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適材適所で活躍する医療の現場 ―

医学部泌尿器科学講座
堀江 重郎 教授

今回は医学部泌尿器科学の堀江重郎先生にインタビューさせていただきました。

文系志望から医学部志望へ

高校時代は国語が得意で、高校3年生までは文系に進学し、ジャーナリストになりたいと思っていましたが、ある日、母が乳がんだと父から知らされて、非常にショックを受けました。当時は「がん=死」というイメージで、家の中も非常に重苦しい空気になったことを覚えています。母はその当時権威のある病院で乳がんと診断されたのですが、アメリカ帰りの若い医者がいるという近所の別の病院でも受診することになりました。専門病院でも古典的な触診だけで「がんですね、手術します」と診断された時代でしたが、その医師の超音波検査によって「乳がんではない」と診断され、その結果、母は水を抜いただけですぐに治りました。

母が良くなると、皆が安心し、家中が明るくなって、私も「こんな素晴らしい職業があるのか!」と、その時すごく感動しました。それまであまり医療に関心がありませんでしたが、こんなに人が喜ぶ仕事があるのかと感じたことが医者を目指す非常に大きなきっかけになったと思っています。

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でも、突然の進路変更を家族は賛成しませんでした。親に起きた医学的な出来事で進路を決めるのではなく、自分の特長や特性を活かしなさいという気持ちもあったと思いますが、「そんな理由で医者になる必要はない」と言われると、その年頃はかえって反発するもので、私は「絶対医者になる」と決意を固くしました。

救命救急センターへ

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現在は、医学部を卒業し、医師国家試験に合格したら2年間の研修期間が義務付けられていて、この2年間で色々な分野を学んでから専門に進むという制度になっていますが、私の時代は、卒業後すぐに専門に進むことになっていました。

私は国語が得意だったので精神科に興味がある一方で、手術で病気を治す外科にも魅力を感じていました。また、臓器では腎臓の機能にも興味があったので、卒業する段階で専門を決める事ができず、同じように迷っている友達と相談して救命救急センターに話を聞きに行きました。そこで会ってくださったのがユニークな先生で、1時間ほど話したところ「明日から来なさい」と言われて、翌日からパンツ3枚だけ持って救急部に入ることになって。病院内ではずっとスクラブ(手術着)を着ていたので、パンツ3枚を洗濯すれば、服は必要なかったんです。確か5月くらいに入り、最初に外出した時には梅雨が明けていたと思います。その間、ずっと病院内に住んでいました。

救急医療というのは5秒、10秒でその人の生死が変わってくるので、瞬間的な判断が必要です。加えて「こうなると人間は生きていられない」ということも判るようになります。多くの患者さんは事故などで意識が無い状態で運ばれて来て、少し良くなると他の科や他の病院に移るので、患者さんから「良くなった、ありがとう」という言葉を聞けることはあまりありませんでした。そうして1年間、救急医療に携わりましたが、もう少し長いスパンの医療をしたいと思うようにもなりました。かねてから腎臓への興味があったことや、当時は腎臓移植が最先端の花形でもあったこともあり泌尿器科を希望したことが今につながっています。

泌尿器科とは

泌尿器科では、ホルモンに関すること、尿に関連する臓器に関わる病気を専門に扱います。私が医師になった頃「日本人は心筋梗塞・糖尿病・前立腺がんにならない」と言われていましたが、ついに2015年、前立腺がんが日本人男性に最も多いがんになりました。

私が医者になって30年ほどですが、その間に泌尿器科は大きく変わりました。泌尿器科のがんには腎臓がん、前立腺がん、膀胱がんがありますが、今では、手術支援ロボット「ダヴィンチ」やレーザー治療、内視鏡を使った傷口の小さい手術もできるようになり、薬の開発が進んだことによって、たとえ転移しても以前より長生きできるようになりました。医学の進歩はどの分野も目覚ましいですが、特に泌尿器科は30年前と今では格段に違います。

igakubu_Dr.Hoie_04オペ室でダヴィンチ手術をする堀江先生(左)

医学は基本的に男性の体を標準としていますが、その反省から女性医学がこの15年ほどで進歩してきました。一方で男性特有の病気に対する啓発や啓蒙はあまり行われておらず、日本人男性に関しては、あまり人に頼らないという傾向もあってか、早期治療の機会を逃し、悪化してから受診する人が多いのが現状です。 泌尿器科分野の「がん・移植医療・男性医学」の3つの中でも、依然として遅れているのが男性医学で、特に日本は世界の中でも後れを取っています。ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアでも病院に「男性科」がある中、日本ではまだ少ないですが、順天堂の泌尿器科では「メンズヘルス外来」として、力を入れています。また、順天堂には女性泌尿器科外来があり、泌尿器科でも最近は女性医師が増えています。女性医師の場合は、医師としてのキャリアと同時に家庭を持つ、 母親になるというライフスタイルもありますが、泌尿器科はがん医療、男性医療、移植医療、排尿問題と専門が幅広いので、スペシャリスト、あるいは総合的に泌尿器の不調を判断するジェネラリストとして活躍することができると思います。

順天堂で働く魅力

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「病んだ人を医師が診て、適格な判断を下して治す」のが医療の基本ですが、チームでこのプロセスをより潤滑に行うことが大事です。医師・看護師・検査技師・放射線技師など多業種のチーム、外科医・内科医・痛みをとる専門医のチームなど、様々なスペシャリストが協力し、意見を述べ合いながら、患者さんと情報を共有して最善の治療をしていくのが、いま理想とする良い医療だと思っています。

順天堂の最大の特色・強みは、チームワークにのっとった非常に良い医療ができるということですね。ロボットを使った手術でも、色々な臓器の機能をなるべく落とさないよう、患者さんの体の負担を少なくすることを心がけて、良い チームワークで世界最高水準の治療をすることを大事にしています。

また、国内だけでなく国外の専門家とも共同研究も進めています。海外の大学病院などに行って専門的な意見交換をしたり、海外から医師を招いて技術や知識を交換しながら順天堂で一緒に手術をすることもありますが、新しい発見があるなど非常に面白いです。順天堂医院は、国際的な医療の基準とされているJCI(Joint Commission International)認定を取得していますが、世界最高水準を目指す病院は、国際的に協力し合う必要があり、現在は世界トップの病院同士の連携が強くなっています。

医療の原点

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本質的な医療というのは苦痛を取り除くことや、救命のための救急医療からスタートしていますが、今の医療は「このまま放置すると悪化するので、早めに手を打ちましょう」というものもあります。痛くもないのに手術することを、どう説明して患者さんに納得していただくか。そのためには患者さんとの人間関係、信頼関係を構築するコミュニケーション能力も1つの大事な要素になります。また、医療従事者にとって良い治療法が、患者さんにとって良い治療法とは限りません。

食い違う時には相談し、患者さんのライフスタイルを尊重することもあります。生活から改善していくために、患者さんにある程度負担を強いなければならないこともあるので、やはりコミュニケーションをとっていくことが必要だと思います。ただ、患者さんとのコミュニケーションが不得意な人もいますが、例えば救命救急医療のように患者さんとの意思疎通よりも瞬時に適切な判断をする力の方が必要な場所もあります。適材適所で活躍できる場があるというのが医療、医学部です。

順天堂の医学部

順天堂のユニークな試みに医学部1年生の寮生活がありますが、寮で他人と生活するのはやはり非常に良い経験だと思っています。集団の中で楽しく生活していくための距離感やコミュニケーションの取り方など、非常に多くのことを身をもって学ぶ良い機会です。

入学したら、勉強は大変だけど、クラブに入ってほしいですね。例えば順天堂交響楽団や、熱帯医学研究会など、運動部以外にもいろいろなクラブがあります。

先輩、後輩、そして同級生というのはとても大切な自分の財産になるはずです。医学部というのは少し特殊で、同じ勉強をした仲間がそのまま同じ職場で勤めたり、専門分野は分かれても病棟や食堂で会うことがあったり、学会でも同級生や先輩に会ったりします。これは他の学部ではあまりないことだと思います。同級生やクラブの仲間というのは無条件で信頼し合える貴重な仲間です。

順天堂で学ぼう

日本に素晴らしい大学はたくさんありますが、順天堂は今、日本だけではなくアジア、世界の中でトップの大学を志向しており、それを達成しうる状態です。順天堂は江戸時代に医学を志す人が集まってできた塾からスタートしたという歴史があり、順天堂で学び、やがて順天堂のために皆で貢献することで順天堂の医療と科学の水準はどんどん上がってきました。粗削りでもいいから是非チャレンジ精神溢れる学生に応募してほしいですね。

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医学部泌尿器科学講座 堀江 重郎  先生 経歴
1985年東京大学医学部医学科卒業、1993年医学博士
テキサス大学、東京大学、国立がんセンター、帝京大学等を経て、2012年順天堂大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授