オープニング対談

女性リーダーの存在による医科学領域の変容を目指して

男女共同参画推進室副室長
三宅幸子教授×平澤恵理教授

オープニング対談

2019年11月、10名の女性助教が特任准教授に任命されました。今後10回にわたり、今回昇任した特任准教授と、その上司である教授との対談を通して、互いの想いや、診療科での取り組みについてお届けしてまいります。
今回はオープニング対談として、男女共同参画推進室の三宅幸子・平澤恵理副室長が「医科学領域における女性の活躍~過去、現在そして未来~」をテーマに、女性医師のあり方について語り合いました。

女性医師が少なかった時代を超えて

── 本日のテーマは「医科学領域における女性の活躍~過去、現在そして未来~」となっております。はじめに、三宅先生と平澤先生には、ご自身の学生時代を振り返っていただきたいと思います。
平澤 私が大学受験をした1980年前後は、国公私立を問わず、医学部における女子学生の割合は10%程度だったと思います。少数派として、自分を律しながら勉強をし、志を高く持たないと医師になるのは難しい時代でした。そのような中、私は一生働き続けられる医師の仕事に魅力を感じ、医学部に進むことを決めました。
 
三宅 私の通っていた高校では、主に医者を家業とする生徒が医学部を受験しており、そうでない人で医学部を希望する人はごくわずかでした。女性医師は珍しく、社会的にも女性医師に対して「似つかわしくない」という見方が残っていたと思います。

平澤 そもそも、時代は男女雇用機会均等法施行の前で、女性の一般雇用は少なく、手に職をつける、いわゆる「師」が付く職業が女性にとって一生働き続けられる魅力的な仕事でした。その中でも、医師は挑戦しがいのある魅力的な職業だと感じ、医学部進学を決めました。ただ、そのような時代背景でしたので、医学部を受験する際に、自分の将来に「医師」か「結婚」かの二者択一を迫られるような気持ちになったのも確かです。

平澤恵理教授

男女共同参画推進室 平澤恵理副室長
三宅 私は当時、東京医科歯科大学に通っていました。医学部生の間は男女平等でしたが、診療科を選ぶときに女性が外科へ進むことは難しく、外科系では眼科や耳鼻科など一部の医局が受け入れてくれるのみでした。ライフイベントなどで長期休暇となった場合に備え、他の先生方に負担がかかりにくい診療科を選ぶ傾向にあったことも一つの要因かもしれません。

三宅幸子教授

男女共同参画推進室 三宅幸子副室長
── そのような環境の中でも、お二方ともに医師の道に進まれたんですね。
三宅 そうですね。病院勤務が始まってからは、私なりに女性が医療現場で働くことの難しさを感じたこともありましたが、当時は、一般企業でも、女性は採用しないとか、結婚で退職するのは当たり前という風潮でしたから、医師だけが特別ということではなかったと思います。
時代が進み、今は女性を取り巻く状況が大きく変化しました。女性医師が働きやすくなってきているのはうれしいことですね。

「働き続けること」から「上位職へのステップアップ」へ
女性リーダーの存在で大学・医師の働き方に変化を促す

── 男女共同参画推進室が開設され、そして今回、女性特任准教授10名が誕生しましたが、その背景をお話しいただけますか。
平澤 男女共同参画推進室が開設して、今年度で10年目になります。女性医師の下支えとして、まずは「辞めない」ことを啓発し、次に仕事を「続ける」ように訴え、そして「キャリアアップ」を目指すようにサポートする、というように視点を移してまいりました。そして現在、東京医科歯科大学と株式会社ニッピバイオマトリックス研究所と共同で採択をされている文部科学省「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(連携型)」の一環として、本学が目指していることが女性医師の「上位職」へのステップアップです。女性医師を「上位職」へ押し上げて発言権を持たせることで、女性リーダーの考えが現場に浸透し、働き方改革を推進する上でも牽引力になると考えました。
2018年度「男女共同参画の推進に係る学内上層部との意見交換会」で当時の医学部長より10人という数字をご発案いただき、すぐに学長、理事長からご理解が得られ、今回の10名の女性特任准教授が誕生しました。

特任准教授就任式

2019年11月に行われた特任准教授辞令交付式にて
三宅 そうでしたね。本学の良さの一つに、理事長先生、学長先生、医学部長先生等をはじめ幹部の先生方が私たちの声をよく聞いてくださることが挙げられます。今回の取り組みでもそれを強く感じました。
働き方改革と言っても、各診療科によって事情が異なりますので、お互いにアイデアを出し合い、情報共有しながら進めていきたいですね。

平澤 今回の任命によって、本学ではほぼ全診療科に女性上位職が配置できたことになり、診療科固有の課題を議論し、有効な取り組みを他診療科と共有する仕組みが整ったことになります。この取組が各診療科における働き方改革の契機になると良いですね。

三宅 若いうちに一度上位職を経験し、弾みをつけてもらいたいという思いもあります。全員が上位職に就くことは難しいことですが、ステップアップを促す環境をつくることで、ポジティブアクションになったケースもあります。

特任准教授ミーティング

特任准教授就任直後に実施された学長とのミーティング
平澤 ポジションが人をつくると言われているように、上位職に就くことで、学会で座長を任されることもあるでしょうし、箔が付くことで外部へのインパクトもあります。部署内でも発言権を持ち、自分の仕事に自信を持ってほしいという思いもありますね。
── そういった周囲の期待の中で、今回の対談企画がスタートいたしました。企画の目的についてお聞かせください。
平澤 特任准教授の先生方が、上司である教授との相互理解の上で、働き方改革に取り組んでいる姿を発信することは、現場で働く他の女性医師たちへのエールになります。
また、昨今は女性医師のプレゼンス(存在感)が多く取り上げられています。女性医師が担当した患者の死亡率・再入院率が低いことを明らかにした論文が発表されるなど、女性医師の良さも科学的に明らかにされてきています。今回の企画を通じて、女性医師が医療現場にもたらすメリットを明示することで、女子学生や研修医の皆さんが、医師として活躍したいと思えるきっかけになることを期待します。
三宅 女性医師には一般的に「ロールモデルが少ない」と言われています。女性医師の先輩の数が少ないので、将来に対する不安があり展望が描きにくい。そういう意味では、女性医師として、いろいろな道があることを示せるだけでも効果があると思いますし、刺激を受けてくださる方も多いのではないでしょうか。

グッドプラクティスの「見える化」と「シェア」を
カレントベストを目指して

── 女性医師の活躍に期待するとともに、その活躍の流れを受けて、今後の医療現場にどのような変化を期待しますか。
三宅 現在、働き方改革が声高に言われていますが、これまでも女性は仕事と家庭の両立については、さまざまなノウハウを持ってやってきました。女性が活躍できる病院、もしくは企業であれば、男女ともに仕事とプライベートを充実させることが可能だと考えます。効率的な働き方のシステムが構築できれば、医療界全体にとってプラスになるはずです。

研究室の様子

免疫学の研究室で研究指導にあたる三宅教授
平澤 一つの大学で上手くいけば、「見える化」によって他の大学も追随するでしょう。まずは診療科内でのグッドプラクティスを学内でシェアし、さらに他大学の同じ診療科とアイデアを出し合うと良いと考えています。近々、本学と東京医科歯科大学の脳神経外科の教授対談も予定しています。女性医師の働き方について、お互いの考えやノウハウをシェアしたいと考えております。
特に、今回の上位職10名の時間の有効活用に関するノウハウは、ぜひ紹介したいですね。
 
三宅 私はそれと同時に、男性医師の働き方も見直す必要があると思っています。海外では、男性医師が「今日は子どものお迎えなので」と言って退勤するのはごくごく普通なことだそうです。日本でも育児に積極的な男性が増え、働き方改革が広がりつつありますが、課題はまだ残っていますので、これからの改善に期待したいですね。

男女共同参画推進室シンポジウム

平澤教授が司会を務める男女共同参画推進室主催のシンポジウム
── 今回、新たにはじめた「特任准教授」に関する取組の今後の展望についてもお聞かせください。
平澤 現在、本学では95%以上の診療科に女性上位職がいます。まずは、任命された10名の間でコミュニケーションを取り、考え方の方向性が見えた上で、大学全体に拡げ具体的に取り組んでいきたいですね。
 
三宅 今後、定期的に意見交換を行う予定なので、そこへ他の先生方にも入っていただき、別の視点からの意見を伺う機会も設けていきたいですね。
── 女性上位職の活躍が期待されますが、今後の女性のリーダーシップについてはどのようにお考えですか。
三宅 「女性がリーダー職に就くことに何の違和感もない」という雰囲気を学内につくってほしいと期待しています。女性だからというよりは個人の能力を十分に発揮してもらい、それに伴って周囲の環境が整っていけばいいですね。
 
平澤 一般的に、女性はマルチタスクで目配りができると言われていますが、10名の先生方は自分のチームメンバーに気を配りながら、細かいことに気づける優秀な方ばかりです。そんな方々が上位職に就いたときに、どんなチームづくりができるのか楽しみです。
 
三宅 私たちはこの事業を通じて、女性医師の道筋を付けようとしていますが、今後、時代が進めば、その時の人たちが時代に即して、新しい道筋を考えるでしょう。カレントベスト、その時に一番いいと思うことに取り組んで、次の時代にバトンを渡せばいいと考えています。新しい時代に期待しています。

オープニング対談

── 今日はとても有意義なお話を伺いました。今後の対談企画を楽しみにしたいと思います。ありがとうございました。

三宅幸子教授

三宅 幸子(みやけ さちこ)
 
順天堂大学大学院医学研究科
免疫学 教授
順天堂大学男女共同参画推進室 副室長

東京医科歯科大学医学部卒。順天堂大学にて内科臨床研修後、膠原病内科に入局し、同大学院卒業。リウマチ専門医を取得後、米国ハーバード大学リウマチ免疫アレルギー科に留学。帰国後1999年より国立精神神経センター免疫研究部室長。2013年に順天堂大学医学部免疫学教授に就任し、現在に至る。専門分野は免疫学。「自己免疫疾患の病態解明と新規治療法の開発」と「神経と免疫のクロストーク」を中心に研究を進めている。

平澤恵理教授

平澤 恵理(ひらさわ えり)
 
順天堂大学大学院 医学研究科
老人性疾患病態・治療研究センター 教授
順天堂大学男女共同参画推進室 副室長

神経内科専門医取得後、1990年より国立精神神経センターにて筋疾患の病態解明を行い、細胞、遺伝子治療の研究に関わる。基底膜の組織発生、再生における機能に興味を持ち、米国国立衛生研究 所(NIH)に留学。NIHではパールカンのノックアウトマウスの作成、解析から新しい機能の発見と2つの予後の異なるヒト遺伝性疾患の同定を行い、論文を精力的に発表した。以降、パールカン分野研究の第一人者となる。現在、老人性疾患病態・治療研究センターにてパールカンの筋収縮に関わる分子機構、神経新生と老化に関わる基礎研究に従事している。