呼吸器外科学講座

手術でも研究でもトップランナーへ!
外科医のやりがいと働きやすさが共存する
順天堂大学呼吸器外科

呼吸器外科
鈴木 健司 教授×福井 麻里子 特任准教授

呼吸器外科

日本有数の肺がん手術のスペシャリストとして知られる鈴木健司主任教授のもと、大学附属病院として国内トップの手術総数を誇る順天堂大学呼吸器外科。外科は手術に時間を割かれるため、女性医師が少ないといわれていますが、福井麻里子特任准教授はワークライフバランスを実現しているだけでなく手術に加え研究でも高い評価を受けています。今回は呼吸器外科の面白さや働きやすい環境づくりについて、鈴木教授とともに語っていただきました。

呼吸器外科は楽しい!
最高の手術を学びに順天堂へ

――先生方が呼吸器外科医になろうと思われたきっかけを教えていただけますか?
鈴木 そもそも私は医師になる気はなく、もともとは科学者になりたかったんです。ところが、浪人中に「防衛医科大学は受験料が無料らしい」と聞き、防衛医科大学に進学。「目の前で倒れている人を助けたい」という思いから外科領域を選びました。
呼吸器外科を選んだのは、当時教授であったの尾形利郎先生と出会ったからです。尾形先生は「医師たるもの、患者さんのベッドサイドに行かずして、処置の判断を下すものではない。自分の目でみたもの、感じたことのみ信用せよ」と、いつもおっしゃっていました。そのお言葉は今でも守り続けています。

福井 私は父が内科医、母が小児科医として地元で開業しており、幼い頃は喘息などで具合が悪くなっても母に診てもらえる安心感がありました。その後も地域で診療を行う両親の姿を見ながら成長し、「自分も将来は内科医として働くのだろうな」と漠然と想像していました。ところが、実際に臨床研修を経験したときに、「楽しさが詰まっている診療科だな」と感じたのが呼吸器外科でした。患者さんが元気になって帰って行かれることが純粋に楽しいし、いろいろな病態を考えることも楽しい。この楽しさは今でも続いています。

福井麻里子先生

呼吸器外科 福井 麻里子 特任准教授
――外科医として働きながらどのようなことをお感じになられますか?
鈴木 外科医の喜びとは、私たちの治療により、死に瀕しておられた患者さんが元気に自宅へ帰って行かれること。そんなとき、「外科医になってよかった!」と心から思います。
それに福井先生がおっしゃったとおり、呼吸器外科は確かに面白い。人間の死に際しては、心臓、肺、腎臓、肝臓の順に重要度が高いのですが、肺の科学的なエビデンスはほとんど解明されていないんです。呼吸器外科はその肺に外科学で手を加えることができる非常に興味深い分野です。それに外科の中でも緊急手術が少ないので、女性医師が働き続けやすい分野でもあります。

福井 もともと私は新潟大学出身で、結婚と同時に上京したんですが、最高の手術が学べると思い、順天堂大学を選びました。見学に来たとき、鈴木教授が若手の先生方を指導される姿、手術を細かく教えておられる様子を見て、「この環境で私も腕を磨きたい!」と思ったんです。そのような環境で、現在も技術的にも学術的にも学びながら外科医として成長できていることに喜びを感じています。

鈴木 ただし、楽しい一方で、絶対的な時間が不足していることが外科医の大変さでもあります。現在、順天堂大学呼吸器外科で行う手術は年間約800件。手術前後の処置を合わせて1件あたり5時間かかるとして、年間約4,000時間。これを3チームで分担するわけで、起きて活動する時間から手術時間を引き、残った時間から学術研究や家庭での時間をやりくりしなければなりません。

鈴木健司先生

呼吸器外科 鈴木 健司 教授
福井 私も当初は早朝から深夜までずっと病院にいる生活で、新婚の夫と過ごす時間もありませんでした。ただ、鈴木教授の手術を見られますし、医局の同僚も前向きな人ばかりで、今思い返してみても勉強できる楽しさのほうが大きかったです。

女性医師が力を発揮するには
「周囲の受け入れ体制」が大前提

――福井先生が入局されて約10年ですが、その働きぶりを鈴木先生はどのように見ておられますか?
鈴木 呼吸器外科の医局員は頑張る人ばかりですが、その中でも福井先生は人の3~5倍頑張っていますよ。手術だけで年間1,000時間以上費やす中で、家事や育児もしながら論文も相当な数を書いていますから。

福井 忙しさの中にも、楽しく仕事をさせていただいています。ただ、患者さんが元気になられたのが自分の手術のおかげだったら、もっとうれしいのですが。鈴木教授はそういうご経験が多いでしょうが、私はまだまだ修行中です。

呼吸器外科_手術の様子

呼吸器外科の手術の様子
鈴木 その「自分はまだまだ到達できていない」という気持ちが大事なんですよ。外科医になって5年ぐらい経つと、ひととおりの手順を覚えて「自分はできる」と思い込む人がいますが、そうなると伸びない。福井先生は一般的なレベルに達しているのに、「まだまだ」と考えているところが素晴らしい。外科医は1,000症例の手術を担当し、自分の考えと責任で執刀したところがスタート地点だと、私は考えています。手順を覚えるのはもちろん、同じ手技をどれほどの精度で行えるかが重要です。
ちなみに手術を行う医師として、当科のカンファレンスでは「ガイドラインにより〇〇です」という言葉は禁句です。ガイドラインを踏まえた上で、さらにその上を行くベストな治療法を考えるのが我々のモットー。昨日もステージⅢBの肺がんの患者さんの手術がありました。ガイドラインではステージⅢBの手術は勧められていませんが、そのままではほどなく患者さんは亡くなってしまわれます。他の病院なら断られている患者さんを我々は救いたい。そのため、「患者と医師がリスクを共有し、ともに乗り越えていくこと。代替治療がない場合は、どんなに難しい状況でも手術にトライすること」を方針としています。
――福井先生は現在、6歳・3歳・1歳半のお子さんを子育て中とお聞きしています。どのようにワークライフバランスを保っておられますか?
福井 限られた時間を有効に使うためには、周囲の環境づくりが非常に大切です。私の場合は、ある程度の制約の中で働くことを上司や同僚や後輩が認めてくださっていること、夜遅い手術や海外の学会への出張を夫や夫の家族がサポートしてくれることが大きいと感じています。子どもたちも長時間対応の夕食付きの保育園に預けることができて、とても助かっています。

鈴木 私は以前、日本医師会の「女性医師の勤務を考える会」の一員でした。そのとき、全国からさまざまな事例を集めて検討したのですが、女性医師が働き続けるためにもっとも必要なものは、「周囲の受け入れ体制」です。とにかくこれが大前提で、それがないと女性医師が力を発揮できる環境は作れません。

福井 順天堂大学の場合、男女共同参画推進室の取り組みで、子育て中などの女性研究者の研究をサポートする研究支援員を配備してくれる制度があります。自分が手術している間にデータ整理などを研究支援員に頼めるため、とても助かっています。仕事も進みますし、論文も書きやすくなりました。

実験風景

検査の確認をする様子
鈴木 さらに、「家庭と病院の事情が重なったときは、絶対的に家庭を優先せよ」というのが我々のモットー。長時間労働は、診療や手術のクオリティを上げていけば短くすることができるはず。診療レベルを上げればいい治療ができ、手術時間を短縮できて勤務時間も短くなり、結果として家族にもいい。

福井 ただ、周囲の環境とは別に、どうしても自分の中には、「周りの方に迷惑をかけているのではないか」「自分は医師としても母としても不十分ではないか」という迷いが生まれます。そんなときは、鈴木教授が繰り返し口にされる「努力に憾み(うらみ)なかりしか」という言葉を思い出しています。「自分は充分に努力したのか」という意味で、折に触れて自分に問い直し、懸命に努力することで迷いに打ち克つことができています。

鈴木 福井先生は優等生ですから(笑)。でも、医局員の全員が優等生というわけではない。1番バッターもいれば4番バッターもいる。それが組織の強さなんですよ。

国際学会での発表も多数。
世界が注目する呼吸器外科研究

――これまでのお話で鈴木先生と福井先生が素晴らしい師弟関係で結ばれていることが伝わってきました。ここで鈴木先生の教室作りへの取り組みについて教えてください。
鈴木 教育とは、教えることではなく引き出すこと。福井先生のように、「こうしたい」と一人ひとりの医師が自律的にモチベーションを持てるように、心に灯をともすことだと思います。当科では、他の病院で見放された患者さんが元気に退院される姿を目の当たりにすることで、外科学のすごさと奥深さを知り、モチベーションを上げる人が多いですね。

福井 私は鈴木先生に出会ったことで、日本の医療が世界最高峰であること、それまで読む側だった論文を自分が執筆し、発信できる立場になれることを教えていただきました。

鈴木 若手の先生方には世界的な学会での発表も経験できるように配慮しています。いわゆるカバン持ちではなくて、若手自身が発表しないと行かせません(笑)。

福井 私も呼吸器外科学会や世界肺がん学会などで、何度か発表させていただきました。どの学会でも、自分たちの医療や研究が興味を持っていただけることがわかりました。

学会

出身大学のある新潟県の学会で座長を務める福井特任准教授
鈴木 福井先生の発表はかなり反響があるんですよ。とくに間質性肺炎―昨今では新型コロナウイルスが引き起こすとされて話題になっていますが、この研究に関しては、世界でもトップランナーでしょう。それも患者さんを実際に診ることによって生まれる疑問に、科学的手法を持って応えている。つまり、前例のない研究になるんです。福井先生はSlow but Steadyで、爆発的な勢いはないが、いちばん高いところへ行けるタイプですね。もちろん、全ての医局員に同じことを要求するわけでは決してありませんが、福井先生にとって特任准教授はあくまでもステップで、もっと上に行かれる方だということです。

福井 ありがとうございます。今後もたくさんの症例に出会い、その状況を最前線で見たいですし、万一マイナスの事態が起きてしまったら自分がリカバリーできるようになりたいと考えています。ワークライフバランスとの葛藤はもちろんありますが、鈴木教授がおっしゃった効率化や、社会・医療システムの変化などもありますので、私たちも自ら環境を変えていきたいです。

対談

――最後に、これから外科医を目指す方へメッセージをお願いします。
福井 自分の中に限界をつくらず、最良の医療を提供したい気持ちを大切に頑張っていただきたいです。私たちもより良い社会や環境を作れるよう努力しますので。
そして順天堂大学呼吸器外科は働きやすさという面でもお勧めです。鈴木先生のもとで働きたいという医局員が集まっているためか、前向きに努力する人が揃っているんです。これも、鈴木先生が日頃から医局員のモチベーションを高めてくださっているおかげだと思います。

鈴木 「臓器がある限り、外科学はなくならない」という言葉があります。内科医療がいくら進歩しても、外科学を絡めないと医学は進歩しません。呼吸器外科は喘息治療など呼吸器内科も包含し、手術も研究もできる領域。非常にロマンとやりがいのある領域だとお伝えしたいです。

鈴木健司先生

鈴木 健司(すずき けんじ)

順天堂大学大学院医学研究科
呼吸器外科学 教授

1990年、防衛医科大学校卒業。医師国家試験合格。1991年、防衛医科大学校臨床研修医。1993年、US Navy潜水医学課程修了。1995年、国立がんセンター東病院非常勤医師。1997年、同がん専門修練医。1999年、国立がんセンター中央病院呼吸器外科医員。2007年、同呼吸器外科医長。2008年、順天堂大学医学部呼吸器外科教授。日本呼吸器外科学会賞、癌学会奨励賞、日本肺癌学会 篠井・河合賞など受賞多数。

福井麻里子先生

福井 麻里子(ふくい まりこ)

順天堂大学医学部附属順天堂医院
呼吸器外科 特任准教授

2005年、新潟大学医学部医学科卒業。医師国家試験合格。新潟大学臨床研修病院にて初期臨床研修医。2007年、同医歯学総合病院第2外科入局。2008年、新潟県立中央病院胸部外科。2009年、新潟県立がんセンター新潟病院呼吸器外科。2010年、順天堂大学医学部附属順天堂医院呼吸器外科助手。日本外科学会専門医取得。2013年、呼吸器外科専門医取得。2015年、順天堂大学にて医学博士号取得。同医院、呼吸器外科助教。2019年、同特任准教授。