う手術のことを考えるので飽きることがありません。専門医試験前には、脳腫瘍の外科手術だけでなく、化学療法や放射線治療の難しさであったり、疾患の発生に関与する分子生物学的側面を学び、実際に患者さんに適用されるところを目の当たりにしました。そのとき強い興味を覚え、現在までこの仕事を続けています。

鈴木先生

脳神経外科科学講座 鈴木 まりお 特任准教授
平澤 お二人が脳神経外科医を目指されたきっかけを教えていただけますか?

近藤 学生時代、私は放射線科医になるつもりでした。しかし、最後に指導教員から「もう少し患者さんのそばで経験を積んだほうがいい」と助言をいただき、もっとも密に患者さんのそばにつける科ということで脳神経外科へ行きました。そこで、脳神経外科の魅力に改めて気づき、そのまま居座っています(笑)。

平澤 かなり大きな転換ですね。鈴木先生はいかがですか?

鈴木 学生の頃、脳外科の手術を見学して大きな衝撃を受けました。その頃から脳神経外科学への興味が湧いて、初期研修を順天堂大学静岡病院で行いました。当時は数日間病院に泊まりっぱなしなど、体力勝負の部分も多々ありましたが、多様な疾患を経験し、さらなる興味を抱くきっかけとなりました。周囲の先生方からの励ましやアドバイスも多くいただきましたが、最終的には、「自分が興味を持って続けたいと思うこと」を主軸に診療科を決定しました。入局時には1学年上に女性の先輩がいらして、2人でモチベーションを高め合っていました。

技術の進歩により手術時間が短縮
脳神経外科における働き方改革

平澤 今、お話に出たとおり、脳神経外科は手術時間が長くて体力面が厳しく、以前は女性医師が少ない診療科だったと思いますが、現在は変わってきていますか?

鈴木 昔は脳腫瘍の手術といえば30時間超の長時間手術が多々あり、男女関係なく体力仕事でした。現在は、先人たちの功績によって手術時間は短縮され、1日に複数件の手術を行うようになっています。解剖学的な構造や脳神経機能の解明による手術アプローチの確立や、顕微鏡やその他のデバイスの発達が大きな要因です。だからといって、女性医師数が倍増とはいきませんし、まだまだ周囲からの「大変で辛い診療科である」という認識は残っています。けれども、徐々にイメージアップを図り、魅力をアピールしていきたいと思います。

手術の様子

脳神経外科の手術の様子(手前右が近藤教授、左が鈴木特任准教授)
近藤 手術に関して補足をすると、診断技術の向上により手術で開窓すべき範囲が狭まり、手技の数やステップ数が減ったことで時間が短縮されました。また、穴を開けるときや出血を止めるときの道具の発達や、手術操作する際の視野の改善によっても手術時間は短縮されています。手術時間が短くなると、当然ながら患者さんへのご負担を圧倒的に減らすことができます。加えて鈴木先生は、画像の読み方が上手いという強みを持っており、結果的に体力を温存できることから、難易度の高い手術にも積極的にかかわることができ、講座全体に良い波及効果を及ぼしてくれていると思います。

平澤 今後のさらなるワークライフバランスの向上についてはどのようにお考えですか?

近藤 今回、主任教授に就任するにあたって、他の大学病院などのやり方を参考にして勉強をしました。ただ、それらを本学で同じように真似をすることは難しい。あれこれ考えてみた結果、現在のスタイルの中で全員がやりやすい環境を作れば良いのではないか、という結論に達しました。鈴木先生は仕事中心でありながら、プライベートへの切り替えが上手にできます。そういった点で、今後の教室環境の作り方の良きモデルだと思っています。

近藤先生

平澤 お話を伺っていると、鈴木先生の優秀さが伝わってきますね。

近藤 鈴木先生は能力が高く、とりわけ興味がある分野への推進力は桁が違いますね。興味があることは何時間でも調べていて、それが結果につながっています。講座の中でも圧倒的に仕事量が多いので、自分のタイミングで仕事からプライベートに切り替えてもらえれば良いと考えています。鈴木先生がしないことにはそれなりの理由があると思いますし、残った仕事はできる人がすれば良いだけのことです。

鈴木 ありがとうございます。オフの時間は相変わらず少ないのですが、以前と比べると今は上手に時間を活用することができるようになってきています。普段から臨床の業務がない時には、「もうおしまい!」とスイッチを切り替えて、研究や教育にも時間を充てるようにしています。

平澤 脳外科医としては、どのような能力を身につけていく必要があるのでしょうか?

近藤 AI技術の進歩が目覚ましい今、現場で必要とされるのは自らの領域における専門性のみでは十分とは言えず、コミュニケーション力や総合力が必要となっていると感じています。鈴木先生は主に小児の患者さんを担当しているのですが、脳腫瘍のお子さんを持つお母さん方に男性医師とは異なる話し方で接しています。小児の脳神経外科における力量はある程度に達していますし、コミュニケーション力と総合力で信頼を得ているのではないでしょうか。

鈴木 ご両親はお子さんの将来をとても気にかけていらっしゃるので、私の経験だけでなく、他の先生方のご経験や過去の記録、長期フォローの文献などを参考にし、それらを踏まえて将来どのようなことが起こり得るのかご説明をしています。大変残念なことですが、なかには長く生きることができないお子さんもいらっしゃいます。そのことを本人や両親、きょうだいといった家族に適切な形で伝え、精神的な負担の軽減を図るとともに、限られた時間のなかでどのように最期を迎えさせてあげるかを決めて進めていかなくてはいけません。そのためには、必要なことをきちんと伝え、お子さんや保護者の方に寄り添った対処に徹することが医師の務めだと考えています。

外科学の面白さ・手術の楽しさを
後進に伝えていきたい

平澤 ここで近藤先生からリーダーとして鈴木先生に期待されていることをお聞かせいただけますか?

近藤 特任准教授に就任してから、鈴木先生は以前よりも若手をケアするようになりましたね。仕事の魅力を自分一人で感じているのではなく、人に魅力を感じさせるステップに徐々に入ってきているようで、今後が楽しみです。また、特任准教授に就任したことで、より責任のある立場で患者さんを受け持つようになりました。患者さんやご家族と真摯に向き合い、あらゆる状況の患者さんに対応し、関わっていくという意味で成長ができてきているのではないかと思います。

鈴木 ありがとうございます。特任准教授という立場になって、これまでの臨床中心の生活から、後輩指導や学部生への教育など幅広い仕事が求められるようになったことを実感しています。今後は教員として、外科学の面白さ・手術の楽しさを学生に伝えていきたいと思っています。

鈴木先生

平澤 最後に、次世代の若手医師へのメッセージをいただけますか?

近藤 近代脳神経外科は、この50年で目覚ましく変化しました。そして、今も変化をし続けていると感じます。私自身の手術も5年前と今では異なることがたくさんあります。今後の脳神経外科をさらに発展させるのは、様々な社会的背景をもった若い医師たちだと思っています。ぜひ、脳神経外科の発展に力を貸してもらいたいです。

鈴木 「頭蓋骨を開いて、その中の脳に直接的に働きかける。こんなエキサイティングなことは他に存在しない」。手術中に近藤先生が仰った一言は、妙な説得力をもって私の中に残っています。手術はひとつひとつの決まったステップをこなしていくのですが、その道は疾患や個人差による多様性に溢れ、またその回復過程においても同様で、『個』というものをまざまざと見せつけられる日々の繰り返しです。それが魅力であり、私が脳神経外科医として働き続ける原動力です。

平澤 ありがとうございました。

鈴木先生

鈴木 まりお(すずき まりお)

順天堂大学医学部
脳神経外科科学講座 特任准教授

2006年、関西医科大学医学部卒業。医師国家試験合格。順天堂大学医学部附属静岡病院初期臨床研修医。2008年、順天堂大学医学部脳神経外科学講座助手(順天堂医院、静岡病院、浦安病院、練馬病院)。2012年、日本脳神経外科学会専門医。2015年8月~2016年12月、米国Northwestern University Faculty of Medicine, Ann and Robert H.Lurie Children’s Hospital of Chicago(Visiting Scholar)。2017年2月、済生会川口総合病院脳神経外科医長。3月、順天堂大学にて医学博士の学位授与。8月、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経外科助教。2019年、同特任准教授。日本がん治療認定医。

近藤先生

近藤 聡英(こんどう あきひで)

順天堂大学大学院医学研究科
脳神経外科学 教授

1999年、順天堂大学医学部卒業。医師国家試験合格。2002年10月、順天堂大学脳神経外科学講座助手。11月、東京都立広尾病院脳神経外科主事。2003年4月、松村総合病院脳神経外科医員。12月、順天堂大学医学部附属伊豆長岡病院(現・静岡病院)助手。2004年、順天堂大学医学部脳神経外科学講座助手。2005年8月、日本脳神経外科学会専門医。9月、順天堂大学浦安病院脳神経外科助手。2007年2月、独立行政法人理化学研究所客員研究員。7月、米国Northwestern University, Children’s Memorial Hospital and Research Center(Research fellow and Visiting Neurosurgeon)。2010年、順天堂大学医学部脳神経外科学講座助教。順天堂大学にて医学博士の学位授与。2012年、順天堂大学医学部脳神経外科学講座・大学院准教授。2019年、同先任准教授。2020年、同主任教授。